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#01 エストニア② 「Skype」を生んだ“スタートアップ都市”

いま注目すべき取り組みを行っている街を訪れ、街づくりの未来を探るプロジェクト。
最初の訪問先は、“世界最先端の電子国家”として発展を遂げたエストニア共和国。
インターネット通話サービス「Skype」を輩出した活発な起業家マインドを探るべく、ITスタートアップのオフィスを訪問。世界中を旅しながら働く「デジタルノマド」のための画期的サービスとは?
▶︎ 前編 ① “世界最先端の電子国家”へ
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「Estonian Mafia」が牽引する、エストニアのスタートアップ事情

いまや、デジタルテクノロジーが私たちの生活や社会のあり方を根本から変えていく時代。そのなかで、都市という物理的な空間に求められるものとは何でしょうか?
じつはエストニアは、国民一人あたりの起業率で世界トップを争う“スタートアップ大国”。インターネット通話サービスとして世界的な地位を確立した「Skype」に始まり、ITベンチャーとして世界へ羽ばたいた起業家たちは「Estonian Mafia(エストニアン・マフィア)」と呼ばれ、人々の憧れの的となっています。
エストニアの首都・タリンの街で、国々を飛び回って働く「デジタルノマド」のためのサービスを展開する、気鋭のベンチャー企業を訪問しました。

 有名スタートアップを多数輩出しているシェアオフィス「LIFT 99」の入り口にて。「Jobbatical」や「LeapIN」、タクシー配車サービスの「Taxify」など、この場所から巣立っていった歴代企業の名前が刻まれている。

デジタルノマドの就労支援スタートアップ「Jobbatical」

インターネットの進展は、世界中どこにいても仕事ができるという、新しい働き方を生み出しました。エストニアでは、旧ソ連時代にIT開発拠点が置かれた歴史的経緯から、1990年代からIT教育をスタート。プログラミングなどの高いスキルを背景に、同国のスタートアップ企業の多くがこうした自由な働き方に可能性を見いだし、新たなサービスを展開しています。
そのなかでも有力株として注目を集めているのが、世界中を旅しながら働く「デジタルノマド」のための求人サービス「Jobbatical(ジョバティカル)」。同社のオフィスを訪問し、広報のマリア・マグダレーナ・ランプ(Maria Magdaleena Lamp)さんに話を聞きました。

マリアさんはロシア国境にほど近いユフヴィ(Jõhvi)出身。自身もデジタルノマドとしてベルギーなどでコピーライティングに携わり、2015年、当時まだ5人のチームだった「Jobbatical」へ入社しました。
同社の設立は14年、創業者の一人、カロリ・ヘンドリスク(Karoli Hindriks)氏が研究休暇(sabbatical)を取得してマレーシアを訪れた際、旅をしながら短期間でこなせる仕事を探そうとした経験にさかのぼります。世界中を飛び回る才能ある人々と、彼らのスキルを求める企業のためのプラットフォームとして、「Jobbatical」は瞬く間に数十カ国から求人情報が寄せられるまでに成長しました。スタッフも現在40名に増え、その8割が自社のサービス経由で就職を実現。エストニア政府が推進する画期的な仮想移民政策「e-Residency」(記事③参照)ともパートナー契約を締結しているほか、ユーザー向けに履歴書の書き方や国ごとの文化習慣をレクチャーしたり、移住先への法的手続きを代行するなどのサービスも展開しています。

マリアさん「タリンは小さい街だけれど、市内のどこへでも歩いていける距離で使いやすく、気に入っています。この街でスタートアップが次々に立ち上がっている背景ですが、そこにはこの国ならではの事情があると思う。1991年に再独立を果たした時点で指導者たちも若く、資源も乏しい状況の中で、彼らが目を向けたのは旧ソ連のIT開発拠点として培ってきたデジタルテクノロジーの可能性でした。いわば、モノではなく、自分たちの頭の中にある発想を最大限に活用しようというマインドで、自分たちの未来を切り拓いてきたわけです。それに、いまや世界の国々の多くが保守的になり、お互いの間に壁を築いているけれど、小国で資源のないエストニアに必要なのは逆のこと。だから私たちはいかに人を受け入れるかについて考え、それを実践しているところです」

