見出し画像

県内企業に生産性向上とイノベーションを!リスキリングでめざす環境変化への適応

広島県では、県内産業の生産性向上やイノベーション創出に向け、県内で働く人材のリスキリング推進を目的とした「リスキリング推進企業応援プロジェクト」を展開しています。
近年急加速するデジタル技術の進展などの環境変化に企業が適応できるよう、デジタルリテラシーをはじめとする新たな知識やスキルの習得を推進するこのプロジェクト。
取り組みで見えた課題やめざす姿についてお聞きしました。


企業の実践を後押しする「リスキリング推進企業応援プロジェクト」

広島県では、2022年度より「リスキリング推進企業応援プロジェクト」をスタートしました。
この事業は産業人材課リスキリング支援グループが中心となり、県内企業を支える人材が今後の新たな業務で必要となる知識やスキルを習得・活用することを目的としています。

リスキリングは企業が主導となって実施するもののため、経営戦略や人材戦略と連携した取り組みが欠かせません。
県内企業の経営者が自社にとって今後必要になるスキルを整理し、補助金の活用も含めたリスキリングの具体策を行うための支援をしています。

リスキリング推進企業応援プロジェクト」を進める中で、今年度の事業方針として以下の3本柱を掲げています。

①リスキリングの機運醸成

県内企業にリスキリングを周知し、ムーブメントを起こすことを目的としています。
具体的には、企業がリスキリングの取り組みを自由に宣言できる「リスキリング推進宣言制度」の実施、そしてリスキリング実施において自社で何をすべきかを考えていただくセミナーや研修の開催です。
「リスキリング推進宣言制度」は企業イメージや認知度の向上、県の各種支援制度を有効活用していただくことを目的としており、現在170社を超える企業に宣言いただいています。

宣言書には各社の取り組むリスキリングの取組みを記載

 ②デジタル基礎知識等習得支援

県内の従業員の皆さんがデジタルリテラシーを身につけるため、ITパスポートの受験料などを補助しています。
また国の制度である人材開発支援助成金の活用を希望する企業については、申請業務を外部委託する経費の支援も行います。

③県内でのリスキリング推進体制の構築

公労使で構成する「広島県リスキリング推進検討協議会」にて、これからの社会で必要となるスキルの整理や、働きながら学ぶには企業にどういった仕組み・制度が必要なのかなどを考えています。
今後は企業向けのガイドラインや行政が取り組むべき内容をロードマップ化することも視野に入れています。

リスキリングへの正しい理解を促し、企業の目的達成へつなげる

私たちがリスキリング支援に取り組み始めたきっかけは、労働力の移動が今後ますます進むと考えたからです。
労働力が円滑に次の場所へと移動するためには、人材育成に取り組まなければなりません。
また新しいデジタル技術が次々と出る一方で、県内企業がそれらの技術にどう対応していくかという課題もありました。

そんなときにリスキリングという言葉を知り、デジタルの部分に着目して取り組みを始めるために検討が進んだのが2021年の秋頃です。
その後、2022年に岸田首相の所信表明演説でリスキリングについて言及され、ますます動きが加速していきました。

とはいえ私たちがリスキリングの事業を始めた当初、県内企業の多くが「リスキリングって何?」という状態でした。
新しい言葉が出ると多くの方が「今までと違うことをしなければ」と思いがちですが、企業として人材育成に取り組むべきだという事実には何も変わりありません。
その部分を正しく理解していただくため、経営者を対象としたセミナーを実施しました。

そうして徐々にリスキリングの重要性を広めつつ、「リスキリング推進宣言制度」を周知し、宣言をした企業は県のWEBサイトで紹介する取り組みを始めました。
リスキリングの機運醸成においては、イノベーターとなる企業にどんどん出てきて欲しいと思っています。

その過程で「リスキリング推進宣言制度」を通して各企業の取り組みの認知度が上がり、県内で普及していけばリスキリングも浸透するのではないかと考えます。

また、リスキリングの先にはDX推進や働き方改革といった大きな目的がある場合がほとんどなので、県庁でそれらを所管する部署と連携しながら企業訪問や声掛けも実施しています。

社内DXとオンライン通販を実現した、広島県のリスキリング好事例

広島県は製造業が非常に多い地域ですが、今回の事業には幅広い業種からご参加いただいています。
県内の菓子製造業では、事業を活用して製造現場の従業員へリスキリングを行い、間接部署に配属して社内DXを推進したり、物販のデジタル化につなげたりした事例もあがってきています。
今後開催するセミナーでは、こういった成功事例を県内企業に広く共有する場も設けたいと考えています。

セミナーは主に経営者や人事担当者向けに展開していますが、その理由はボトムアップだと一時的な取り組みで終わってしまう懸念があるからです。
まず経営者が「今までのやり方ではうまくいかなくなる時代になった」という意識を持ち、従業員に向けて意識改革を促さなければ企業の中にリスキリングが根付きません。
ですから、まずは経営者・人事担当者に対する理解促進に取り組んでいます。

一方でボトムアップに対しては、ITパスポートの受験料等の補助制度があることをSNS広告で周知し、個人の意識を高めています。
経営層と従業員個人の両面にアプローチする広報活動で、今後もリスキリングの必要性を広く知らせたいと思います。

補助金の活用で新たに1,300名がITパスポートに合格

「リスキリング推進企業応援プロジェクト」の中でITパスポート取得の補助金を活用した企業からは、「ITパスポートの受験促進をする中で、デジタルリテラシーの重要性がわかった」という声をいただいています。

特にデジタル技術が身近でない部署の従業員は、デジタルで何ができるのかわからないことも多いです。
ITパスポートを学ぶとデジタルの専門用語が理解でき、自分たちの業務でデジタルを活用したらどうなるだろう、という視点が身についたのは大きな変化だとおっしゃっていました。

ITパスポート取得の補助金の2022年度における交付決定人数は約1,300名でした。
2022年度に広島県の社会人でITパスポートに合格した方は約2,700名で、2021年度と比較すると補助金の交付決定人数とほぼ同じだけ増加しています。
つまり、補助金の活用がITパスポート合格者の後押しとなったという大きな成果がありました。

リスキリングを一度で終わらせない!継続した周知と支援への熱い想い

2023年度を含めた2年間は、県内での機運醸成としてリスキリングの周知に重きを置いた事業展開を予定しています。
リスキリングで学ぶ制度を作ったものの、社内の労働環境や評価制度などを整えなければ、企業の中で学びの風土は定着していきません。

具体的にどんな社内制度を作るのか、また自社でこれから必要なスキルが明確化できていないなど、リスキリングに対する困りごとや悩みに対応しながら、実践を支援するステージへと徐々に移行していきたいと考えています。

県内の経営者から時々聞かれる声に「リスキリングをすると従業員が辞めてしまうのではないか?」というものがあります。
ですが、私たちはその逆で「リスキリングをしなければ従業員は離れていく」と考えます。
リスキリングをする企業が今後増加する中、自社だけ何もしないのでは企業の競争力が失われてしまうからです。

実際、リスキリングに積極的に取り組む企業の経営者の方は「人材育成をしたら従業員は辞めない」とおっしゃっていました。
リスキリングは一度実施して終わりではなく、次々と出る新しい技術に対応するためアップデートが必要です。
県内企業が最新の情報にキャッチアップできるよう、私たちも常にアプローチ方法を最新化しながら支援したいと思います。