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『アルキメデスの大戦』ひたすら面白い映画に会いたくて 〜89本目〜

 自分がやると決めたことは、それがどんなに難題であったとしても最後まで諦めずに全力で取り組む。それが本作の主人公櫂直 (菅田将暉) の生き方だ。徹底的に情報を収集し、それでも手に入らない情報は自らの頭をフル回転させて突破口を考える。その作業の試行錯誤によって櫂はある1つの公式まで辿り着く。彼の難題に向き合う決して諦めない姿勢には強く心を打たれたものである。私も彼を見習わないといけないな。このように本作は今の自分の心に突き刺さる会心の1作であった。

『アルキメデスの大戦』 (2019)

原作 : 三田紀房
脚本・監督:山崎貴

              「数字は決して裏切らない」

物語の概要

 本作は天才数学者櫂直が、「数字」に無頓着な海軍上層部のクセ者たちに「数字」の力で一矢報いる物語である。日本一最強と謳われた戦艦「大和」。本作はこの戦艦が海軍によって作られる前の時間を切り取っている。日本を戦争という悲劇の道へと歩ませないために、天才的な数学センスを持ち合わせた元帝大生が立ち上がるのだ。

 本作はフィクションである。だが、ただのフィクションだと甘く見てはいけない。鑑賞後、本作のような話が海軍内で実際にあったのではないかと考えさせられるに違いない。見事だ。現実に限りなく近いディティールで紡ぎ出した本作は、妙に現実味を帯びたフィクション作品として仕上っている。夏に観たい戦争を題材にした熱量たっぷりの映画であった。

本作の魅力

 冒頭から映画の世界へと完全に引き込まれた。これ以上ない大迫力のオープニング映像であったなあ。最近のCGのクオリティの高さに驚きを隠し得ない。今はこれだけ臨場感あふれる戦闘シーンを撮ることができるのか。実際に海の上で撮影しているのかと思ってしまうほど精巧に大和の沈没シーンを再現していたのである。

 CGを用いることで限りなく現実に近づけることができる時代にもうなっている。そう素直に感じた。これは画期的な出来事だ!『永遠のゼロ』の空中戦の映像も本物の戦争を見ているかのような映像の連続で手に汗握る戦争映画であった。しかし、あれから7年が経ち圧倒的にCGの技術力が上がった。『永遠のゼロ』での戦闘シーンを遥かに超えてきたのだ。インパクトがありすぎて、アドリナリンが溢れ出す。そんなエキサイティングな冒頭であった。

 主人公のようにまず徹底的に情報を収集して、それでも手に入らない情報は自らの頭をフル回転させて突破口を考える。そして、自らの立てた仮説を証明するために徹底的に検証作業をしていく。この学者の鏡のような櫂の難題に立ち向かっていく姿勢に私は強く心を打たれた。天才は努力することを厭わない。自分を納得させるためにやっていることなのだ。それを努力だとも思ってはいない。だからなのか、周りの人にはその天才の姿がとても輝いてみえるのだろう。

私の1番好きな場面

 どう考えても櫂が黒板を用いて戦艦の予算見積の不正を暴いていく場面が、本作の1番好きなシーンである。鉄の質量と戦艦の費用の間に、相関関係があると導き出し、それを公式化する天才ぶりには本当にびっくりした。なんだあの超長いリアルな公式は!完全に微分方程式ではないか。あの長々とした数式をあれだけスピーディに書いていく菅田将暉の演技に痺れた。めちゃくちゃかっこいいではないか。

 体育会系のかっこよさが見たかった人にとっては、期待外れの映画だったかもしれない。だが、本作は天才数学者の卵が、そんな体育会系の頭脳を持ったクセ者たちに一泡吹かせてくれる痛快劇だ。公式に当てはめて、戦艦の予算をピタリと命中させる場面にはスカッとすること間違いない。この映画を今まで観ていて本当に良かったと思う瞬間であろう。ガリレオ以来だよ、あの黒板にひたすら数式を書いていく場面を見てカッコいいと思ったのは!そして何よりもガリレオより本作の方がかなり本格的で素晴らしかったと思うなあ。

最後に

 今の時代では、数字が大事なのは至極当然のように思えるが、本作の舞台は第二次世界大戦頃の日本。この時代には軍部が政権の中枢に君臨しており、数字をないがしろにしていた時代ではなかったか。そもそも政府がエビデンスを重視という方針に舵を切り出したのも最近のこと。そんな数字をないがしろにしていた時代に真っ向から数字を武器に海軍に対して勝負を仕掛けるこの主人公のカッコよさと言ったら…心底惚れてしまうよ。

予告編

『アルキメデスの大戦』の予告編です。

(【YouTube】東宝MOVIE チャンネル「映画「アルキメデスの大戦」予告 【7月26日 (金) 公開】)

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