第2章 3話 此の先へ/死の世界へ(3/3)
「ここが死の世界?」
これが死後の世界なのか?自分がイメージしていた風景や感覚とはまったく違っていたので拍子抜けした。だけどきっと何かが違うはずだ、見渡したところ景色は日常と変わらないがこの不思議な感覚の違いに、一体なんの意味があるのか?
それを確かめたくて冷静に考えてみた。
あ、思い出した。
そう言えば、臨死体験した人が、どこへでも瞬間移動出来るって言ってたな。
そう意識した瞬間
僕は宇宙空間へ飛び出していた。瞬きほどの速さで。
そこから見える自分は地球の意識ある細胞のひとつだった。と思った瞬間、自分の体の内側のミクロの自分に移行していた。そして、細胞から分子、原子、素粒子となった。そしてその細胞や素粒子1つ1つにも個々の意識を感じた。僕という体はその集合意識で動かされているんだと感じた。
ふっ、元の自分をイメージした。
その瞬間にはもう元の固有の自分に戻っていた。
不思議な感覚だけど、こうなることもすべて知っていた、そんな感覚だった。
僕はちょっと冴えた顕在意識の中で今起きたことを整理してみた。
死とは消滅でも別の世界への移行でもなく、元いた場所に戻る事。
そして今も、僕たちはそこにも居る。
死とは、
自分=魂と身体との距離が変わるだけなんだ。
たばこ屋の店の前の青い線を元いた方に戻り、僕はまた元の日常を歩いて元いた場所に戻った。
この体験をしてから、喧嘩ばかりしていた2歳下の弟のことも、元は同じ素粒子であり同じ地球の細胞の一部なんだと感じると可愛くて仕方なくなった。
この机も、窓から見える木もみんな元は同じ素粒子であり地球の一部だと思うと愛というまだ使った事のない言葉を魂と身体で感じた。
そこに照れ臭さも無くなっていた。
照りつける太陽と、蝉の声は変わらず日常の演出を醸し出しているけれど、
僕はこの体験で自分の存在の意味を知り、初めて自分=魂と身体が一致した気がした。
もう一つ、あの時は分からなかったことの答えが出た。
あの時新聞配達の自転車は、どうして何もなくたばこ屋の前を通り過ぎていったんだろう?それについて疑問を感じていた。
その答えはある日、部活中にグラウンドを走っている時、突然頭の中に降ってきた。
「認識していないものは、その人の世界には存在しない。」
それが答えだった。知ってしまった僕の世界にできた死という平安な異次元世界。
2021年8月8日
不思議な体験をした夏だった。