生きて 生かされる〜ミュージカル『刀剣乱舞』 和泉守兼定 堀川国広 山姥切国広 参騎出陣 八百八町膝栗毛〜
大千秋楽から1ヶ月以上経って次の刀ミュの祭が始まってしまいましたが、アタシの心はまだ江戸にとらわれているので、“参騎”のお話です。
八百八町=江戸へ!
ミュージカル『刀剣乱舞』は、ざっくりわけると、いわゆる「本公演」と、真剣乱舞祭などといった「ライブ公演」、単騎出陣などといった「スピンオフ公演」があります。
あ、もちろんこれは便宜上アタシが分類してるだけね。
そして参騎こと『和泉守兼定 堀川国広 山姥切国広 参騎出陣~八百八町膝栗毛』はスピンオフ公演。本公演とリンクしながらも、その刀剣男士ならではの物語が紡がれます。
スピンオフ公演はこれまで、加州清光の単騎出陣、源氏兄弟・伊達組・村正派の双騎出陣、江が勢揃いした江 おんすていじ といろいろありましたが、三振りが出陣する「参騎」は初めて。しかも土方組(兼さん、堀川くん)、国広兄弟(堀川くん、まんばさん)、江水組(兼さん、まんばさん)と、三振りそれぞれに関係性があるっていうユニークな布陣。これだけですでにワクワクしてしまうわけですよ。
さらには、大学の先輩を通じて知り合った俳優の山岸門人さんも人間キャストとして出演するってことで、楽しみが倍々ゲームみたいになっていました。アタシは!刀ミュの!人間キャストが大好きなんだ~~~~!!!!!(突然のクソデカ声)
さて、「八百八町膝栗毛」のサブタイトルとメインビジュアルの空気感から察していた通り、今回の出陣先は江戸時代。その中でも後期にあたる寛政4年(だったよね?うすらぼんやりした記憶で書いているから、違ったらおしえて!)で、「化政文化の夜明け前」と劇中でも言われていたように、寛政の改革で町民文化が締め付けられた後のお話でした。
「出陣」とはいうものの、彼らに課された任務の内容はあくまで「遠征」。時間遡行軍と戦う任務ではありません。ミュ本丸の審神者が「労い」という言葉を発していたので、そういった意味もこめていたのかな。
そんな江戸の町で、三振りは江戸のメディア王・蔦屋重三郎と出会います。さらには売れっ子浮世絵師の喜多川歌麿、今はまだ何者でもない手代の瑣吉(のちの曲亭馬琴)と出会い、彼らの日々に寄り添うことになり……。
ってな感じで物語は進んでいきます。終始カラッとしていて明るく、エネルギーに満ちていて、刀ミュでは初めての手触りの作品でした。これこそがスピンオフの醍醐味だよね。
とはいえ、もちろんそんなのほほんとしたままで終わるはずもなく、鬱屈した思いを抱いていた瑣吉の筆が暴れ出す(物理)わけですが、そこは本編を見て楽しんでねってことで。
刀ミュ本丸における“参騎”の位置付け
参騎は刀ミュの時間軸としてはおそらく最新の物語ですね。
兼さんは極済み、堀川くんも修行から帰ってきて極になっていました。
むすはじ……(すぐ思いを馳せる妖怪)
この作品、ちょっと乱暴な言い方にはなってしまうんですが、「山姥切国広が極になるための背中を押す物語」だったと思っています。
前述の通りかなり明るいテイストの作風ゆえにあまり意識しないんですが、彼らが訪れた時代のちょと前って飢饉やら財政難やらで、江戸はもちろん全国的にかなり打撃を喰らっていた時期なんですよね。
そこからの「寛政の改革」で、当時のエンタメを担っていた本や浮世絵は「風紀を乱す」とされて処罰の対象になり、蔦重もちろん罰せられていて。この辺は町人の会話でさらっと流された程度ではあるんですが、三振りがたどり着いたのは、そんな時期を経た江戸になります。
つまりは、いわずもがなではありますが、一度“折れて”から立ち上がり始めた時代と捉えることもできるんですよね。(まあそんな時代いっぱいあるじゃんってな話ではあるんですが、それを言ったらおしまいさってことで)
そんな時代に重ねているのは、もちろんまんばさん。
まんばさんは、かつて自身が隊長になった出陣で仲間を失い、そのことが大きな傷となっているようでした。この本丸のまんばさんにとっては、写しであることよりも、この“事件”がコンプレックスの原因になっていたのかもな、なんて。
江水の頃は自身が折れてしまってもいいとすら思っていたようだったけれども、結果として物理的にも精神的にも救われて、さらには次の陸奥の出陣で、かつての出来事にむきあう決心ができた。
そう、“硬い蕾”は、徐々に柔らかくはなっては来ているんだよね。あと、あと一歩なんだよ~~~! そしてそんな背中を押せるのは、先に修行をしてきた2振りなんだよね。
「そろそろその布をとっていいんじゃねえか?」
キャスト陣も“極”に
アタシが刀ミュにハマったのは、初演の「阿津賀志山異聞」のライビュがきっかけだったんで、初めて生で観劇したのは「幕末天狼傳」でした。
当時は2.5があまり得意ではなく、演者さんの名前と顔もろくに一致していない状態だったんですが、そのときあまりのスタイルの良さにびっくりして思わずブロマイドを買ったのが、有澤くん演じる兼さんだったんです。
そこからの彼の活躍はアタシがいうまでもないのですが、帝劇0番を経て刀ミュに戻ってきた彼は、兼さん同様に“極”になってました。歌もお芝居も堂々としていて、それでいて見ているこっちが思わず笑顔になってしまうチャームも持っている。あれは強え……。
堀川くん役の奨悟くんはキャス変でむすはじからだったんだけど、なんだかんだでキャリアが長いっていうのもあって、安定感が抜群な上に、自分の見せ方をちゃんとわかっているんですよね。
年齢感や顔立ちのせいもあいまって“お姉さんみ”があるんですが、今回の「お国ちゃん」はそれをフルに生かしていて、存在しない記憶がたくさん生まれてしまいました。お国ちゃん、その隣にいる美丈夫は誰なんだい……?
