ヨーダの物語 2
「ヨーダ、少しうなされてたわよ。変な夢でも見たの?」
「う~ん、よく覚えてないんだ。自分がすごく歳をとっていて、手がしわくちゃになっていたのだけは覚えてる」
「ヨーダがおじいさんになる夢?ここまで大きくなるまでに何年かかったと思って?50年以上よ。あなたがおじいさんになるのは、きっと何百年も先のことね」
母のロザリータは笑いながら言った。
ヨーダは、トワイレックの種族である母の、少ししなびた青いヘッドテールに手をあてて一緒に笑った。
この似ても似つかない母と子は、一緒に朝食をとり、ヨーダはホバーボードに乗って砂ぼこりをまき散らしながらアカデミーに向かった。
ヨーダを見送ったあと、ロザリータは部屋の壁にかかった古い写真を見ていた。そこには赤ん坊の姿をしたヨーダと、ヨーダを抱きかかえるトワイレックの夫婦、ロザリータとゴンが写っていた。ヨーダは、トワイレックがヘッドテールを通す帽子をかぶるように、大きな耳を穴の空いた帽子に通していて妙な格好になっていた。
若い夫婦は笑顔でレンズを見つめ、赤ん坊のヨーダは黒眼がちな瞳で、レンズの向こう側のはるかかなたを見ているようだった。
「ゴン、時間はたっぷりかかったけれど、ヨーダは立派に育っているわ。わたしたちをずっと見守っていてね」
ロザリータは、写真のなかで満面の笑みを浮かべている夫に話しかけ、目を潤ませた。
*
若きゴンは、ほかの星系から来る、荷を積んだ船を待っていた。この若く体の大きい、茶色の肌をしたトワイレックは野菜や果物、干物などの食料の卸売業者で生計をたてていた。
ゴンの住むジャクーは砂漠で覆われた星で、特に野菜や果物はこの乾燥した砂地ではほぼ収穫できず、ほかの星からの輸入に頼るしかなかった。
荷を積んだ船が港につく時刻はいつも決まっていたが、その日はなぜか一向に来なかった。
ゴンは地面にしゃがみ込み、こういう日もあるさと、パイプに火をつけて煙をくゆらせながら、気長に待つことにした。
太陽が地平線に沈みかけたころ、ようやく荷物を積んだ巨大な船が、ごうごうと音を立てて港に到着した。
ゴンと同じような食料の卸業者や配達業者が、やっと来たかとばかりに荷下し場にどっと集まってきた。
みんなゴンのように荷物を運ぶのに適した大きな体格をしていた。数百人の男たち(中には巨体の女性も混じっていた)にまぎれたゴンは、自分宛の野菜のつまったカートを探した。
ウーキー族の群れに囲まれながらもやっと見つけることができ、受け取りのサインを係りの者に渡して、カートをトラックへ運ぶ。トラックの荷台に載せる前に念のため中身を確認した。本当は荷物を受けとってすぐに確認するところだが、あの喧騒の中で荷ほどきなどしたくない。
蓋を開けると大量のトウモロコシ、巨大なカブと、真っ赤なラディッシュなどが入っていた。
ゴンはなんとなく違和感を覚えた。いつもは中身を確認したあと、蓋を閉めるのも大変なほど野菜はぎっしり詰まっているはずなのに、今回は少し隙間がある気がする・・。
今回は不作だったのかもしれないなと思いながら蓋を閉めようとすると、ラディッシュが少し崩れてかさが減った。ゴンがじっと見ていると、またラディッシュが崩れてかさがわずかに減る。
(何かいる!)と思い、ベルトから護身用の伸縮する鉄のスティックを出して、ラディッシュの山をつんつんと突いてみた。
反応がないのでラディッシュの山の中にスティックを差し込んでみる。
スティックが止まったので抜こうとしたが少しの力では抜けず、ゴンは震えあがった。
ゴンは体こそ大きいが、それに反比例するようにひどく小心者だった。妻のロザリータが背後でくしゃみをするだけで跳び上がり、ばかにされたこともある。
意を決してスティックをおもいっきり引っぱると、スポッと抜けて勢いよく後ろにたおれ、尻もちをついてしまった。
ゴンは立ち上がり、スティックを振りかざしながら恐る恐るラディッシュの入った荷台に近づく。こんな不気味なモノをトラックに載せるわけにはいかない。
いつでもスティックを振りおろせる状態のまま、慎重にラディッシュを取りだしていく。
緊張で汗をかきかき、半分ほどラディッシュを取りだすと、白い布で半分くらい包まれたキャベツがあった。ふつうのキャベツよりはつるんとしていて小ぶりだった。慎重にそれを持ちあげると、それはキャベツには不釣り合いなほど柔らかく温かかった。
(なんだこれは・・)ゴンはキャベツの全容を見ようとした。その瞬間、キャベツの葉がパッと大きく開いた。ゴンは「うおぉー!!」と絶叫してまた尻もちをついた。一瞬、妻が見ていなくてよかったと思った。
「キャベツ」から手をはなして落としてしまった。それはゴロゴロと地面を転がるとピタっと止まった。それは美しい緑色をしているがキャベツではなかった。
緑色の小さな生き物だ。
(3につづく)