SUGIで5弦ベースをオーダーメイドした話
今回は楽器のお話、楽器のオーダーメイドって皆さんどれくらい興味があるんでしょうか?『あのメーカーのあのモデルが使いたい!』みたいな方も多いのではないでしょうか。実際自分も既存のモデルが好きで人生でオーダーしたのは1本だけです。もう5,6年前の話ですが今回はそのSugi Guitarsさんでオーダーした5弦ベースのお話です。
オーダーメイドの話もそうですがそれに至るまでの話もつらつら書いていこうと思います。
オーダーには消極的だった
実際はオーダーメイドには消極的でした。オーダーしたくない訳ではなく、一度弾いてみたいってのが理由です。オーダーメイドは完成するまで弾けません。もちろん一度弾いてみて微調整はいくらでもできますが根本的なところは変えられないのです。
仕事でも遊びでもこれまでたくさんのベースを試奏してきたけど楽器の当たり外れはかなり多いのです。(もちろん調整で化けたりするので私の場合試奏中セッティングを調整してもらうことも多々ありますが。)
主観的なことも多いですが自分的に大当たりなものをメインベースに迎えたいので、せっかくオーダーしたのにあんま良くなくて全然弾かないってのが勿体無いなと思い消極的なわけです。
Sugiとの出会い
そんな自分がオーダーするに至ったのはそれなりの経緯がありまして、まず1に自分が使うベースってジャズベース、プレシジョンベース、5弦ベースの3つがメインとしてよく使うものでして、
若い頃はアクティブベース(9V電池が入るプリアンプ内蔵のもの)の派手な感じが好きだったのが、大人になるにつれてパッシブ回路の方が好きになり、ジャズベースとプレシジョンベースに関しては"もう一生これでいいじゃん"ってくらいのお気に入りのパッシブ(フェンダーのビンテージ)と出会いました。
で、そうなると5弦ベースだけアクティブのままだと4弦と持ち替えたりするときの音の差があり過ぎたり、そもそも好みじゃなくなっていたりでどうにも使いにくくなってきたのです。
↑でこのSadowskyに変わる5弦を探し始めました。条件は"パッシブの5弦ベース"。そもそも5弦ベースってその多くはアクティブなんですよね。LowB弦の音をちゃんと再生したいからってことなんでしょうか。なかなか物自体が少ない感じでした。Fenderとかは出してるんですが、気乗りはしません。
もういっそパッシブライクな音のアクティブでもいいかなと思ったりしていたら、江川ほーじんさんがそういえばSugi Guitarsでベースオーダーしてたなって思い出して調べてみました。
若い頃からFenderのイメージしかなかった江川ほーじんさんが乗り換えるなんてとんでもないメーカーだなという認識はあったのですが、それまであまり興味がなかったけど調べてみると基本はNightBreezeというシリーズで形がほぼ一緒だけど、4弦、5弦共に各部の木材やネックの長さも色んなバリエーションがあり基本はパッシブで都内にたくさんあるということがわかりました。むしろカラーリングも合わせて全く同じ仕様の方が少ないくらい色んな人バリエーションがあります。
素晴らしい。そんなわけでパッシブ5弦をめがけて色んな楽器屋に試奏しに行きました。
Sugi5弦をはじから試奏してわかったこと
都内にあるSugiの5弦の7~8本試奏したとも思います。
そもそもの楽器の作りは丁寧で弾きやすいし、派手さはないけどベースらしい自分の好きな音です。コントロール系はシンプルなジャズベと同じ構成のツマミしかありませんがその効きがとても好み。特にレゾナンスが効いているようなトーンツマミによる音の変化が好きでした。オマケのようについているトーンツマミとは明らかに違います。
色々弾いていると自分な好きな仕様もわかってきました。
・パッシブであること
これは先述した通り
・ボディの材質がアルダー
ボディはアッシュよりもアルダーの方がミッドが詰まっていてやっぱ好きです。他のメインベースも全部アルダーボディですし。物にもよりますがアルダーの方が比較的重量が軽い気もします。ヘビーアッシュとか昔使ってましたけど重いのは手にもたなくなってくるんですよね。
ほーじんさんはアッシュを選んでいるようなのでここは好みが分かれるとこだなと思いました。スラップ奏法の多さがその辺の分かれ道なのでしょう。
・34インチスケール