まんばさん役の大悟くんは、役柄的にもキャリア的にもまだ“極”とはいいきれないんですが、だからこそできる、奇をてらわないまっすぐさがとてもいいんですよね。お芝居は正直まだ発展途上。でも、それを上回るくらいの歌唱力と存在感があって、有澤兼さんとはまた種類のちがう堂々さがあって、期待しかないです。役も本人も“極”になったら敵なしなのでは……?
そして、人間キャストもほんとによかった(語彙)。人間キャストがいいときの刀ミュに間違いはないんだよな……。
蔦重役のオレノさんの捲し立てるべらんめえ口調はほんとに気持ちよかったし、人を巻き込みながら進んでいくパワーに満ちていました。
山岸くんの演じる歌麿は、妖しさとひねた空気があって、いい意味でとてもめんどくさそうでよかったな。まんばさんに煙を吹きかけたあと、2人にしかわからない絶妙な笑みを交わすシーン、すごく好きだった!
瑣吉役の鈴木さん、とても難しい役柄だったと思うんです。しかも当初とは違う役柄での参加。でも、そんなことを微塵も感じさせないくらい説得力がありました。あれは恨みつらみを溜めるタイプの作家……。
そして謎の男!え、前田さんめちゃくちゃよくないですか?歌もうまいし、お芝居も強いし、引力がある。テニミュ通ってないせいもあって初めましてだったんですけど、いいですね……。覚えときます!
いつものアンサンブルさんも大活躍で、江戸の町を立体的なものにしていました。やっぱりね、刀剣男士と人間の交流を描いてこその刀ミュなんですよ(諸説あるがの!)
生きて、生かされる
一面的に見ればこの物語は、創作に関する苦しみや、それでも創作せずにはいられない人たち、そして創作の喜びを描いていました。
自分に才能があると信じていながらも表出する術を知らず、まだ何者にもなれないままもがいている瑣吉。
絵師として名を馳せながらも、本当に自分の描きたいものを描けていないのではないかと思い悩む歌麿。
人の才を見出すことはできても、自身では生み出すことができない蔦重。
それぞれが創作に対しての苦しみを味わっていて、そこに刀剣男士が寄り添っているもんだから「それは創作者の都合だろ」みたいなのもちょこちょこ目にしました。
確かに自分に刺さりまくったのは、そういった面が大きいのかもしれない。編集という仕事は、広義でいえば蔦重と一緒なんでね。(あそこまでの偉業はなんもやってないけど)
でもね、この物語に描かれていることって、実は創作に限ったことじゃないんだよね。
人生って、全てが何かの意味を持っているわけではない。何者にもなれなくてもがいている人がいて、もちろん夢が叶わない人もいて、夢を叶えたとしてもその先には苦しみがある。
それでも生きていかなければいけないんだよね。
そんな「生」を、「営み」を全肯定してくれるような物語だった。「文化」ってね、あたりまえだけど、人が生きているから、営んでいるから生まれるんだよ。すごく元気になったな。
刀剣乱舞は、刀という人を殺める武器がモチーフになっている以上、戦=殺し合いを避けるのが難しい物語で、でも、だからこそスピンオフでそうじゃ無い物語を描けるようになったことが、とても嬉しい。初めてじゃ無い? だれも死なない刀ミュって。
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江戸の町に花火のように突然現れ、夏の終わりとともに消えていった伊達男たち。そこで紡がれた物語は彼らの手にわたって江戸には残らず、描いた絵は絵師によって紙屑となった。歴史には残らないひと夏の出来事としてあまりにも完璧な物語でした。まあ歴史に残ったら大ごとなんですけど!
ふたつの伸びる影を見つめるしかできなかった子が、ひとつの影を経て、みっつの影になったんだもん。きっと大丈夫。
「呪いのままにはしてはおけない」んでしょ? 極んばせんぱい、待ってます。
さて、次の出陣はどうなるのか。
まずは祝玖寿 乱舞音曲祭を楽しみますね!
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