コロナ最短終息、ビジネスのヘッドスタートを切るには
「自粛」「テレワーク」「スーパーの密集解消」などいかに新型コロナウイルス(以下「コロナ」)の感染拡大を止めるかという議論をたくさん見ますが、この2週間くらいで世界はコロナの出口の戦略をどこに置き、「経済をいかに再開するか」という議論に移ってきたように感じています。
今後の社会のあり方や働き方がどうなるかという議論も重要ですが、コロナの終息シナリオをどう見るかは重要だと考えています。私は医学や疫学の専門ではありませんが、これまでのリサーチを基にデータに基づく考察を書いてみます。
終息シナリオは2つしかない
各国は必死で対策を実施していますが、すでにパンデミックとなった今からではコロナを終息させるためには以下のシナリオしかありません。
ある集団の一定割合が免疫を持つと、ウイルスはそれ以上広まらないという性質があり、これを集団免疫といいます。ウイルスが広まらなくなる感染者の割合(集団免疫率)は6割とも7割とも言われていますが、例えば以下のような経験から来ているようです。
・19世紀に人口8000人のフェロー諸島で起こった麻疹の感染:およそ7割
・ブラジルのサルバドル市でのジカウイルスの感染:63%
集団免疫率はウイルスが感染力を失うまで平均で何人に感染させるか(基本再生産率:R0)の関数となっており、コロナの場合、WHOや海外では1.4-3.5、日本では1.4-2.0と推定されています。再生産数が1を切れば終息に向かいますが、行動制限や自粛などで再生産数を下げようとする努力が行われています。感染症が進行中のある時点における再生産数を実効再生産数Rと呼び、基本再生産数と区別します。(詳細は東洋経済記事参照)
上記の基本再生産数を基にした集団免疫率は世界で33-70%、日本で33-50%程度になります(上記東洋経済記事を参考にしました)。ある人口の免疫保持者がこの割合に達すればコロナは終息するということです。これは、感染によるか、ワクチンの接種によって達成されます。
また、ウイルスの変異により感染しなくなる可能性もあります。2003年のSARSはこのようにして終息したという説がありますが、人がコントロールできる方法ではないため、ここでは考えないことにします。
いまの免疫保持者はどれくらいか
それでは免疫保持者はどれくらいいるのかが問題になりますが、3月・4月に各国で行われた抗体検査の結果から推定が行われています。以下に、4/24までに行われた調査の結果をまとめます。
抗体検査の精度による問題は指摘されているものの(例)、例えばサンタクララ郡の検査で指摘されたサンプリングバイアスの問題が起こらないようにロサンゼルス郡の検査では方法を改善するなど、精度は上がっています。データが蓄積されるとこれらは意味のある指針を与えてくれると考えます。
表中の抗体保持率(黄色ハイライト)と集団免疫に必要な免疫保持率を比較します。感染を止めるのに必要な集団免疫率は上記で33-70%と見込みましたが、感染爆発が起こったニューヨーク市やドイツのガンゲルトでもまだこの集団免疫率には達していないことが分かります。
第2波・第3波は来るか
感染拡大の防止に成功した国や地域が、今まで実施してきたソーシャルディスタンシングなどの対策を緩和するとどうなるでしょうか。上記から、感染爆発が起こった地域でも抗体保持率が集団免疫率に達していないため、対策を緩めると感染は再び広まると考えるのが自然です。そのため、各国や地域でモデリング・シミュレーションなどを基に「いつからどのくらい対策を緩和できるか」を検討しています。
例えば、私が住んでいるカナダのブリティッシュコロンビア州では次のようなモデリングを実施しました。いまのところ感染者数や重篤患者数は減少傾向に転じましたが、「コロナ以前通り」「接触20%減」では再び感染が拡大することを示しています。
ちなみに本記事の見出しの写真は地元のスーパーですが、入場制限を実施し、買い物したい人は外に2mの間隔を置いて並んでいます。入念にも、列と列の間の距離を確実にするために、パレットを置き、間隔を確保できるようにしています。また、入店の際にはマスクと使い捨ての手袋の着用が要求されます。
本題に戻りますが、感染爆発が起こるとまずいことは、重篤者が病院のキャパシティを超え、救えるはずの命を救えなくなるということです。そのため、上記グラフの縦軸(重篤患者)を病院のキャパシティ以内に抑える必要があります。
すでに、英国インペリアルカレッジやハーバード大学が研究論文を発表しています。ハーバード大学の研究では、医療キャパシティを超えないように対策(ソーシャルディスタンシングなど)と緩和を、感染者数の割合が集団免疫率に達するまでを繰り返すことを想定しています。そして、集団免疫率に達するのは2022年頃になるという結論となっています。(ワクチンなしの仮定)複数のシナリオが想定されていますが、以下のグラフで紫色の部分が対策実施期間、白の部分が緩和期間となります。