デジタルノマドの税務代行スタートアップ「LeapIN」

「e-Residency」や「Jobbatical」など、官民双方で世界中から優秀な人材をエストニアへ呼び込む仕組みが拡大する一方、こうした動きに付随して、新たなサービスを展開するスタートアップが生まれています。
そのひとつが「LeapIN(リープイン)」。国々を移動しながら働いたり、同時に複数の国で仕事をしたりするなど、デジタルノマド的な働き方が増えていくなかでネックになるのが、その国ごとに税金の計算や法律上の申請方法が異なること。「LeapIN」はこれらの面倒な手続きを代行するサービスを提供するとともに、デジタル化で職を失った税理士や会計士の職能を新たに活用しようとしています。同社の創業者の一人で、CEOを務めるErik Mell(エリック・メル)さんが、今後の展望について話してくれました。

「LeapIN」の創業は2015年、「e-Residency」政策によって増えるであろう、若い起業家たちを支援したいと考えてのことでした。一人で気軽に会社を立ち上げることができるようになった反面、会計や法律に関連したペーパーワークは依然として起業家の負担になっています。そこで、会計や請求処理、法令遵守にまつわる手続きを代行する仕組みを用意しました。
このサービスですが、EU圏外の人に対しては、EUにおける会社設立の面倒な手続きに対して手を差し伸べる意味があります。一方、EU圏内に対しては管理コストの削減のほか、国から国へと移動する間も手続きを請け負うことで、ビジネスの円滑化につなげる狙いがあります。
現在はタリンのシリコンバレーともいわれる高層ビル「Technopolis(テクノポリス)」とエストニア第2の都市タルトゥにオフィスを構え、日本のmistletoe(ミスルトゥ)社からも投資を受けながら、デジタルノマドの支援体制を拡大しつつあるところです。

エリックさん「タリンは小さな街なので、郊外の自宅から車ですぐに出勤できて、子どもの通学や習い事の送り迎えにも便利ですし、豊かな森がすぐ近くにあります。場所にとらわれずに働くリモートワークのためのサービスに携わっている一方で、仲間たちと物理的に集い、交流する場所を大切にする上でも、コンパクトで働きやすく、住みやすい街だと思いますね。いまや、人々は自らの意志で働きやすい国を選ぶ時代になりました。どこの国でも働くことができ、会社の登記や納税もできるようになっていくことで、働き方はもっと自由になっていくはず。その動きを後押しすると同時に、エストニア国民としてこの国の発展に寄与していきたいと思っています」

→ 次回  01 エストニア
③ “仮想移民”とデザインが導く新たな展望


リサーチメンバー (エストニア取材 2018.8/12〜14)
主催
井上学、林正樹、吉川圭司、堀口裕
(NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室)
https://www.nttud.co.jp/
企画&ディレクション
渡邉康太郎、西條剛史(Takram)
ポストプロダクション & グラフィックデザイン
江夏輝重(Takram)
編集&執筆
深沢慶太(フリー編集者)


このプロジェクトについて

「新たな価値を生み出す街づくり」のために、いまできることは、なんだろう。
私たちNTT都市開発は、この問いに真摯に向き合うべく、「デザイン」を軸に社会の変化を先読みし、未来を切り拓く試みに取り組んでいます。

2018年は、いままさに注目を集めている都市や地域を訪れ、その土地固有の魅力を見つけ出す「Field Research(フィールドリサーチ)」を実施。訪問先は、“世界最先端の電子国家”ことエストニアの首都タリン、世界の“食都”と呼び声高いデンマークのコペンハーゲン、そして、アートと移住の取り組みで注目を集める徳島県神山町です。

その場所ごとの環境や文化、そこに住まう人々の息吹、地域への愛着やアイデンティティに至るまで。さまざまな角度から街の魅力を掘り下げる試みを通して、街づくりの未来を探っていきます。

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