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2022年 邦楽ベストアルバム

10位. さらさ - Inner Ocean
少ない音数でも確実に印象が残るのは彼女の歌によるところが大きいと思う。90’s R&Bを想起させる複雑なメロディーなのにほとんど日本語で構成された歌詞は非常に洗練された印象を与える。特に『太陽が昇るまで』ではその能力の高さを証明している。
『退屈』では「生活の柄」という歌詞が出てきて、もしや高田渡リスペクトなのかと想像してみたり、まだまだ彼女の全貌は見えてこない。

9位. KANDYTOWN - LAST ALBUM
KANDYTOWNの楽曲に感じるカッコ良さは、高橋ヒロシの漫画を読んでいる時に感じるものに近い。クールで余裕がある、そして色恋沙汰がほぼない。
断片的な場面を紡いでいくこのアルバムを聴き終わった時、頭の中には街を俯瞰した風景が浮かびあがってくる。「俺もその一人 この街の一部さ」というリリックの通り、まさにそんな気分にさせてくれるのだ。
なんにもなかったわけじゃない彼らが最後に真っ直ぐなカッコ良さを提示してくれたことに拍手を送りたい。

8位. KURO - 翡翠
ボーカルさえも霧に包まれているような音像の中でリズムだけが静かに輪郭を映し出す。そして突然ラップが磨りガラス越しに手を触れるように現れる。
一曲目の『High』が特筆すべき出来栄えで、アンビエント的な要素が上手く組み込まれている。歌詞ではKUROが近田春夫やボリス・ヴィアンを引用したかと思えば、CampanellaはクレヨンしんちゃんのED曲を引用するという謎の展開も面白い。
寝つけない夜から始まり、いろんな夢を見て、目を覚ますと喉の渇きと現実を自覚するというのがEP全体の構成なのだと想像しながら聴いた。

7位. Shurkn Pap - Call Me Mr.Drive 2
このアルバムはとにかく気持ちよく聴けるのが大きな魅力だ。推進力のあるビートはそのまま車窓を流れていく風景と繋がっているような感覚になる。
全体を通してどこか上品さを保ち続けているのはShurkn-Pap自身がそういう人物なのかもしれない。
「世間と反対車線」など、自動車の運転と生き方が重なっていく言葉があるところも作品に深みを与えている。

6位. Kuniyuki, sauce81 & 寺田創一 - Let’s Get Down EP
三人の電子音楽マエストロによる即興共演は互いの個性をぶつけ合うことなく、リスペクトを前提とした非常に紳士的な作品に仕上がっている。
隠し味に奇抜な食材を使うことはせず、岩塩をひとつまみ足してみるだけでこんなにも美味しいパスタが出来ました的な余裕すら感じる。

5位. MonyHorse - MONIBUM
まずアルバムタイトルからして最高である。そして、どんなトピックをラップしても「これがモニー」という言葉でなんとなく納得させられてしまう。
ゲストラッパーたちは豪華というだけでなく、幅が広いことにも注目したい。もしKOHHが参加してくれていたらとも思うが、それは望み過ぎかもしれない。
どの楽曲もクオリティが高く、現時点でキャリアの集大成と言っていいだろう。そして「お巡り お黙り お座り」なんてパンチラインを出せるのはこの世にモニーしかいないだろう。

4位. MICHINO & 共進ランドリー - ContraAtaque
ジャケットから想像する通り、中身もかなり攻撃的。メリハリの効いたサンプリングビートは思わず首を振りたくなる王道を踏襲している。それに呼応する様にきっちりと聞かせるラップはFebbのキャリア後期、あるいはA-Thugを少し思い起こす。
『Growping』に出てくる「誰も分からない明日のことを 我が物顔で語る奴をカモろう」はヒップホップ本来のカッコ良さを思い出させてくれる。それはどんな相手に対しても、上手く出し抜いていける強かさだ。

3位. OMSB - ALONE
内省的な世界がこのアルバム全体を覆っている。OMSBの魅力である世間を上手く皮肉っていくスタイルは影を潜め、自身の内面をとことん深く掘り下げていき、その先に光を見出していく。まるでアルバム全体を通してカウンセリングしているようだ。
その反面、音としてはこれまでのキャリアで最も聴きやすく仕上がっており、多くの人に対して開けた作品でもあると言える。
2019年のAVALANCHE 9で初めて聴いた「後ろに居たいのに 強い承認欲求」というリリックをずっと覚えていたので、今回のアルバムに出てきた時はかなり驚いた。この言葉を捻り出したこと自体凄いが、これを自分の言葉として受け入れるのには相当の覚悟がいる。それが出来るから彼は黒帯なのだと思う。

2位. 柴田聡子 - ぼちぼち銀河
正直に白状すると、彼女が作る歌のメロディが苦手だった。急に跳ねる抑揚は特に聴き心地が悪いと思っていた。しかし、今回のアルバムを聴いた印象は全く違う。彼女の歌が持つ抑揚に対してリズム隊が的確に寄り添うことで、もの凄く心地よいグルーヴを生み出しているのだ。そうか、彼女の歌はリズム的に解釈すべきものだったのか。なんたる不覚。己の浅はかさに恥じ入るばかりである。
それにしてもこのアルバムが持つ風格の確かさよ。歌も演奏もミックスも全てが素晴らしいし、どれもこれもカッコいい。もはやUSインディーの大物感すらある。
願わくばPhoebe Bridgersが来日する2023年に2マンを組んでほしいものだ。実現したら凄いライブになると思うので、どなたかブッキングしてください。

1位. saccharin - 運命街
本当にギリギリなんだけど、際どいところでポップ。そして大仰な音がキメキメなポイントで足されていくのは際どいところでカッコいい。もしかしたらダサいかも。とにかくグイグイと引き込まれていくうちに、気づけばリピートしてしまう。これは好きだと認めざる得ない。もはや生理的に。
実は演奏で参加している面々はかなり豪華で、ファンクを基調としてしっかりとした土台を形成している。
『魅力と欠点』で歌われる「社会の温もり冷たさ両面で触れる 器用さの押し売り求められ耐えていく 一人間らしさの基準を決める前に 魅力と欠点は同じだと言ってください」という歌詞は聴く度にジーンと来てしまう。映画「ドライブマイカー」にも通底するテーマだと思うし、同時代的に呼応もする。
私はそんな言葉を誰かが言ってくれるのをずっと待っていたのかもしれない。きっとそうに違いない。だからありがとうと言わせてほしい。本当に、ありがとうございます。


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