ニュージーランドプチ留学~香港マダムと謎の種~
渡航3日前から、私は夜になると毎日泣いていました。
授業の足を引っ張ったらどうしよう。
そもそも無事に現地まで辿り着けるのか。
トラブルに巻き込まれても誰も助けてくれない。ひとりぼっちで頑張るしか無い。
「明日なんて来なければ良いのに…」
色々な不安がぐっと押し寄せて、毎晩枕を涙で濡らしていました。
当日は泣き腫らした目で重い玄関の扉を開け、成田国際空港へと向かうバスをどんよりとした気持ちで待っていました。
すると小柄の可愛らしい女性が英語で、「このバスは成田国際空港に行くの?」と話しかけてきました。
(そうか…不安に思っているのは私だけじゃないんだ。迷ったら誰かに頼れば良い。)
この瞬間、まだ日本にいるはずなのに、初めて頭の中が海外モードに切り替わった気がしました。
日本旅行を終え、これから韓国に帰るんだ!と話す彼女と話すうちに、バスはあっという間に空港へ到着しました。
私はキャセイパシフィック航空という航空会社を利用したのですが、アプリをインストールしておけば、搭乗2日前からオンラインチェックイン(座席の指定)ができるので、ここでは迷わず通路側を選択!自由にトイレに行ける環境は大切ですからね…。
チェックインカウンターで荷物のタグと航空券を発行し、預けるスーツケースの取っ手にタグを付け、自動手荷物預け機へタグを付けたスーツケースを載せます。スーツケースはすうっと大きな機械の中に吸い込まれていきました。
ちなみに私の場合、成田→香港、香港→オークランド共に同じ航空会社だったので、スーツケースのピックアップ、再度チェックインは不要でしたが、不安に感じる場合は「Do I need to pick up my luggage and check in again at ●●(乗り換え先)?」と聞くと良いよ!というアドバイスを友人からいただいていました。
結局この魔法の言葉を使う機会はありませんでしたが、航空会社が途中で変わる場合は少し注意が必要かもしれませんね。
身軽になった今、緊張した面持ちで保安検査場へと足を進めます。多くの職員や旅行客が、荷物の入ったトレイを忙しなくベルトコンベアの上に流しています。
「Take off your jacket.(上着を脱いで)」
「…?!」
早口だったので全く指示が聞き取れずにわたわたしている私にしびれを切らして、保安検査場の職員が上着を脱ぐ動作をします。
そこでようやく意味を理解するとともに、しょっぱなからこんなので大丈夫だろうか…と、また不安な気持ちがグッと込み上げてきました。
上着を脱ぐ、手荷物をカゴに入れる、液体や電子機器類は分けてトレイに入れる…これを短時間で速やかに行わないといけないため、上着を脱ぐタイミングで慌ててしまい、マスクをどこかに落としてしまいました。ただし、金属探知機ゲートは難なくスルーできました。
出国審査について、最近は自動化ゲートが主流なのでパスポートにスタンプを押してもらう事も叶わず(別途違う窓口に並べば押してくれるとの事ですが、とてもそんな余裕はありませんでした)ここは少し味気なさを感じました。
一連の手続きを終えた後は、搭乗ゲートで香港行きの飛行機を待っていました。
いよいよ日本を離れる。
相変わらず寂しさと不安でいっぱいでしたが、保安検査場をくぐり抜けたあたりから、覚悟が少しずつ固まってきた感覚を覚えました。
成田〜香港までは大体4時間程度のフライトだったと記憶しています。隣に座る人がいなかったので快適なフライトでした。
香港国際空港に到着してからは全神経を集中させました。オークランド行きの飛行機への乗り換え時間は2時間半と限られている中だったので、時間との戦いでした。
飛行機を降りた瞬間から、ひたすら「Transfer 轉機」と書かれた方向に向かって早歩きしました。
途中、無料で使えるシャワールームもありましたが、時間が迫っている中だったので泣く泣く諦めました。
ロングフライトの前に一汗流したかったのですが…
歩みを進めていくと、国際線乗り換え搭乗ゲートと思われる場所に辿り着きました。撮影禁止エリア付近だったので写真はありませんが、銀色のポールが沢山立てられている場所を潜り抜けると、成田国際空港の時のような保安検査場が再び目の前に現れました。
(そうか、今私は、レベル5の到着ホール前の保安検査場にいるんだ…そして私は既に、乗り継ぎ便の搭乗券も持っている。…レベル6だ。レベル6に向かおう!)
