なぜ今リスキリングに取り組むべきなのか~官民連携によるリスキリング推進に向けて~
昨年から一気に注目度があがり、多くのメディアで取り上げられるようになった「リスキリング」。
デジタル化に伴う自動化により、消えてゆく仕事から働く人々の雇用を守り、成長産業への労働移動を実現する最大の解決策として、「リスキリング」の必要性が叫ばれています。
今回は行政や国内企業へリスキリングの取り組み支援を行う、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明さんからお話を伺いました。
リスキリングとは「組織主導で職業能力の再開発をすること」
近年注目を集めるリスキリングとは、もともと動詞の「リスキル」が元となっており、「新しいスキルを再習得させる」という意味です。
よく混同されがちな「個人が自由に学び直しをする」文脈とは異なり、組織の事業戦略に基づいて職業能力の再開発を行うことがリスキリングの正しい定義です。
つまり、リスキリングは組織が実施責任を持つ業務の一部です。
従業員の視点に置き直せば「新しいスキルを身につけ、実践し、新しい業務や職業に就くこと」と言えます。
最新の雇用予測から見るリスキリング
世界経済フォーラムの最新のレポートでは、2027年までに6,900万件の雇用創出が予想される一方で、業務の自動化により8,300万件の雇用の消失が起きると言われています。
2020年1月の予測では、雇用創出が9,700万件、雇用消失が8,500万件でした。
今回の発表で、雇用の消失の方が多くなるという結果が出たのは特に注目すべきポイントです。
出典:世界経済フォーラム The Future of Jobs Report 2023
これは生成系AIの影響も考慮した数字ですが、今後4年間で労働者のコアスキルのうち44%が変化するという予測も出ています。
まさに、この変化に向けたリスキリングが急務になっています。
リスキリングが日本経済にもたらす効果と企業が抱える課題
PWCコンサルティングが発表したデータでは、リスキリングによって日本のGDPは今後10年間で1.7%〜2%成長する見込みだと言われています。
例えば、ヘルプデスクの従業員がリスキリングを重ねることでカスタマーサクセスマネージャーになり、それに伴って年収も上がるなど、リスキリングの成果で昇級・昇格につながることが予想できます。
出典: PwC data analysis, December 2020
一方で、日本でリスキリングに取り組む際の課題として、働き方と学びに関するものがあります。
まず働き方の点では、本来リスキリングは組織が取り組む業務のため、就業時間内に行うべきものです。
しかし、現実には業務時間外や休日に個人が取り組む形に依存してしまっています。
また学びに関する課題では、学ぶことと働くことが組み合わさった文化がまだまだ日本で主流でないことが挙げられます。
海外と比較して、リスキリングに成功した従業員へ昇給・昇格などの報酬で報いることも日本の中ではまだまだ少ないのではないでしょうか。
日本人は学ばない、と語られることが多いですが、私は仕組みの問題だと考えています。
日本の中小企業のリスキリング事例
そんな中でいち早くリスキリングに取り組み、成果をあげている企業も出始めています。
石川県加賀市で食器雑貨等のOEM企画を展開する石川樹脂工業では、リスキリングによって新規事業を次々と生み出しています。
少子高齢化による人手不足を見越して一早くロボティクスを導入し、品質管理部門の従業員をリスキリングしてロボティクス分野の責任者に抜擢しました。
またAmazonで自社ブランドの商品を販売する際は、現場で金型を扱っていた従業員をリスキリングしました。
それによりわずか3ヶ月で売上は倍増、全社売上の10%をデジタルマーケティングの施策で伸ばしたという素晴らしい成果を上げています。
海外の事例から紐解く、今後のリスキリングの可能性
これからのリスキリングの可能性として「アプレンティスシップ制度」をご紹介します。
これは「職業実習訓練制度」と和訳され、未経験者が給与をもらいながら業務を通じてリスキリングをおこなうというものです。
現在、アメリカでは労働省が主導してこの制度の活用を進めています。
フィラデルフィア市では、市役所のデジタル分野の人材採用がうまくいかないという悩みがありました。
そこでこの制度を使い、2年間かけて職員をリスキリングして別の分野の担当職員の中からデジタル人材を生み出した事例があります。
アプレンティスシップ制度は欧米だけでなくアジアでも注目を集めており、日本でもぜひ導入したいと考えています。
行政・企業が目指すべきリスキリングの姿
これからのリスキリングの在り方として、グローバルとデジタルの同時推進が重要です。
新型コロナウイルス感染症による海外からの渡航が緩和され、今インバウンドの需要が徐々に戻りつつあります。
これからのインバウンドでは、デジタルマーケティングを用いた海外へのプロモーション活動にシフトしていく必要があるでしょう。
まずはリスキリングの正しい定義を理解したうえで、先ほどご紹介した日本の中小企業の事例のように、組織のトップが自ら率先してリスキリングに取り組む姿勢も重要です。
リスキリングに関する各種助成制度も上手に活用しながら、従業員の学びを支援し業務での成功体験につなげること。
それこそが組織を成長させる大きなポイントになるのではないでしょうか。