映画「ホステル」このゲロは今まで見たものとは違う
小学生になる前は「白雪姫」の魔女が怖かったし、小学生になっても「学校の怪談」すら一人では見ることができなかった。当時スティーブン・スピルバーグ監督にはまっていた両親と見た「プライベート・ラインアン」ではトラウマ級の衝撃を受け、小6の私は「本当の戦争を知ってしまった俺」というような立派な中二病予備軍に仕上がった。
そんな私だが大人になるにつれ色々な作品と出会い、少しずつホラーというか、人が残虐に殺されるシーンが見どころの映画も見られるようになってきた。
今日語りたい作品はその中でも特に気に入っている映画「ホステル」のワンシーンだ。
有名な作品なのであらすじについて語るつもりはないが、ゲストに「スーツ」のリック・ホフマンが出演しているのでそちらを先に見ている人は微妙に和むかもしれない。
さて、私がこの映画を好きな理由はたくさんあるのだが、特に気に入っているのが「嘔吐」、つまりゲロのシーンの素晴らしさである。
思うにアメリカ人はみんなゲロが大好きだ(偏見)。
ギャグシーンのオチでは日常的に使われるし、新人の肩書を持つキャラクターはたいてい最初の現場でゲロを吐く。
ひとたびティーンが酒を飲めば酩酊して部屋中にまき散らすのは当たり前だし、うっかり意中の相手にぶっかけるなんてのもあるあるだ。
そんな感じで常にギャグパートを担い、どこかお約束のような立ち位置だったゲロだが、この「ホステル」では新しく、かつ印象的なものに仕上がっている。
この映画で妙ゲロ(絶妙なゲロ)を放ったのはジェイ・ヘルナンデス演じるパクストンというキャラクターだ。
椅子に縛り付けられ、自分を殺すために大金を払った男にハサミで恐怖を煽られた後、謎の鉤爪のようなもので体を刺されるパクストン。
必死に現地の言葉で殺さないよう懇願したところ、耳障りに思った男は怒った様子で別の部屋から猿ぐつわを持ってきてパクストンにはめたのだった。
究極の恐怖と絶望の中、泣き叫ぶパクストンは男が手にしたチェーンソーを見ていよいよパニックに陥る。
そして自分にこれから起こる凄惨な未来に直面したパクストンは恐怖のあまり猿ぐつわをはめたまま嘔吐してしまう。
ここだ。
ここのゲロシーンがものすごく気に入っている。
今まで私が見たゲロはギャグかお約束が大半で、主人公が情けなくも「恐怖のあまりに吐く」といった描写は見たことがなかった。
しかしパクストンが置かれた状況を考えると「そりゃ吐くわな…」と思える、新しくも非常に自然ですんなり受け入れられるゲロだった。
ゲロに納得感を得たのは初めてだった。
しかもパクストンことジェイ・ヘルナンデスのゲロ演技がとても良く、さっきまでパクストンが殺される恐怖に慄いていたはずの私も「うわ吐きよった」と思った一瞬の後に「あ、猿ぐつわ外さなゲロが詰まって死んでしまう!もったいない!」と殺人者側の心情になるほどだった。意味が分からないが本当にそう思った。
ちなみに先に殺されたキャラも途中から口周りがゲロまみれだったのだが吐くシーンはカットされている(はず)。
私の妄想ではあるがパクストンの妙ゲロが素晴らしかったので、より引き立たせるために別ゲロをカットしたのでないかと考えている。それほどいいゲロだった。
ちなみにこの妙ゲロがきっかけとなって物語はさらに展開する。
単なる演出に終始せずストーリーにしっかり組み込まれているところもゲロに対する深いリスペクトを感じた。
ゲロひとつとっても色々と考えを巡らせることができる。映画って面白いですね。
ちなみに現実のゲロは臭くて最悪です。
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