母の不倫、戸籍上の父と生物学上の父が違うことを知った話
私の父と母は、東北のある地域の出身だ。父はそのエリアでいえば都会、母は田舎の港町の出身で、共通の友人の紹介で知り合い結婚した。
ずっと仲が良かったものの、熱望していた子宝になかなか恵まれなかった。時には孫を楽しみに待つ祖父母の悪気のないプレッシャーを受け母は心を病んだこともあったようだが、たしか結婚8年目あたりでようやく待望の男の子を授かり、僕が生まれた。
しっかり愛情を受けながら多少わがままに育った僕は、大学を出て今は東京でしがないサラリーマンをしている。
ブラックな業界で健康問題を抱える社員が多かったからか、一般的な企業よりはすこし早い年齢から社費で人間ドックを受けられるとのことで、初めて行ってきた。
受けた数日後、お伝えすることがあるので来院してほしいと病院から連絡があった。よほど検査の結果が良くなかったんだろうと思いビクビクしていたが、医師が言うには血糖値がなかなかに高いようだった。とはいえ、特に偏った食生活を送っているわけでもなければ家族に糖尿病患者もおらず、この状況に心当たりがなく少し困ったが、一旦専門の病院を紹介してもらえることになった。
話が一通り済んだ後、看護師が「あ、それと、」と会話に入ってきた。
「採血の時に血液型はO型だとおっしゃってましたけど、A型でしたよ。」
ピンときていない僕に改めて簡易検査を受けさせてくれ、自分がA型だということがそこで初めて分かった。
まあ、血液型を勘違いしていた程度の話ならそこまで聞かない話でもない。身の回りにも2人くらいはそんな人がいたし、思えば自分も血液型の検査なんてしたことはなかった。
ただ、それならなぜ自分はO型だと思っていたのかということになるが、それは両親がO型だからだ。O型は潜性なので両親がO型なら子はO型になる。だから当然に自分はO型だと思っていた。そうなると、自分がA型になっている理由は限られてくる。
①両親のどちらかが実際はA型だった
②病院かどこかで子の取り違えが起きた
③A型の親が別にいる
およそこれくらいだろうと思い、色々な可能性を考慮して一旦母親に電話をした。
まず、両親は血液型の検査をしたことがあり間違いなくO型だということは確認できた。それを踏まえ、自分はA型だったこと、そうなると上述の①から③の可能性が考えられると伝えた。母は明らかに参った様子だった。
「本当に申し訳ないことをしたと思っているから、父には絶対に言わないでほしい。」
どう反応していいか分からず、「ん〜まじか」と変に明るいテンションで言ってしまった。
両親は昔から仲が良いし、母親は不貞をはたらくようなタイプには到底見えなかったので③は一番ないと思っていたため、驚きが最初にやって来た感じだった。
聞くと、母はパート先で社員の男とダブル不倫をしていて、その男が確かにA型だった。私を妊娠したことで退職し疎遠になったが、妊娠した時点で母は僕の父親が不倫相手である可能性が高いと思っていた。僕が成長するにつれ見た目の特徴が不倫相手のそれに近いと少し感じていた。しかし時は経ち家族は良好な関係を築くなかで不倫の事実は記憶の遠く彼方に消え、まさか今になって僕が不倫相手の子だったという事実が明らかになり、しかもそれを僕自身が知ってしまうとは思いもよらずショックを受けていた。
何でだよ。
本当にショックを受けたのは当然ながらこちらである。なんで不倫をしてその男との子を黙って産んだ人間がショックを受けているんだ。ふざけている。
母親が不倫をしていたという衝撃は大きかったが、母親は母親としての務めを果たしていたしちゃんと育ててもらったとは思っている。
何も知らずに我が子だと思って愛情を注いできた父親のことを不憫に思ったが、僕から不憫に思われることがなにより一番不憫な気がする。
思い返せば自分と父や兄妹と外見の特徴が違うという話によくなっていたが、そういうことならそりゃそうだろう。
父方の祖父母やいとことは仲が良いが、血縁的には他人ということになる。
突然、受け止めきれない量のモヤモヤが胸を埋め尽くす。
なんで自分は何一つ悪いことをしていないのに、一番身近な家族に話すことのできない重い十字架を背負わされるのか。
自分を構成する不変であるはずのものが崩れる感じ、アイデンティティを喪失するってのはこういうことか。
その不倫相手は本当に生物学上の父親なのかを確かめたい。まだ病院で取り違えた可能性やその他の可能性も完全には否定しきれない。
その男が生物学上の父だったとして、どんな人間で今何をしているのか知りたい。ただ、どんな人間だったとしても知ればムカつくことは目に見えている。
その男が父親であろうとなかろうと、今自分が抱えている不幸な気持ちをそいつにも与えたい。不倫をしておいて平然と生かしておきたくない。その男とその家族を、不倫をしていたという事実とそれに巻き込まれた子がいることを明らかにすることで不幸にしてやりたい。そうしても僕には何にもメリットがないかもしれないが、不幸を撒き散らすことで相対的に自分の不幸が軽くなれば、何かが晴れるかもしれない。
母に、その男の名前、年齢、家族構成、当時の電話番号、勤務先の詳細、分かる限りの情報を聞いた。
絶対にお前の人生に現れて、何らかの爪痕を残してやる。
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