デジタルの知識がない職員も1から学べる環境を整備!学習者の間口を広げ中長期目線で庁内のデジタル化を推進|栃木県の活用事例
栃木県では、業務のデジタル化を推進し、より便利で質の高い県民サービスの提供を目的とした「栃木県庁デジタル人材育成方針」を実施しています。
5年間で合計900人のICT人材育成をめざすこの計画について、策定に至った背景と課題、今後の取り組みを詳しく伺いました。
デジタルに知見のある職員の育成をめざす「栃木県庁デジタル人材育成方針」
猿山:2023年2月に「栃木県庁デジタル人材育成方針」を策定しました。
少子高齢化が進む社会の中、限られた人員で県民サービスの質を維持・向上するためには、デジタルツールの活用が必要不可欠です。
そこで、デジタル技術を使って業務を効率化できる「デジタルに知見のある職員」を育成することが急務であると考えました。
育成するデジタル人材は「デジタルスキップ」と名付けています。
スキッパー(小型船の船⾧)から着想を得て、それぞれの所属内でデジタル活用について考えながら導いていく存在になってもらうことを期待しています。
「デジタルスキップ」の特徴とめざす姿
猿山:2023年度からの5年間で最大900名のデジタルスキップを育成します。
栃木県庁にはおよそ4,300名の行政事務を担う職員がおり、900名はそのうちの約20%に相当します。
この人数がデジタル技術に関する知識を身につければ、どの所属にも1人以上はデジタル人材が行きわたる計算です。
デジタルスキップには意欲のある希望者を指定し、Udemyを活用したオンライン学習と、その他の体験型研修を通して知識・技術を習得します。
デジタルスキップが実際にICTツールを有効活用し、業務改善しながら庁内のDXを推進する姿を他の職員が目にすることで、「こんな風に効率化できるんだ」と実感し「自分もやってみよう」という意識改革につながることも狙いの一つです。
また、それぞれの部署で「Excelでこういう処理をしたいが、数式はどう書けばよいか」「こんなデジタルツールを使いたいが、難しくてわからない」という場合も、身近にデジタル技術を学んだ人がいれば聞きやすいですよね。
そういった小さな変化から、県庁全体のDXにつなげていきたいと考えています。
デジタルへの意欲がある職員を引き上げ、自治体業務をDX化に導く
豊田:栃木県では2021年度から2022年度にかけて、各所属で「DX推進員」を1名以上任命し、所属のデジタル技術活用の旗振り役として位置づける取り組みを行っていました。
各所属に「DX推進員」がいることで、何らかのデジタル施策を庁内で行うときにすべての所属へ展開しやすいメリットがありました。
一方で、中には義務的に参加していたり、デジタルがあまり得意でない職員もいると考えていました。
そこで、所属ごとに1名以上任命するといった制限を設けず、意欲重視でデジタル技術を学びたい職員を募集すれば、積極的なデジタル人材を多く育成できると考え、「DX推進員」からデジタルスキップにシフトしたという背景があります。
県庁職員は3年から4年ほどの期間で人事異動がありますから、育成されたデジタルスキップがさまざまな所属に配属されることで、最終的に組織のDXの機運が循環するのではないかと思います。
レベル別に学習できるUdemyで職員の幅広い学習ニーズに応える
豊田:デジタルスキップは意欲を重視して手上げ制にしたため、それぞれの職員のデジタルに関するレベルは千差万別です。
知識や技術に差がある職員を育成するためにどんな方法が適切かを検討した結果、多くの講座からレベルや目的に応じて学習できるUdemyがぴったりだと考えました。
加えて、2022年10月から庁内のインフラ環境が新しくなり、全職員がMicrosoft TeamsやPowerPlatformなどのアプリを使える環境になりました。
それらのアプリをフル活用して業務効率化をめざす中で、Udemyにはアプリに関連する講座がたくさんあったことも選定理由の一つです。
猿山:集合型の研修では、聞き逃したときに講師にもう一度質問するのは勇気が必要です。
しかし、オンライン講座は見直しができるので「何度でも自分の納得いくまで学習できる点が非常に便利だ」という声が職員から聞かれました。
また、初心者から上級者まで知識レベルに応じてわかりやすい講座が豊富なのも大変好評です。
Udemyでの学びを活性化するため、庁内ではTeamsのチャットグループを作りました。
「この講座が良かった」などと職員同士が情報交換する場面も徐々に見え始めています。
今後も質問やおすすめの講座が飛び交うような活発な場づくりを行い、ますますデジタルに関する知識やスキルが深まるように工夫していきたいと思います。
豊田:今年度から学習を始めたデジタルスキップは約300名いますが、3ヶ月で合計3000時間、一人あたり平均10時間ほどUdemyを視聴していて、すべり出しは順調だと考えています。
デジタルスキップに受講を義務づけている必修講座は3ヶ月タームで受講期限を設けているため、ラーニングパス(カリキュラム)の進捗を管理し、スムーズに学びが進むように支援を続けていきます。
同じ受講者が複数年度にわたって学習を深める。栃木県が考える「意欲を重視したデジタル人材育成」
豊田:今回、デジタルスキップを募る際に意識したのは、デジタル技術を習得することが社会で求められる中で「デジタル技術を学ぶための時間確保ができない」、または「苦手なので学習についていけるかな」と不安がある人の背中を押すことです。
そんな迷いを持つ人へのメッセージとして、「日々忙しい業務を効率化するためにデジタルスキルを学ぶ必要性がある」ということと、「デジタルにまったく詳しくない方も1から勉強できる」という声かけをし、チャレンジしやすい発信を心がけました。
自治体のデジタル研修では1人の職員につき1年のみという場合もありますが、栃木県では職員の学習スタート時のレベルに関わらず、徐々にステップアップしていけるカリキュラムを想定しています。
1年限りで学習をやめるのではなく、中長期で学習計画を立てられるようにしたのが大きな特徴です。
意欲に応じて学習を深化させ、複数年計画でデジタル人材を育成していく方針としています。
小さなステップを大切にして、息の長いデジタル啓蒙活動と学習サポートを
豊田:毎月発行している「働き方改革・DX通信」という庁内のお知らせやデジタルスキップのチャットグループを活用し、ICTツールのお役立ち情報などデジタル技術に少しでも興味を持ってもらえるような情報共有を心がけています。
Udemyでの学習を通してめざすのは、デジタル技術に関する知識・スキルの習得やITパスポート試験の合格を経て、最終的に実務でDX推進へつなげていくことです。
そのために、まずは日常業務でよく使うWord・Excel・PowerPointなどのツールに関する学びを得ることが重要です。
小さな業務効率化だとしても、それを積み重ねて成長し、デジタルを活用した業務の見直しや所属内での取り組みの推進活動がどんどん活性化すれば嬉しいですね。
それぞれの職員にできる小さなステップから始めて、長く学び続けること、そして学びを現場で活用するためのサポートを今後も続けていきたいと思います。