creativity ~liner note
遠い遠い遥か昔、
まだ地球が生まれる前の宇宙で
神様が生命の宿る惑星を作ることにした
どんな惑星にしようかと考えて
人々が、生き物が、
互いに助け合う綺麗な心を持ってほしいと
宇宙で一番美しい青色にして
この広い宇宙で迷子になっても
すぐに見つけて帰れるように
輝く青にグレードアップした
そして、誰も傷つけないように
みんなが手を取り合えるように
手間暇かけて神様は惑星の角を取って
丸い丸い惑星にした
「優しい星になりますように」
そんな願いを込めて
長い年月を経て、
神様は自分が作った惑星が
今、どんなふうになったのか気になった
だから人間に扮して
地球に降り立ってみたんだ
朝8時の品川駅は
人が雪崩のように動いていた
誰も目を合わせず、
機械のような表情で去っていく
ポツンと呆然と、
通路のど真ん中に立っていたから
神様はどこか知らない人にぶつかった
「ごめんなさい」
ぶつかってしまったから当然だ。
神様といえど、謝ろうと振り返ったら
もうぶつかった人は人混みの中に消えていた
「ああ、これが僕が作った地球か」
優しいさ、思いやり、
僕がこの星に込めた願いは
全く人間たちに伝わっていなかった
駅を出て閑散とした商店街を抜けて
公園のベンチで座り込んだ
隣のベンチには、
この世の終わりのような顔をした
スーツを着た青年がいた
時間的に働いている時間のはず、
そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに
悔しくて、悲しくて
神様は思わず空を見上げた
そうだ、空を青くしたのは
疲れてしまった時に
心を癒やしてくれるものが欲しいと考えて
それなら誰にでも平等に
見上げればある空を心透き通る青色にしたんだ
何より人は俯くと
後ろ向きな気持ちになるから
少しでも前向きになれるように
上を向かせる工夫をしたんだった
でも、感情は目に見えないように
心の奥底に隠れるようにしたのは
自分の感情は言葉にして伝えられるように
でも、そしたら人間は伝えずに、
本当の思いを隠すようになった
大切な思いも伝わらないことが増えて、
誤解を招くことが多くなった
ああ、僕は間違えたのかもしれない
ごめんな。
その後も、神様はこの地球を歩いてみた
すると、人間は自分が思ってたよりも賢くて
物凄く高度に発展し続けていた
車、電化製品、治療薬、おしゃれ、
そして、SNS
ちゃんと目を見て、向き合って
いいことも悪いことも
それぞれの思いを伝え合えるように
正面に目と口をつけたのに
顔も見えずとも思いを
伝えられるような世界になっていた
誰かわからずに、
自分の言葉の責任も持たずに
言葉の刃物で攻撃するようになってしまった
悲しい気持ちで商店街を歩いていると
電気屋さんのラジオからニュースが流れてきた
嬉しい出来事も悲しい出来事も
簡易的に1行で淡々と述べられていく
その1行の裏には言葉に表せないほどの
痛みや苦悩、SOSが隠れているはずなのに
全然伝わってこない
ああ、これが僕が作った地球か
思わず、逃げ去ってしまった。
走りながら涙が溢れた
ああ、そうだ。
1人で抱え込まないように
感情が昂った時は涙が出るようにしたんだ
心臓が身体中を鳴り響く
ああ、そうだ。
誰も1人にならないように
誰かに見つけてもらえるように
鼓動に音をつけたんだ
気づけば、あの公園に戻ってきていた
「ねえねえ、お兄さん」
さっき死んだような顔をして座っていた
あの青年が近づいて声をかけてきた
「これをあげる」
どこにでもある缶コーヒーを
右手で差し出してきた
視界の片隅に見える
あの自販機で買ったのだろうか
まだひんやり冷たい
そして、青年は自分の缶コーヒーの蓋を開けて
空を見上げて言った
生きていることが嫌になることもある。
でも、コーヒーを飲んで見上げる空は、
なんかいいよ
そして、彼はコーヒーを飲んで微笑んだ
僕は唇を噛み締めた
胸から込み上げてくるものを感じて
隠すようにコーヒーを飲んで空見上げた
そうだ、だから、僕は空を作ったんだ
いつでも見上げたら心が安らぐように、
自分を包み込んでくれるように
涙が止まらない。
コーヒーは少ししょっぱくなったけど
なぜか今までて一番美味しいと思った
透き通るような青空を作ってよかった
青年が隣で「美味しいよねえ」と呟く
抱きしめることや
優しい言葉をかけるわけでもない
僕が落ち着くまで
ただ隣で空を一緒に見上げていた
♩creativity