5弦ベースは35インチのものも多いです。長い方が弦のテンションが保たれてダルダルになりがちなLowB弦をタイトに鳴らせるのが利点でしょう。自分は"LowB弦でめちゃくちゃルート刻むぜ!"ってタイプではないのでその為に全弦のスケールが長くなるのはあまり好きじゃないんです。
というか自分にとって34インチスケールの音がベースの音って感じがして35インチだとちょっと冷たい印象があるんです。34インチの方は弦の振動の仕方というか暴れ方が自分のタッチにしっくりくる感じ。これは良し悪しの話じゃなくて自分に合う合わないの話ですね、イメージ通りの音でないと結局その楽器を触らなくなってしまったりするので。この試奏祭で34インチと35インチで自分でそんなふうに感じる事も発見できました。
ちなみに35インチスケールが嫌いなわけじゃないです。実際35インチのLAKLANDの5弦も使ってましたし。
そんなわけで購入したのがこちら↓
自分でもここまで緑緑したベースを手にする世界線があるとは思わなかったけどかなり色んな吟味をして導入しました。今この写真を見てその美しさにやられます。
実際は最終的に34インチのアルダーバックか34インチのアッシュバックの2本で当時の自分は悩んでいたようで、材木云々よりスケールの方が影響力あったんでしょう。
オーダーメイドをしようと思った訳
購入したSugi Night Breeze 5弦ですがめっちゃ気に入っていまして、レコーディングもライブも結構な頻度で使っていました。ビンテージより普通に弾きやすいですし。
ただ2年くらい弾いていると購入時に目を瞑っていた箇所がどんどん気になっていきました。”無視はできる範囲だけどここがこうだったらもっといいのに。”ってやつです。それが
・弦間ピッチが18mmでちょっと狭い
いわゆる弦と弦の隙間ですね。自分のメインのジャズベが19mmでプレベの方は多分20mmくらいあります。Sugiしか弾かないならいいんですけど持ち替えの時に『せっま!』とか『ひっろ!』となるのがちょっと嫌だったりします。
ちなみにSugi Night Breeze5弦のデフォは18mmです。多弦ベースはちょっとだけ弦間ピッチが狭くなる仕様は多いですが、自分的にはその辺の4弦ベースと同じくらいの弦間ピッチが他の楽器と持ち帰る時に違和感が少なくて好きです。
・24フレット仕様
これはスラップが自分にとってめちゃくちゃやりにくい要素です。自分はスラップはぶっ叩く系のイメージなのでFenderみたいな20フレットくらいのネックエンドでやるのがやりやすいし、そもそもその辺で弾く音が好きです。前のSadowsky5弦も24フレットだったのその辺の嫌さも分かってはいたんですけどね。20フレット仕様とまでは言わないけどもっとフレット少なかったら最高なのにって正直思っていました。
Sugiの音はめっちゃ気に入ってるけど、この2点をどうにかしたい欲にどんどん駆られていきました。
幸いなことに購入した時、その経緯を江川ほーじんさんに報告したらSugi Guitarsの方々を紹介してもらえてパイプがあったので相談したら、今のSugiを改造することよりも新しくオーダーすることを勧めていただけたのでそのままオーダーすることになりました。
オーダーの詳細を詰めるために長野県松本市へ
オーダーの打ち合わせはリモートでも出来ると言ってもらえたのですがせっかくなので長野県松本市にあるSugiの工房まで足を運ばせてもらいました。ワタクシ長野県で育ってるので松本は何回か行ったことがあるし土地勘も多少ありますし。
工房で社長の杉本さん(この業界では有名人ですね)とSugiの営業担当の方と打ち合わせをしてオーダーの希望を相談させてもらいました。
自分の希望としては
・目指すサウンド
それまで使っているSugi 5弦のサウンドは気に入ってるので音の方向性としては同路線。Hiがバキバキいうような派手さは全く求めてなく、普段使っているFenderヴィンテージのようなトランジェントの良さだったり、ローミッドのベースらしい重心を大事にしているという自分のアイデンティティなどをお話しさせてもらいました。
・弦間ピッチ19mm
ちなみにSugiは今は分からないけどブリッジもペグもGOTOH製で、5弦は弦間ピッチが18mmのブリッジを基本採用していたようです。何気に当時5弦で弦間19mmは数多くなかっようです。
・22フレット仕様
これ結構悩んでいたんですけど、24フレット仕様ってスラップしにくいだけで上のGまで出せるのはそれはそれで楽しいんですよね。4弦ベースによくある20フレットとか21フレットで切っちゃうのはそれはそれで寂しい。昔使っていたLAKLANDの5弦が22フレット仕様でそれが結構違和感なくスラップできたことを思い出してSugiでも22フレット仕様にしたいという希望を伝えました。
