コーチング業界でよく言われる「過去は全く関係ない」は果たして本当なのか?
落ち込んでる人を前にして、
過去は全く関係ない。
今がベスト。
こんなことを言うのは、本当にバカだと思う。
俺はコーチングを広めるようになって6年経つが、その活動の中で、「過去は全く関係ない」という言葉をよく聞いてきた。
「過去は全く関係ない」というフレーズは、実はコーチングを学んでいる人たちががよく使う言葉。
しかし、多くの人がその意味はなんとなく分かっても、理解して使えるレベルに昇華させるまでに、どうしても時間がかかってしまうように感じる。
俺はコーチングを広めている立場の人間として、今回は「過去は全く関係がない」の正しい理解を伝えたいと思う。
それでは早速、はじめよう。
今回、争点となる「過去は全く関係がない」という価値観は、一言で言えば「ゴールを設定する時に大切になる基準」です。
これは非常に大切な概念なので、ぜひ覚えていて欲しい。
コーチングを知らない人もいると思うので、少し解説をすると、「ゴール」とは、これからなりたい理想的な自分や、達成したい状態、叶えたい夢という認識で大丈夫です。
コーチングにとって「ゴール」とは最も大切な概念で、理論の全ては「ゴール」につながっていると言っても過言ではありません。
まず、あなたが心から叶えたいゴールを設定し、それを達成するためにはどうすればいいか?と考え抜き、行動も伴わせていくことがコーチングの醍醐味です。
そして、ゴールを設定する時に大切になってくることが「過去は関係ない」という視点です。
これを分かりやすく説明すれば、
今できることの中からゴールを設定するのではなく、「何がやりたいか?」という視点でゴールを設定するということ。
つまり、「今できること」というのは、多くの場合、過去にやったことがあること。その中でゴールを考えてしまうと、極端に狭い範囲でしかゴールを設定できなくなってしまいます。
なぜなら、人は経験したことがないことの方が圧倒的に多いからだ。
だから、あなたがゴールを設定する場合、過去を基準にするのではなく、未来ベース。過去は一切、関係ない状態で、やりたいことを設定するのがよいというわけです。
これが「過去は全く関係がない」の本質に当たります。
しかし、ここで俺たちが考えなければならないことが1つある。
それは、「過去は全く関係がない」と言えるのは、「強者の理論」であるということ。
例えば、ある40代の女性が、これまで1度も男性とお付き合いしたことがないとしよう。そして、これから素敵なパートナーと出会い、ゆくゆくはその男性と結婚したいと考えている。
この女性に対しコーチが「過去は全く関係ありません。素敵だと思った男性がいたら、積極的にアプローチしていこう」と伝えたとします。
こんなことを言われた女性はどうなると思いますか?
さらに精神的に辛くなるだけです。
なぜなら、それが出来れば誰も苦労はしないし、そもそも相談なんてしない。もちろん、高い金額を払ってコーチングも受けない。
「それができないから困っているんです」という人に対して「過去は関係ないから、やればいいんだよ」と言うのは、典型的な強者の理論です。
yesというグループでは婚活業界にコーチングを広めているが、実際、こうした悩みを抱えている男女は非常に多い傾向があります。
「過去は全く関係ない。とにかく前を見ていこう!」
それは確かに素晴らしい考え方ですが、その価値観を採用できること自体が「自分は強者なんだ!」と、まずは認識しなければいけない。
世の中には、強者になりたくても、様々な理由から弱者になっている人たちが大勢いる。
こんなことを話している俺自身も以前は「強者の理論」を採用し、人生を180度変えてきた。
サラリーマンで5年間、絶望していた所から、コーチングに出会い、気づいたら半年後には独立起業して社長になっていた。
そこから複数の会社を経営するようになり、海外でもビジネスを展開できるようになったのは、間違いなくコーチングを学び、それを使ってきたから。
だからこそ「強者の理論」を採用し、それを採用できない人をダメなヤツだ!とバカにしてきた時期もある。
なんだこいつ、事あるごとに「言い訳ばかりしやがって!」と正直、何度もムカついたこともある。
しかし、それは俺が強者のポジションを取れる人間で、実際の世の中を見れば、様々な原因が重なり「弱者」になっている人たちが多い現実がある。
つまり、コーチングの効果があるのは、「強者だけ」で、弱者にとっては効果を発揮しない。
「強者の理論」だけでは人は動かないし、決して変わることがないからだ。
