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『ODD TAXI イン・ザ・ウッズ』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜96本目〜

 「そんなもんできるかあ」。これは本作で脚本を務める此元和津也さんの制作秘話での一言だ。本作は、もうこの一言に尽きるのではないか。『イン・ザ・ウッズ』制作前、木下監督と平賀プロデューサーの2人から此元さんに以下のオーダーが入る。

木下監督「お金を払って観にきてもらうので後味の良いものにしたい」
平賀P「ただの総集編ではなく、TVアニメシリーズを観た人にも観てない人にも楽しんでもらえるようにしたい」

 これを受けての冒頭の一言である。そりゃそうだよねと納得した。しかし、この無理難題を素晴らしいアイデアで乗り越えてくるのが此元さんのすごすぎるところだ。なんと、芥川龍之介の小説『藪の中』のアイデアを提案し、登場人物たちの証言で物語を再構成させることで両者のオーダーを実現させた。TVシリーズの焼き直しで済まさず、新規カットを追加しながら物語を再構成してくるところがいかにも『ODD TAXI』らしくて良い。

 本作の鑑賞後、再びTVシリーズに乗車したくなってくる。さて、あなたは誰の視点から『ODD TAXI』に乗ってみる?

『映画 ODD TAXI イン・ザ・ウッズ』(2022)

脚本 : 此元和津也
監督 : 木下麦
アニメーション制作:P.I.C.S. × OLM

              「運が良かったのは誰?」

物語の概要

 本作はTVシリーズ『ODD TAXI』で起きた事件を登場人物たちの証言で振り返っていく総集編である。「あの時あの人は、何を考えていたか」といった物語の裏側を私たちに見せてくれる。そして証言が終わると、TVアニメシリーズ最終話の続きが待っている。本作で新たに語られる情報も多数存在し、オッドタクシーファンにとっては見逃せない1作だ。

『ODD TAXI』と『イン・ザ・ウッズ』の魅力

 『セトウツミ』の作者が脚本を担当しているということで、やはり登場人物たちの会話劇がピカイチに面白い。一見無駄のように感じる会話の中に、後々の伏線をさりげなく散りばめていくさまがまるで魔法のよう。どうすれば、こんな会話劇が思いつくんだろうか。

 絵でないと表現できない演出を最大限に活かしたストーリー構成に痺れた。1話1話の中に、散りばめられた伏線の数々を小戸川を中心とする登場人物たちの何気ない会話を走らせながら回収していく。これは観ていてとても心地良くて最高であった。『イン・ザ・ウッズ』ではやむなくカットされた名シーンもいっぱいあるので、ぜひTVシリーズを観てない方は全部観てほしいものだ。

 また、小戸川が終盤にはスコセッシ監督の『タクシー・ドライバー』でのトラヴィスのような「悪に立ち向かう存在」になっていくところが個人的にはお気に入り。愛する女の人のために危険なことに突っ込んでいく姿は非常にカッコよかった。観ているこちらまで手に汗握る「オッドタクシー作戦」を劇場の大画面で観れたことが何よりも嬉しかったものだ。

 全話観終わったら、またもう1度1話から乗車したくなる。そんな中毒性たっぷりの作品であった。日本のサスペンスドラマを海外ドラマ仕立てに料理すると『ODD TAXI』のような作品が出来上がるんだろうなあ。特に、登場人物たちのマニアックさとウイットに富んだ会話劇からそのように感じたものだ。

私の1番好きな場面

 小戸川と白川さんの「ドライブデート」がダントツで好きな場面だ。そこでの2人の会話にニヤニヤが止まらない。やれやれモード全開の小戸川とあざとさ全開の白川さんの掛け合いを観れただけでも、本作を観た価値は十二分にあった。そう断言しても良いぐらい微笑ましい場面だったなあ。白川さんの可愛いシーンが見れて大満足だ。

 小戸川と白川さんの「ケイシャーダ」の下りも大好きだったので、本作でもカットされてなかったのが最高であった。小戸川と白川さんの会話は何度観ても面白いなあ。

登場人物たちの何気ない会話劇が面白い!〜小戸川と白川編〜

(出典 : 【YouTube】オッドタクシーOfficial 「【オッドタクシー】本編映像を一部公開!【ケイシャーダ】)

 このような会話劇を面白いと感じる人は、『ODD TAXI』の乗車に向いているはずなのでメーターを回してもらおう。初乗り料金は「月額500円」。そう、Amazonプライムで独占配信中の作品なのである。小戸川交通のタクシーは、お客の懐に優しいと思うのは私だけだろうか。皆さんのご乗車をお待ちしています。

最後に

 本作を観ると、小学生の頃に買ってもらった「動物図鑑」を本棚から引っ張り出してきて読みたくなる。少なくとも『ODD TAXI』で登場した動物の名前だけでも全部図鑑で確認しておきたい。そんな気持ちが高まってくる。動物図鑑を眺め終えたら、久しぶりに動物園へ行ってみよう。私のようにそう感じる人は多いはずだ。「そうだ、動物園行こう」のオッドタクシー版ポスターがいつ制作されてもおかしくない。そんな動物愛溢れた1作であった。

 TVシリーズで『ODD TAXI』の物語は完結している。『イン・ザ・ウッズ』はあくまでも「オマケ」と考えておいた方がいい。TVシリーズの総集編という位置付けの本作は、新規カットを交えながら『ODD TAXI』の目的地まで観客たちを連れて行ってくれる。TVアニメシリーズ+オーディオドラマ「幸せのボールペン」に乗車してきた人たちを降ろし、本作でようやく私たちが乗っていたタクシーは「回送」となるのである。そういうわけで、本作が総集編だということをあらかじめ把握してから鑑賞することを強く推奨する。

予告編

(出典 : 【YouTube】オッドタクシーOfficial 「『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』公開直前PV【2022年 4月1日 (金) 公開!】)

参考文献

『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』パンフレット

関連作品

TVアニメシリーズ『ODD TAXI』

(出典 : 【YouTube】オッドタクシーOfficial 「TVアニメ「オッドタクシー」30秒CM」)

オーディオドラマ「幸せのボールペン」

(出典 : 【YouTube】オッドタクシーOfficial 「【オッドタクシー 】オーディオドラマ第1.3話「幸せのボールペン」)

此元和津也 『セトウツミ』秋田書店

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