【書評】中国が席巻する世界エネルギー市場
目下、電力制限に脚光が当たり、改めて石炭の重要性が見直されている中国ではありますが、再生可能エネルギー、原子力と技術力を上げてきており、また、石炭火力についても高効率化が進んでいるようです。
そんな中国のエネルギーに関する実態を網羅的に述べている本として、「中国が席巻する世界エネルギー市場 リスクとチャンス-技術・権益が奪われる」(日刊工業新聞社)(2019年1月発行)を読んでみました。
1.太陽光発電
(1)日本とドイツ
オイルショック直後の1973年、通商産業省が策定した「サンシャイン計画」の下で他の再生可能エネルギーとともに、日本は太陽光発電技術の開発を始めた。1990年代には普及し始め、三洋電機、シャープ、京セラが事業を成長させた。
ドイツの企業も東西ドイツ合併後の1990年代から成長しており、2000年代には、日本企業はドイツ企業に後塵を拝していた。
(※旧東ドイツの半導体産業や化学産業の集積と相性が良かったらしく、また1997年の京都議定書が弾みとなった模様)
日本企業が敗れた理由として、筆者は次のように語っている。
(2)中国企業の猛追
ドイツの天下も長くは続かず、2000年前後に中国で大勢立ち上がった太陽光発電メーカーは、まずドイツ市場を占め、その後、日本、中南米、中東アフリカでシェアを伸ばしている。
ここで興味深いのは、中国企業は新興国・途上国でも太陽光発電のシェアを伸ばしていることであり、これは温暖化の国際政治においても味方が増えるという意味で非常に大きな意義を持つ。日本もかつては京都議定書で世界の温暖化対策をリードし、途上国に対する資金・技術面での支援を行なってきてはいるものの、中国の圧倒的な「量」的支援の前に、その効果はだいぶ薄れてしまっているのではないだろうか。
ちなみに、世界の太陽光設備出荷量のトップ10は、2011年は中国企業が5社(日本企業はシャープ、京セラ)だが、2017年には9社となっている(残る一社は韓国のハンファ)。
2.風力発電
(1)欧米メーカー
①欧州:1970年代より、デンマークのヴェスタス、ドイツのエネルコン、スペインのガメサは風力発電に取り組みを開始。
(※2017年には独・シーメンスと西・ガメサの合併が成立)
(※現在、ヴェスタスは三菱重工と合併し、MHI・ヴェスタスとなっている)
②米国: 90年代に風力事業を営んでいたエンロンを買収したGEが唯一。
(2)中国
・ゴールドウィンド
・ユナイテッドパワー(国電連合動力技術:国有)
・エンビジョン(遠景能源集団:民間)
3.蓄電池
(1)著名なメーカー
あまりに著名なので、有名どころを上から数社メモのみ。
(2)中国企業の強み
蓄電池の製造に必要な、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガンといったレアメタルを抑えていることが中国企業の強みにつながっている。
リチウムの権益を持つ豪州タリソンは中国ティアンキが51%出資。
4.原子力産業
(1)中国の3大企業
①中核集団 :1999年の中国核工業総公司の分割によって誕生。
②広核集団 :1994年に設立された中国広東核電集団有限公司が前身。
③国家電投 :2015年に誕生した中国で唯一の総合エネルギー企業グループ。火力、水力、原子力、新エネを担う。
(2)進む国産化
「華龍1号」は、次の技術を持つ最新鋭の原子力発電。
5.中国の電力改革の経緯
◆1997年、「政企分離」の下で、国家電力公司を設立。発電から送電まで。
◆2002年、市場化改革の一環として、発送電分離を実施。
→結果、国家電力公司は以下に分割。
・5大発電会社「華能」「大唐」「華電」「国電」「国家電力投資」
・2大電網会社「国家電網」「南方電網」
・設計院
・水力発電開発機構
→また、発電部門は民間の参入を可能となり、発電会社は、電力関連設備製造企業(※)から発電設備を調達するように。
※上海電気、東方電気、ハルビン電気など
→ただし、実際には、発電事業は上記5大発電会社と、地域の代表企業、原子力発電企業(中核、広核)に限られるのが実際。
6.最後に
中国のエネルギー産業の最新動向と有名企業が網羅されていて、非常に勉強になる良い本でした。
中国企業は新規参入も多く、最近の動向が気になりますので、同じ作者の続編として、次回はこちらの本↓も読んでみたいと思います。ありがとうございました。