ここで俺がいう強者の定義をしてみたい。
それは、一定水準以上の家庭に生まれ、一定水準以上の愛情を両親から受け、一定水準以上の教育を受けさせて貰った人のこと。
さらに、五体満足で何の障害もなく、一定水準以上に健康で、自己肯定感をある一定水準以上を満たせる容姿で生まれてきた人。
勉強させて貰える環境が普通にあり、その家庭には笑顔があり、身体も健康で、容姿も普通以上、そして自己責任もある人。
こうした人たちがここで言う「強者」に当たる。
強者たちは、自ら努力し、道を切り開き、そして、今の地位や生活を手にしてきた。
もちろん、それは素晴らしいことで、尊敬すること。
しかし、同時にそれは強者になれる環境が偶然にも用意されていたからだということを俺たちは忘れてはならない。
つまり、強者になれるのか?なれないのか?というのは、大部分が環境の問題であり、その大半が親子関係に起因する。
言い方は悪いが、親がクソなら、子の被害は甚大なものなる。
俺がコーチングを広めて実際に見てきた景色は、強者の人たちが当たり前に持っている環境が、全くない人たちもたくさんいるということ。
そして、それが原因で苦しんでいる人たちが大勢いると言うことだ。
例えば、子どもの頃から両親が毎日、喧嘩をし、父親は酔っ払って、自分の娘に暴力を振るい、さらに性的虐待を繰り返す。
そして、母親からは「お前なんて生まなければよかった」と真顔で言われ、育った人も実際にこの世の中には沢山いるのだ。
そうした人も気持ちを強者は分からないし、理解しようとさえしない。
これは強者の驕りだと思う。
先ほども言ったが、俺もここでいう「強者」に運良く入っている。
しかし、そんな俺も、容姿が極端に悪く生まれ、子どもの頃から「お前キモい!」と周りからイジメられ続け、女子からも徹底的に避けられて育ってきたら、弱者の立場になっていたかもしれない。
また今、強者に当たる人も、両親から全く愛情を与えられず、教育もロクに受けさえて貰えなかったら、間違いなくその人生は変わっているだろう。
世の中には、たまたま裕福な家に生まれ、親の愛情をたっぷりに注がれ、容姿もよく、欲しいと言ったモノは買って貰え、素晴らしい教育環境を与えられた人がいる。
これは非常に恵まれた環境だが、本人にとってはそれが当たり前のため、その前提を忘れています。コーチングでいうスコトーマになるのだ。
その反面、世の中には、親の愛情も注がれず、虐待を受け、欲しいものも一切買って貰えず、容姿のことで人からバカにされ、教育もロクに受けられなかった弱者もいる。
全く違う環境で生まれ育った2人を同じに捉え、強者の常識を弱者に当てはめようとするのが「強者の理論」の本質にある。
もちろん、生まれ育った環境がどれだけ劣悪でも、強者として生きている、本当に強い人もいる。
それは本当にリスペクトすべき人だが、確率論的には間違いなく少数派に入る。
実際に分かっているデータでは、親から何かしらの虐待を受けて育った人は全体の13%もいる。
10人に1人は、親から何かしらの虐待を受けているわけだから、事態は思っているより深刻かもしれない。
この数字に加え、容姿の問題、イジメの問題、事故による被害、健康問題なども加えれば、かなりの多くの人が「弱者」の立場になる可能性がある。
それはその人の能力や知能の問題ではなく、圧倒的な環境の問題。つまり、誰しも起こりえる構造的な問題だといえる。
本当の強者とは、他人の痛みも感じる取れる人だと思うのだが、どうだろうか?
少なくてもコーチとして活動している人は、こうした知識もしっかりと学んで欲しいと思う。
強者は自分で努力し、高い壁を乗り越え、人の責任にもせず、頑張ってきた。
本当に素晴らしいと思う。
しかし、だからと言って、他の人があなたと同じことができるとは限らない。
ここまでお伝えしてきた通り、そもそも頑張れるような環境を用意されなかった人たちが沢山いるからだ。
これがコーチングを広める活動をして実際にわかったこと。
「過去は全く関係ない」
そう言うのは簡単だ。
だけど、本気でそう思えない人たちが世の中には一定数以上いることをぜひ覚えていて欲しいと思う。
最後に、「過去は全く関係ない」は、これからゴールを設定する時に役に立ってくれます。
そして、何ができるのか?(=過去基準)ではなく、何がしたいか?(=未来思考)で、ゴールを設定して、実際に進んでいけば、ますます、今よりハッピーな人生になっていくでしょう。
ぜひ、しっかりとした知恵を身につけていただければ、幸いです。
内山和久