・34インチスケール
・ボディ材はアルダー
ちなみにカラーは塗りつぶさない木目が見えるのを希望したのですが、杉本さんの美意識的にはアルダーって木目があまり綺麗じゃなくアルダーの時は木目が見えない塗装にすることが多いようです。(確かそんなこと言ってた気が)で塗りつぶすのは嫌だったのでわがまま言って塗りつぶさない方向にしてもらいました。比較的綺麗な木目を選びつつ塗装も目立ちにくいようにしてくれるとのことでした。臨機応変な道筋がすぐできるのは素晴らしいです。
・ボディのトップ材はバールポプラ
これは実際都内のSugiを新ためて見て周り好きなのを見つけてその柄とカラーの感じを伝えてそうしてもらいました。試奏の時は"5弦"だけを目当てに探しましたが、その時は”見た目”を見に行ったので4弦でも良くて色んな材やカラーのバリエーションがあって、それはそれで楽しかったです。
確か打ち合わせの時にバールポプラの在庫があるって事で出してもらって柄も選ばせてもらいました。
・常念岳ヘッド
実際オーダーといえ、見た目ははっきり言って普通でオーダー感がないのでせめてそれっぽいのをということでSugiのHPのギャラリーで見て素敵だなって思っていた『常念岳ヘッド』なるインレイを入れてもらうことにしました。
・ハードケース
わざわざ書く事ではないのですが、Sugiはデフォがソフトケースで自分の場合それだと使いにくいことが多いのでハードケースにしてもらいました。Sugiって価格帯がハイクラスのメーカーだと思うのですが、何気に無駄に値段が上がらないようにコストカット出来るところはするようにしてるとおっしゃっていました。
他にもネック材や指板など少々希望を伝え、細かいところは杉本さんにお任せという感じです。所有していたSugiも持っていって『これのここと、ここと、ここを変えたい!』みたいな形で進めたので話が早かったです。
ネックの握りも専門の職人さんとお話できましたがこれまでのも細いわけじゃないのに弾きやすかったし、薄くするのもなんか嫌だしで変える必要も無いと思ったので同じで行くという方向にしました。
工房にお邪魔したついでに工房見学などさせてもらって、打ち合わせ後には結構雑談もさせてもらえて有意義な時間でした。
経験上遠からずな雑談ができる時は物事がうまく進む時です。ただただ楽しみになるばかりでした。
そして完成
打ち合わせから数ヶ月後、無事完成して手元に届きました。
それまで使っていたSugiと形はほぼ変わらないので基本的な弾きやすさは変わらずめちゃくちゃいい。22f仕様のおかげでスラップは凄くやりやすくなったし『重量が重い楽器が好きじゃない』旨を伝えていたおかげか新しい方がちょっと軽いです。
指板はココボロ→エボニーに変わってるのですが何気にこれが自分にとっても大正解だったのかもしれません。もちろんそれだけの要素とは限らないけど、指板とTop材以外は2本とも材は同じですが比べてみると元々持っていたSugiは音にクールさというかちょっと冷たい感じがあったのだけど、オーダーの方は自分のタッチに敏感についてきてくれる感じがありました。
全然弾き込まれてない状態でこれなら数年弾いたらめっちゃいい感じになっていきそうなこと間違いなさそうでした。
その後現在まで色んなレコーディングやライブで大活躍。ライブなんてこれ一本でかなり守備範囲広く戦えます。なくてはならない1本になりました。
まとめ
そんなわけで大分長文になってしまいましたがSugi Guitarsさんで5弦ベースをオーダーしたお話でした。オーダーには消極的な自分でしたがやってみるもんですね。もちろん信頼できるメーカー/技術者にお願いしたってのが一番大きいところではあるのですが。
やっぱ自分だけのカスタムオーダーですから愛着も特別です。ずっと使い続けようと思います。
Sugi Guitarsの皆様に感謝です
サウンド
お知らせ
自作ベース音源作りました。
ラインナップは
・ジャズベース版(指弾き、ピック弾き&スラップ!)
・プレシジョンベース版(ミュート機能、サスティーンコントロール付き)
・アクティブベース版(指弾き、スラップ、5弦音域対応)
多くの人に導入していただいて嬉しい限りです。誰かの制作の力になれたら幸いです。
販売ページ↓
ベース音源制作note↓