番匠カンナ/鈴木綜真/竹村泰紀 ── 都市を見つめる変化の兆し
01 都市の隙間への巣食い、あるいは救い ── 番匠カンナ(バーチャル建築家)
ギャル雑誌『egg』の編集長は、もう聖地はなくなったと言った。都市がより快適により洗練されるほど、熱は都市空間を求めなくなった。代わりに匿名掲示板、動画サイト、SNSが路上になり、現実の地名はカルチャーの表舞台から消えた。
この半壊した雑居ビルは、反計画とも呼べる空間の質を提供する。ここにある理想の隙間は、人間の熱を受け入れるのに十分な無遠慮さを備えている。だがここに行き着くのは容易ではない。もっと確実に、誰もが、都市から計画を剥ぎ取り、自らの場所を埋め込むことができる未来が欲しい。街路から隔離された暗がりの代わりに、クローズドなバーチャル空間とARによって不法占拠された裏道が、次の都市を形成するだろう。
02 just jamming ── 鈴木綜真(都市研究家)
最近はクルマの動きと各交通モーダルに対して、都市にとっての「良い形」を分析・シミュレーションする仕事をしています。クルマの移動の自律性が高くなると都市の形はどのように遷移するのか~馬車~鉄道~クルマ~自動運転とか、交通によって都市の形って随分変わってきたよなという、平たいけれど探求のしがいのある領域です。
自律的でマクロに移動の調律が整う世界において、それとは関数が異なる人間の動きはどのように映るのか。これは、数年前に住んでいたロンドンのホワイトチャペルというエリアで撮影した写真。真ん中に映るクルマを運転する彼/彼女にとってはこれが最適な形かもしれないし、個人と全体、何を持って都市の調律が整ったと定義するべきなんだろうか。
03 場所と瞬間 ── 竹村泰紀(建築思想家)
写っているのは少し雑然とした街並み、日本庭園と植林された里山、手元には珈琲と小麦粉でできたスコーンの残りかす、2冊の本とノート、そしてみずからより遥かに大きな哺乳類(わたし)の間合いの中で、堂々たる立居振舞いで小麦の残りかすを物色する小さな鳥類(スズメ)である。
この頃、私は本を書いていた。写真に写っている『都市で進化する生物たち』と『家は生態系』はその最も需要な参考文献のうち2冊だ。現代都市が、いかに新たな棲み処(すみか)としてヒト以外の生物たちに再定義され、新しい種類の「森」となりつつあるのか、なぜそれが必然なのか、では未来の都市は何になるのか。その問いを突き詰める執筆と学びの合間に、街中で“なぜか”よく見かけるスズメが現れた。
現代都市のサウンドスケープを、背景音の音量(dB)と、音源の種類ごとに色分けしたもの。都市が、都市に住まうヒト以外の住人たちによっていかに「再定義」されているのかを、音という観点から可視化を試みた。都市の複雑な立体構成の中に見え隠れする多様な生き物たちが、都市機能を上書きし、都市生活の体験を塗り替えてゆく。