ニュージーランドプチ留学~コーンウォールパークの丘の上で~
「カボス、これ…昨日作ったの。良かったら食べて。」
授業が始まる前に、韓国人のクラスメイトが私に自作のチュロスをくれました。シナモンと砂糖がこれでもかというほどたっぷりまぶされていて、とても美味しそうです。
感謝の気持ちを伝え、早速今日のお昼ご飯にいただくよ!と伝えたところ、苦笑しながら他にも食べなよ…と言われてしまいました^^;
その日はライティングやスピーキングのテストがメインの授業だったのですが、この頃、ふと気が付いた事がありました。
自発的に話す場合は比較的すらすらと言葉が出てくる方だと思うのですが、自分の発言を掘り下げられた時に対するレスポンスだったり、逆に私から相手の発言を深く掘り下げる事がかなり下手くそだという事に気が付いてしまいました。
(英語だからできないのかな…と思ったけど、いや、これ多分、日本語でも同じだわ…)
私は、(現実世界では)必要以上に相手に深く関わらないようにするために、自分の詳細を語ったり、相手の話を深く掘り下げようとしない悪い癖があります。
語学はあくまでコミュニケーションの手段の一つでしかない。
相手をもっと知ろうとしない気持ちが生まれない限り、言葉を紡ぐことはできない。言葉を紡げない限り、恐らく私はここで何も成長できない。
…そんな事を感じながら、今日もなんとかテストと授業を終えました。
今日は友人と一緒にフラットで夕ご飯の約束をしている日です。
友人との待ち合わせ場所のスーパーマーケットに向かう途中、私は羊に会いたくなったので再びコーンウォールパークへと足を運ばせました。
羊たちは牧草を食べるのに夢中で、顔を上げてこちらを向く事は滅多にありません。
運よく顔を上げた時にシャッターを切るのですが、ほとんどがブレブレです^^;
警戒心の高い羊たちがようやくこちらに近づいてきた!と思いきや、向こうからランニングに勤しむおじさんが「SORRYSORRYSORRY!!!」と息を切らしながら風のように走ってきて、それに驚いた羊はパッと逃げていきます。
小高くなっている丘の上にも登ってみることにしました。…が、私はどうやら舗装された道ではなく、間違えて獣道を進んでしまったようです。
喉も乾くし、草で足を切ってしまうし、体中の筋肉が痛い。
それでも前に進まなきゃ、と謎の使命感に駆られながら歩みを進めました。
振り返ると、草や木の間から眼下に広がるオークランド市内。
道を間違えたからこそ見えた景色が目に飛び込んだ瞬間、私は思わず目頭が熱くなりました。
長年続けた仕事を退職して、失ったものもあったのかもしれません。
また丘の上に行くまでの道を間違えたから、私の身体はボロボロになってしまいました。
…けれど、退職しなければ、道を間違えなければ、この景色を見る事は決してできなかった。
「きっと私の選択した道は間違いなんかじゃない。間違いだったとしても正解に変えてみせる。」
360度、オークランド市内を見渡せる丘の上に到着した瞬間、私の中で何かが変わった気がしました。
(…これからまた新しい職場で絶望したり死にたくなったりする事もあるんだろう。そんな思いに駆られた時は、またこの場所に必ず戻ってこよう。)
木々のざわめきや羊が牧草を咀嚼する音を聴きながら、大きな木の枝に腰掛けます。
何もしない、ただ目を閉じて自然の息吹だけを感じる。その中で、今までやこれからの人生に思いを馳せる。
丘の上で過ごした時間は、私にとって贅沢で、けれどもかけがえのない大切な時間となりました。
*
公園近くのcountdownで食材調達をする事にしました。
海外のスーパーマーケット特有の、大きなカートを押しながら、ガシガシと大量の食材や日用品を詰めていく光景に胸が踊ります。
食材(と自分へのおやつ)を調達し、友人のフラットへと向かいます。友人のフラットメイトたちはあたたかく私たちを出迎えてくれました。
フラットメイトにとって私は初対面の謎の日本人のはずなのですが、気さくに話しかけてくれるのがとてもありがたかったです。
お酒の力を少し借りながら、つたない英語で一生懸命話します。
故郷のこと、今日の授業のこと、これからの仕事のこと…。
「『before』という単語を『B4』と表記するなんて知りませんでした」
「…あ~確かに、使う人は使うね。ただ、私のイメージだけど、B4を使う人ってなんかチャラい印象を受けるわ(笑)」
「Hey、アイス食べなよ」
楽しい時間もあっという間に過ぎ、駅までの真っ暗な道をゆっくり歩きます。
「あなたの英語は人を笑顔にさせる、lovelyな英語よ」
うまく話せない事は重々承知ですが、それでもなんとか英語で話そう、伝えようとする私の情熱だけは無事に届いたようです。
私にとって勿体ないくらいの言葉をかみしめながら、みんなでサザンクロスを探しながら歩く2月の夏の夜の道。
…気が付けば、私の留学も折り返しに近づいてきました。
渡航前はあんなに行きたくない行きたくないと泣き喚いていたのに、今は帰りたくない帰りたくないと泣き喚いてしまいそうな衝動に駆られそうです。
虫の声が、暗くて静かな道に響いていました。
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