見出し画像

「ひたすら面白い映画に会いたくて」33本目『夜は短し歩けよ乙女』

 本作を最大限楽しみたい。そんな人には『四畳半神話大系』を観てから本作を観るのがおすすめだ。湯浅監督のアニメ―ション表現は結構独特であり、あらかじめ『四畳半神話大系』で自らの目を十分に慣らしておくほうがいいかもしれないから。登場人物たちも含めて『四畳半神話大系』を観ていた方が楽しめるポイントが多いことは間違いない。このように本作は『四畳半神話大系』の世界観と見事に繋がっているのだ。

33本目:『夜は短し歩けよ乙女』

 『夜は短し歩けよ乙女』(2017)

原作:森見登美彦 / 脚本:上田誠 / 監督:湯浅政明
アニメーション制作:サイエンスSARU

 「恋はタイミング 止まってよ 黒髪の乙女」

物語のあらすじ

 主人公である「先輩(星野源)」は、クラブの後輩である「黒髪の乙女(花澤香菜)」に思いを寄せているのだが、かなりのヘタレであり、彼女の外堀を埋めることしかできない。そんな彼は今日も「ナカメ作戦(なるべく彼女の目にとまる)」を密かに実行していた。このままではいつまで経っても彼の思いは彼女には届かない。

 しかし、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々に巻き込まれていくうちに、「先輩」と「黒髪の乙女」との関係にある変化が。この2人の恋路はどういった結末を迎えるのか。

 山本周五郎賞を受賞した、恋愛ファンタジーの傑作小説のアニメーション映画化。そして何よりも森見登美彦×中村佑介×ASIAN KUNG-FU GENERATION×湯浅政明という『四畳半神話大系』と同じクリエイターの再集結という最高の布陣で製作された贅沢な作品が本作なのである。

小説との違い

 原作との大きな違いは時間軸の設定にある。原作では、「春夏秋冬」それぞれの季節が舞台であるが、この映画では「長い一夜」が舞台であり、時間スケールが大幅に変更されているのだ。1時間半ほどの尺に原作の魅力を余すことなく注ぎ込んで、一夜にするとは全く驚くべき脚本である。これはこれでありだなと思わせてくれるような素敵な映画になっていて原作を読んだことのある私も大変満足な内容であった。

私の1番好きな場面

 私の1番好きな場面は、「先輩」の緊急脳内会議である。あの脳内会議から「先輩」が目覚めるまでのアニメーションは『マインドゲーム』を私に思い出させてくれた。『マインドゲーム』の際のアニメーションも物凄かったけど、今回は個人的にはもっと物凄かったと思う。中毒性しかない。この場面をずっと観ていられるぐらい美しいアニメーションが目の前で繰り広げられたのである。あんなアニメーションは間違いなく湯浅監督作品でしか観ることができないであろう。目の前で繰り広げられる素晴らしいアニメーションに圧倒されるばかりであった。

 また、「先輩」と「ジョニー」のやり取りは最高であった。あのキャスティングはずるい。絶対笑ってしまう。星野源もグッジョブだった。『四畳半神話大系』を観たことがある人ならば、きっとニヤニヤが止まらない。そんな「ジョニー」ファンの心をくすぐる最高のシーンであった。

 そして、「夜は短し歩けよ乙女」というセリフが登場した際の音楽と歌も最高であった。この歌の場面を観て、黒澤明監督の『生きる』という作品の中で、志村喬さんが「♪夜は短し歩けよ乙女~♪」とブランコを漕ぎながら歌っているシーンがフラッシュバックしてしまい、思わずニンマリしてしまった。ここは「映画ならではの演出だなあ」と思わされたものだ。私の中で1番テンションが上がった場面かもしれない。『生きる』を観ておいて良かった。

最後に

 湯浅作品は観れば観るほど新しい発見がある作品ばかりだなとつくづく思う。1回目では気付かないが、2回3回と観ていくうちに、びっくりするほど丁寧に作られたそのアニメーションの素晴らしさに脱帽してしまう。このように本作は、噛めば噛むほど味の出てくる中毒性のある作品であった。

 『四畳半神話大系』を観て「面白すぎる」とドップリはまってしまった人には、安心して勧めることのできる作品だ。この作品は好き嫌いが真っ二つに分かれそうな作品なので上記以外の人には、おすすめすることは控えておくことにする。

 最後に一言。「黒髪の乙女」と京都で古本市デートというシチュエーションに憧れてしまった。いいなあ、そんな大学生活を1度でいいから送ってみたかったことよ。

予告編

↓映画『夜は短し歩けよ乙女』の予告編です↓

(出典:【YouTube】TOHO animation チャンネル「『夜は短かし歩けよ乙女』90秒予告 」)

いいなと思ったら応援しよう!