保安検査場を潜り抜けた先にはエスカレーターとエレベーターの両方が現れましたが、私は勢いよく上の階層へと向かうエスカレーターに飛び乗りました。
そこで目に飛び込んだのは、搭乗ゲートを示すサイン…この瞬間、ようやく心の底から安堵する事ができたのです。
少し時間と心の余裕が生まれたので、周辺を散策してみることにしました。
春節の時期にしては人も少なく、比較的落ち着いているようでした。
美味しそうなお菓子やかわいいパンダのぬいぐるみなど、魅力的なものが沢山売られていたので、帰りは絶対にここで沢山お土産を買おうと目論んでいました。
(しかし、私のその目論見は良い意味で叶うことはありませんでしたが、この話は後日)
いよいよ不安要素のひとつであった11時間のロングフライトが始まりました。
時刻は日本時間で23時頃だったと記憶していますが、アドレナリンがドバドバと出ているので全く眠気はありませんでした。
私の隣にはお上品な婦人(以下、マダム)が座りました。
軽く挨拶を交わしますが、この瞬間、離陸前からマダムの怒涛のマシンガントークが始まります。
「どこから来たの?ひとり?まぁ、日本?!日本は私の大好きな国よ!昔、東京の横浜(※恐らくマダムは横浜が東京にあると勘違いしている?)に行ったことがあるわ!」
「あらっ私のUSBポート、接続が悪いようだわ。あなたのポートを使わせてちょうだい?」
「私の娘にソックリねぇ、あなたおいくつ?あらまぁ3X歳なの?!あなた、25歳くらいに見えるわよ!!」
(日本人は若く見えるという噂は聞いていましたが実際に言われると嬉しいですね(笑))
…機内食が配られてもマダムのトークが終わる気配は一向にありません。機内ではニュージーランドへの入国カードが配られるのですが、
「あら、ねぇ、私の国籍って何?!どう書けば良いの?教えてちょうだい」
(私に聞かないで…(*_*))
パスポートを広げてぐいぐいと見せてくるマダム。
国籍は中国(Chinese)、出生地は香港(HongKong)。
ここで私は初めてマダムが香港の人である事を知ったのです。
確かに、国籍と出生地が異なる表記だとこういった時に混乱を招くものだよなと思いつつ、私は自分の入国カードにJAPANESE、JAPANとペンを走らせました。
マダムも私のカードを覗き込みながら、カードの記載項目をひとつずつ埋めていきました。
そのうちマダムも喋り疲れたのかスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまい、私は眠る事なくスマホをできるだけ暗くしてAmazonプライムで事前にダウンロードしていた水星の魔女を鑑賞していました。
夜明け前、起きている人にのみおやつとしてエッグタルトが配られてきました。真っ暗な中で食べる熱々のエッグタルトのあの背徳感たっぷりの甘さは未だに忘れられません。
翌朝、機内が明るくなる頃にマダムは目覚め、ストレッチをしないかと誘われ、ギャレー付近の広いスペースで共に身体を伸ばしました。
「長時間座ってると腰が痛くなるのよね」
「私もです…」
最後の機内食の配膳中に、マダムは機内食を断っていました。そして、彼女はおもむろに鞄からラップに包んだふかし芋と謎の種が入った袋を取り出しました。
「ねぇ、あなた!これ食べきれないと捨てちゃう事になるから良かったら食べなさいな」
私のお皿の上に、大量の謎の種がざらざらと注ぎ込まれました。
海外で知らない人から食べ物を貰う事に抵抗感はありましたが、そもそもこの食べ物は保安検査を通過したものであることと、目の前で勢い良くバリバリと謎の種を頬張るマダムを見て、厚意を無下にするのも失礼だと思い、覚悟を決めて私もその種を頬張りました。
塩気が効いて美味しかったのですが、この種は未だに何の種だったのか分かりません。(早口で聞き取れなかった…袋にはprotein〜と書いてあった気がします)
そしてズドン!と着地の衝撃と共に、我々の乗った飛行機は無事にオークランドへ到着しました。
合計15時間にもわたるロングフライトがようやく幕を閉じたのです。
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