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人の動きで場を制する


那覇とコザ

 20kmほど離れた那覇とコザの2つの町は、車なら(渋滞がなければ)1時間程度で移動できる。2つの町で通勤、通学している人も多く、その距離はそんなに離れていない。

 他方でこの2つの町の文化に温度差を感じている人は多いのではないだろうか。それを感じるのは、使う言葉や人間関係の取り方の場面であったりする。ヤンキーの若者たちのなかにも、その違いは存在し、那覇では「コザは独特だよね」と言われ、コザ周辺では「那覇は怖い」と言われる。

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 今年の夏、中部の建設作業員(元ヤンキー)の竜二(仮名、以下同じ)とひろしから買い物に誘われた。買いたい物があるが国際通りでしか売ってないという。そこで南部方面に住む私は、中部から向かう彼らと那覇で待ち合わせをすることとなった。

「てんぶすってわかります?〔知らん〕ジュンク堂、昔のダイナハは?〔ダイエーは泡瀬しか知らん〕OPAはわかんないですよね...だったら新しいバスセンターわかります?〔バス乗らん〕」。

 待ち合わせ場所がなかなか定まらなかった。最終的に那覇署の駐車場で私たちは合流し、国際通りへと向かった。竜二は、コンビニでマスクを購入し顔を隠して歩いた。竜二は20年ぶり、ひろしは30年ぶりに国際通りを歩いた。2人とも「那覇は怖いな」と繰り返した。

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 その日の夜、彼らの建設会社で従業員主催のボウリング大会があった。チーム対抗戦で決着がついた後は、行きつけのバーに移動し、ダーツをしたり地元のうわさ話で盛り上がった。朝方の酔いがさめてきたころで、最後にキャバクラに行くことになった。どこの店に入るかは、先輩たちのお気に入りのキャバ嬢のいるところと決まっている。

 後輩の従業員が地元の知り合いがボーイを務める店に電話し、料金や時間、特定のキャバ嬢が席に着けるかといった交渉をすすめる。話はまとまり、最後に電話口で先輩が「いま行って大丈夫か」と確認して、店に向かった。

 この確認は、店内に酒グセの悪かったり店で暴れたことのある人物はいないかということである。より具体的には今から向かうメンバーたちと敵対していたり微妙な関係にある人物はいないかという確認である。そのような日々更新される街の様子、そしてそれぞれ異なる人間模様を把握できることがこの街のボーイには求められた。

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 同じ沖縄に生きていても、世界の見え方はまったく異なる。私にとっては那覇よりコザの繁華街の方が危なっかしく感じた。彼らにとって、コザの繁華街は自分たちの領域内で何が起こるか予測ができ、またなんとか対処ができる。そのように見通せるのはそこでの人間の動きが見えているからだ。だから彼らにとって人間の動きがみえない那覇は怖い。

 世界の見え方(=文化)に優劣は存在しない。異なる世界について互いにわかるように描き、その変化を社会の変化とともに追跡する。現代社会を生きる上でとても重要なことだと思う。

■打越正行,2019年10月19日,「人の動きで場を制する――那覇とコザ」『沖縄タイムス「うちなぁ見聞録(204号)」』(2019.10.19 朝刊)
※ 一部修正。

【打越正行の研究室】
https://blog.goo.ne.jp/uchikoshimasayuki

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