【書評】史記(中国古典シリーズ)
前漢時代、司馬遷によって書かれためちゃくちゃ面白い歴史本の集まり、それが「史記」です。その数なんと全130編。
対象は主に、「春秋時代」、「戦国時代(漫画キングダム)」、「秦」、「前漢」のみ(本当はもっと昔の時代も書かれています)。ただ、これだけでもざっと500年はあるので、歴史書としては十分な量かも知れません。
しかも「史記」は、単純に読んで眠くなる歴史の教科書のような事実の羅列ではなく、読者が興味を持って読むことができる工夫が施されており、所々読み聞かせ口調になったり、英雄を中心に物語をつくったりと、「古典」で「歴史」なのに「面白い」です。
1.「史記」の作者:司馬遷
「史記」の作者である司馬遷については、異民族退治に出かけて負けた武将(李陵)を庇って当時の皇帝の怒りを買ってしまい、死ぬか宦官になるかで宦官になった人、くらいはご存知の方が多いかも知れません。
実は「史記」は司馬遷のお父さん(司馬談)から引き継がれた偉業だったのでした。司馬談が他界する間際に、仕事の合間を縫って続けていた歴史書の編纂を司馬遷に託しており、その後数年経ってから司馬遷は「史記」の編纂に当たったとされています。既に司馬遷42歳。40歳を超えてもなお情熱を注ぐ様は見習いたいものです。
2.「史記」の構成
「史記」は全130編で構成されていることは既にお話ししました。大きく5つに分かれています。
3.「史記」を楽しく読める本の紹介
角川ソフィアのビギナーズ・クラシックスシリーズ、「史記」です。
この本では2つの「列伝」と1つの「本紀」が紹介されています。
●「伍子胥列伝」
春秋時代末期、楚の国に生まれ、呉の国にたどり着いた武将(伍子胥)の物語。
孫子の兵法の「孫武」や、「呉越同舟」、「臥薪嘗胆」、「会稽の恥を雪ぐ」などの故事が紹介されます。
●「魏公子列伝」
戦国四君(斉・孟嘗君、趙・平原君、魏・信陵君、楚・春申君)のうち、信陵君についての列伝です。戦国四君は大勢の客士を雇っていざというときに助けてもらうという名士の印象がありますが、それぞれ歴史を調べると、信陵君以外はあまり大した活躍もなく、よって司馬遷も信陵君のことを四君の中でも最も高く評価しています。
そんな信陵君が、自分の客士と生死をともにし、活躍する列伝です。
●「項羽本紀」
かの有名な「項羽と劉邦」の項羽について書かれた1編です。
「鴻門の会」、「四面楚歌」をはじめ、有名どころがたくさん出てきます。
項羽と劉邦が対比的に描かれ、個人的にはどちらも応援しきれない気分になる一編です。
4.最後に感想
「史記」が描かれた前漢時代より以前の歴史だけで130編の書物を編纂するとはやはり只者ではないです、司馬遷。
今回ご紹介した角川クラシックでは、人物に焦点を当てた列伝・本紀のみが紹介されていますが、単純に物事を時系列で整理した歴史書よりも、英雄の歴史を様々な登場人物や会話調の文章も入れることで面白おかしく書き上げた司馬遷の技術に頭が下がるばかりです。
また、角川クラシックの著者である福島正さんも、丁寧に司馬遷の技術を拾い上げていて、読み飽きることなく、一気に読み上げてしまいました。
「史記」の関連本は、今後も「列伝」を中心に拾っていきたいと思います。