政策の方向性
政策の方向性しては明らかで、医療キャパシティを超えないぎりぎりのところで対策・緩和を繰り返し、集団免疫に近づくということです。英国は集団免疫獲得を最初から狙っていたようですが、感染拡大が急すぎたために途中でロックダウンを実施したようです。スウェーデンは今でも集団免疫獲得をかなり念頭に入れているようで、ストックホルムで5月に集団免疫を獲得できる見込みとのニュースがありました。(何%の集団免疫率を想定しているのか、是非知りたいです)
集団免疫に近づく速度を上げる方法として、高齢者や基礎疾患保持者などハイリスク人口は保護し(例えば、高齢者の外出を制限したり老人ホームへの訪問を禁止する)、学校をはじめ他の活動は通常通り行い、ローリスク人口から感染率を高めていくという方法がKnut Wittkowski氏から提案されています。(上記ハーバードのモデリングでは人口を均一なものとして見なしており、このような施策は考えられていない)
私は、抗体検査が進み、コロナ感染の実態が明らかになるにつれて、このような施策は十分実施可能だと考えております。抗体検査で分かったことの一つは集団免疫率に対してどのくらい近づいているかですが、それ以外に、コロナ感染のリスクが当初想定していたより低いことです。
4/23現在の日本のデータを使って考えると、致死率(確認された感染者に対する死亡の割合)は1.81%ですが、上記の抗体検査からこの10倍から50倍は感染者がいると考えてよさそうで、致死率計算の分母が10倍から50倍になるため、新しく計算される致死率は0.036%-0.18%となります。日本で抗体検査を実施すれば正確な値が出るでしょう。
厚生労働省によると、毎年日本では1000万人が季節性インフルエンザに感染し、そのうち直接的または間接的に10000人程度が亡くなるということです。そのため、季節性インフルエンザの致死率はおよそ0.1%となります。上記の抗体検査の結果を加味したコロナの致死率は毎年の季節性インフルエンザの致死率とほぼ同等と考えてよいと言えるでしょう。
従って、今までは挙動がよくわからないウイルスとして扱われていましたが、今ではその感染リスクがより明確になり、それに応じたリスクの評価と対応をすればよいということになります。
大きな方向性としては上述したように、医療キャパシティを超えないぎりぎりのところで対策・緩和を繰り返し、集団免疫に近づくということです。そして、抗体検査の結果を反映したリスク評価に基づき、ローリスクな活動から経済を再開していくということになるかと考えます。制限と緩和の繰り返しを経て集団免疫率に近づきますが、もちろんその間にワクチンが開発され、使われるようになれば集団免疫率を急速に上げることができます。
飲食店やサービスの営業停止を長期間続けるなど今までの施策では、感染拡大を遅らせるだけであり、本質的な問題の解決にはなっていません。かと言って対策ゼロでは一気に重篤者が増え、病院で対応できなくなり、死者が必要以上に増えるという結果になりかねません。医療のキャパシティが確保でき、経済へのダメージが最小、かつ集団免疫率を最速で上げていくような難しい舵取りが求められています。
抗体検査のデータ出典
1 https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.14.20062463v1
2 http://www.publichealth.lacounty.gov/phcommon/public/media/mediapubhpdetail.cfm
3 https://www.cnn.com/2020/04/23/health/us-coronavirus-thursday/index.html
4 https://www.cnn.com/2020/04/23/health/us-coronavirus-thursday/index.html
5 https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-netherlands-study/dutch-study-suggests-3-of-population-may-have-coronavirus-antibodies-idUSKCN21Y102?fbclid=IwAR1FSg7H_WPbekY-0dEZF3tA1ASG2vitvyI_1RG1x83w5mrBfCM5prxWZEI
6 https://www.land.nrw/sites/default/files/asset/document/zwischenergebnis_covid19_case_study_gangelt_0.pdf
※抗体に関しては、抗体が何年間有効か、一度抗体ができれば再感染しないかなどまだわからないことも多いという課題もあります。
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