私が映画の感想を書き始めるまで ~田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』を読んだ感想と共に~
田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』
表題がまず素晴らしい。14文字で本書が何について書かれている本なのかがすぐにわかる上手い題名だ。さすが元コピーライターである。私は著者の「すべての文章は、自分のために書かれるもの」という考え方に強く惹かれた。
自分が読みたい文章を書きたいから丁寧に調べて書く。それで十分じゃないか。この著者の考え方のおかげで、文章を書くときの気持ちがかなりラクになった。自分が読みたくて書いた文章を誰かに読んでもらえる。そして、それを面白いと思ってもらえる。それだけで随分と幸せだなと思う。今の自分の心に突き刺さる1冊であった。
著者 田中泰延のプロフィール
早稲田大学卒業後、電通で24年間コピーライターとして勤務。2016年、電通を退職し、無職となる。無職になったきっかけは2015年、電通在職中に依頼されて『街角のクリエイティブ』というwebサイトに映画評論を書いたことであった。
「街角クリエイティブ」を主宰する西島知宏さんが、Twitterで観た映画の感想を著者が短く述べていたことに注目していたのだ。そして2年間、『田中泰延のエンタメ新党』というコーナーで20本ほどの映画の評論を書くことに。これをきっかけに物書きとしての人生を歩み始め現在に至っている。
私が映画の感想を書き始めた理由 ~この本の感想の代わりに~
私が個人的に映画の感想を書き出したのは、映画を見終わった後、自分の中に渦まく感想たちを整理して、それを忘れないように残しておきたかったからであった。自分の抱いた感想を自分が読みたいというところから出発したのである。
ひたすら映画を観ていた時期に過ぎ去った感想たちを時間が経つにつれて忘れていく自分をひどくもったいなく感じていたのだ。映画の感想を書いたら、自分の感想をずっと残しておける。こうすると、なかなか一度観た作品のことはなかなか忘れないだろう。ただそう思っていただけであった。
結果として、この試みは想像していた以上に成功した。自分のための備忘録として書き始めた映画の感想が、回数を重ねるごとにいつしか誰かに読まれる映画評へと姿が変わっていくことになったのである。これには自分でもとてもびっくりした。自分のために書くのも楽しいけど、誰かに読んでもらえるとこんなにも嬉しい気分になるのだ。そんな大事なこともそのときに初めて気づいた。
自分が楽しんで書いた文章を誰かに面白いと思って読んでもらえる。それだけで幸せであると私は思う。欲を言えば、映画を観に行く料金分は稼ぎたいなと思う気持ちはあるのだが。そして、稼いだお金でまた「ひたすら面白い映画」に出会っていきたい。そして自分が読みたいことを書いていきたい。そう思うばかりだ。このサイクルを続けていくことが今の自分のとって大切なことなんじゃないかな。
最後に
映画や本の感想を書く際に、「1番自分が好きだなあ」とか「1番印象に残ったなあ」ということを書いていけばいいとアドバイスがあった。このアドバイスを読んで、「よかった!今まで通りの書き方でいいんだ」と思うとかなり気持ちがラクになったものだ。
自分はこのまま進み続けていいんだと著者に背中を押してもらえた気分である。いつも自分が文章を書く際に心がけていることを本の中で書かれているのはとっても嬉しいことであり、同じ考えの人に出会うと本当に嬉しく思うものであった。
オタクになれ。好きなことを全力で相手にぶつけることが大切だ。その熱意は必ず誰かに伝わるはず。そもそも自分の好きなことについて書いているときって、自分が面白いと思える文章が書けているときであろう。
自分のために、書けばいい。読みたいことを、書けばいい。
出典:田中泰延 (2019)『読みたいことを、書けばいい。』 ダイヤモンド社