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2021年 邦楽ベストアルバム

10位 Ooveen - UCHU YUEI
きちんと大事な部分は踏み外さない器用さと時おり顔を出すエキゾチックなフレーズ。それに加えて、全体的にリズムが力強い作品に仕上がっているところが好き。
「アイラブユー」からそのまま「憂うつな空気」に繋げるなど上手い言い回しもありつつ、等身大すぎる内容の歌詞も聴き逃せない。

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9位 笹倉慎介 - Embankment
日本語の響きを濁さないでメロディに乗せる教科書のような一枚。巻き舌っぽい発声や、空気を多く含んで輪郭をボカしたりせず、素材をそのまま活かす様はさながら日本語のオーガニック料理と言ったところ。しかも今作は音数が少ないため、より日本語とメロディの旨味を味わえる。
冬の乾燥した空気とも相性バッチリ。

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8位 luvis - 走馬灯で逢いましょう

全体を通して夏がテーマになっているこのEPは全てがちょうど良い感じ。そして沢山の引き出しがあってもそれを見せびらかさないのが粋でもある。
楽曲に対する緩急の付け方がDJっぽいので、もしかして気になるあの人に向けて作ったミックステープ的なこと?っていう妄想も広がってしまう。

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7位 HIMI - Hold on your life EP
サブスク全盛の時代で少ないフレーズを繰り返すことがいかに勇気のいることかを想像してみてほしい。それをサラッとやってのけたのがこのEPである。徐々につく展開も音が少し足されたり、節回しが変化する程度なのに、その変化に触れたら自然とグッときてしまう。なんか、それはもはやズルいと思う。

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6位 NTsKi - Orca
Brian Wilson「Smile」を彷彿とさせる複雑なコーラスによって幕が上がるこのアルバム。打ち込みによる電子音主体でありながら、声を全面に押し出した身体性の高さが魅力的。機械と身体の関係でいうと、押井守版「攻殻機動隊」とも通底するようで、SF的なイメージも拡がっていく。
ちなみに「HSK」という曲の意味深なタイトルは「ハーゲンダッツ・ストロベリー・炬燵」の頭文字だと気づいた時はズッコケた。

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5位 Sound’s Deli - Made in Tokyo Bang
90年代東海岸的な要素を使いながらも、あくまで現代の音作りをベースにしていて、懐古的になってないところがとても良い。MCそれぞれの個性が強いのも好き。
「黄色の肌はピカチュウ」というラインは本当に最高で、RHYMESTER「B-BOYイズム」における「俺の名前は黄色いB-BOY」をアップデートしてくれたんだと勝手に思い込んでる。

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4位 OMSB - Monkey EP
めちゃくちゃぶちギレてるけど、言いまわしが面白くてついつい何度も聴いてしまう。トラックはSimilabのキャッチーさとソロ2作の難解さを足して2で割ったようなバランスの良さ。偉大な先人たちへの敬意を通して、音楽的背景が自然と透けて見えるのに品を感じる。
このEPでOMSBが如何に才能と実力を兼ね揃えたMCであるかを改めて証明してくれた。こんな凝りに凝ったものを作るのにどれほど身を削ったんだろうか。なんだか泣けてくる。
もし聴いたことがないのなら、OMSB入門としてもぜひ本作を勧めたい。

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3位 折坂悠太 - 心理
前作を上回れるか問題という優れたアーティストほどぶつかる壁を本作は洗練という形で飛び越えている。おそらく予算的に可能なことが増える一方で、本当に必要な音楽的要素を精査するのにかなり気を配ったのではなかろうか。そしてそれが見事に結実した、素晴らしい作品だと思う。
今時で言うとLana Del Reyが割と近いと思うが、少しさかのぼるとDonald Fagenの姿勢に行き着くかと。そういえば、2019年レコードの日で使われた広告は「The Nightfly」のオマージュだった。もしや本作への布石だったのか。これは確かじゃないけど、そうかも知れない。

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2位 5lack - Title
現時点での最高傑作アルバムだと胸を張って言い切りたい。それくらいの素晴らしい内容。
1曲目のスネアが入った瞬間に心を鷲掴みされてしまった。まるで5lackのヒップホップ原体験を追っているかのようだ。そこから現状への不満と苦悩、マイクスキルへの自信、そして見い出していく未来への決意へと展開していく。
今までは飄々としてる印象だった5lack。そんな彼が自分のことをここまで赤裸々に曝け出して、なおかつ外側へも手を伸ばしている。
「俺も変わりたい」という言葉を5lackが使うことの重みを聴く側もきちんと受け止めなきゃいけない。これは私たちの言葉でもあるんだ。

配信JKT_black2-1-1536x1536


1位 CHIYORI × YAMAAN - Mystic High
このアルバムを初めて聴いた時は本当に驚いた。今までこんな音楽は聴いたことなかったから。
メンフィスラップやアンビエントを参考にしたと紹介文には書かれているけど、普通はそれをこんな風にまとめないでしょ。どちらかというとMassive Attackの2ndアルバム「Protection」が近い手触りなんじゃないかと思う。かと思えば「Boyz-n-the-Hood」が突然出てきたりする。とらえどころがないんだけど、聴き心地がかなり良くて曲の繋がりもバッチリ。つい最後まで聴いてしまう。
歌詞の内容もかなり良い。なんかスピリチュアルなこと言ってると思ったら、いきなり「いざ水風呂へ」っていう言葉が出てきて、銭湯の歌だったのかと拍子抜ける。しかも曲の最後に「最高、キマったわ」って歌ってて、聴いてるこっちも最高な気分になる。「いざ水風呂へ」という言葉もCHIYORIの声に乗ると音が引っかからないで綺麗に響く。ここだけでなく全体的にきちんと言葉の響きを選んでることがよく分かる。
掴みどころがないんだけど、まとまりがある。感覚的にも気持ちいい。新鮮でありつつ、発展の余地もまだまだありそう。つまり、これが2021年のベストアルバム。

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