ワーホリ体験記・その④パリの地下に広がる異空間

ナタナエル家に落ち着いてしばらく経ったとき、
彼の弟さんがカンヌから帰ってきた。
そして空いている私の隣の部屋にしばらく滞在していた。

弟さん、イケメン！
オーストラリア人の彼女を連れてきたりして、ちょっと家が賑やかになる。
そんなとき、ナタナエルさんにパリの地下を探検するんだけど、一緒に来る？と誘われた。

パリの地下？！！！
なにそれ！

話を聞くと、パリの地下はかつての採石場として無数のトンネルが掘られていたので、穴だらけで、かつては死体置き場として使われていたそうだ。
現在はカタコンブ(地下納骨堂)として一部が観光地として公開されているが、大部分は立ち入り禁止区域のようだ。
警察に見つかると、一回38ユーロの罰金だそうだ。

なぜなら一旦入ると、迷路のようになっているので、簡単に外には出られないらしい。
何人かパリの地下で遭難者が出たらしいし、ホームレスもその理由であまりいないらしい。

ナタナエルさんは友人からパリの地下の、あるルートの地図をもらっていて、何回か入ったことがあるらしい。

そして今回は弟と一緒に行くんだと言っていた。

Ricka なら大丈夫そうだから誘った。と言われる。

うん、ちょっと怖いけど行ってみたい。

ナタママから捨てても良い靴をもらってヘッドライトも借りた。
地下は靴も捨てなきゃいけないほど汚いらしい。
ネズミとか普通にいるのよ！とナタママはぞっとしていたけど、
私は探検できることが嬉しくて汚さは気にならない。

メンバーは、
リーダー : ナタナエル氏
ナタ氏の弟、ナタ氏の従兄弟、そして私の4人だ。

キッチンでナタ氏がピクニックの準備をしてたので手伝う。
ナタ氏お手製のクッキーとメロンとサンドイッチとワインをリュックに入れた。

カタコンブまでの道は、自転車で10分ほど行ったところにその入り口はあった。
入り口？
いや、入り口というものはない。
高さ2メートルくらいの塀を乗り越えて、かつてあったトラム(路面電車)の線路に出る。
このときに自分の腕力のなさを思い知る。
男子たちはひょいひょいと乗り越えていくのに、私は無理だった。(涙)

イケメンの弟が手で踏み台を作ってくれて、
Ricka 、はいどうぞ。と王子さまのように微笑んでくれた。
そのおかげでなんとかよじ登る。
ふう。
もっと体重減らさなきゃと心で誓う。

そして、しばらく線路沿いを歩く。
線路沿いの道はパリじゃないみたいに木々が生い茂っていて、すごく綺麗だった。

まるで映画のスタンドバイミーじゃん。
ちょうど4人だし。

写真を撮りたかったけど、どうせ水没するから、何も持ってこない方が良いとアドバイスがあり、私は手ぶらだ。
この目にしっかり焼き付けよう。

歩いていたらトンネルにさしかかった。
その長いトンネルの中に、地下に通じる入り口があったのだ。

なぜか oeuf (玉子の意味)と書いてある ・・・
その小さな入り口を見ると、ドキドキしてきた。
いよいよか。
そのめちゃくちゃ狭い穴に1人ずつ侵入した。

ヘッドライトはもちろん装着している。

天井は低くて、足元は泥や石ころ、水たまりがある。
そして真っ暗だ。
闇がどこまでも広がっている。
ライトの明かりだけが頼りだ。

ホフク前進したり、太ももまで水に浸かったりしながら歩く。
冷たい水に漬かりながら進み、 Ohh..Noooooooという声が響く。

リーダーのナタ氏が道を間違えるというハプニングはあったが、
ようやく無事に目的地の広場に到着した。

今まで細い道がつづいていたのに、そこだけは開けた空間だった。

そして、小さいキャンドルが無数に置いてある。

キャンドルに火をつけると、
どーんと壁一面に葛飾北斎のあの有名な絵、富岳36景の、
あの大波と富士山が現れた。

ろうそくの灯りで照らされるすごい迫力のある絵だった。

フランスの、パリの地下にこんな絵が描かれているなんて。
さすが、世界の北斎だ。

他の壁にもたくさん落書きはあった。

ナタ氏が用意してくれた、コンテチーズとサラミを挟んだサンドイッチをみんなでそこで食べた。

私は、美味しい。ありがとう。と言い、
弟は it's taste dust とつぶやいた。

まあ確かに、空気はよどんでいるし、不気味だった。
みんながいなければ怖すぎる。

帰り道にも、誰かが作ったお城やお墓などの彫刻がたくさんあった。
なんていうか、とても異空間。ちょっとした美術館のようだ。

でもこんなところで、迷子になったら恐ろしすぎる。
遺骨と夜を共にしたくない。

太ももまで濡れてしまったので寒かったけど、
めちゃくちゃ面白かった。

無事に外に出て日の光を見たときは素直に嬉しかった。

たった数時間の滞在だったけど、
やっぱり外の空気がおいしい。

この日は忘れられない1日になった。
ありがとうナタ氏。

つづく