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ヨーダの物語 11
*
砂漠の星、ジャクーの岩山の多い地域、その中でも最も大きな岩山を背にした小さな土の建物がある。そこが、少年ヨーダとギークが慕って、いつもアカデミーの帰りに立ちよるシューマ博士の自宅兼工房である。
工房の外には、ジェダイ・イニシエイトのふたりのホバーボードが、地面すれすれを風に揺られて浮いている。
「シューマ博士、最近考えた発明で、何かおもしろいのはあるの?」ギークは古代銀河を舞台にしたシューティングゲームの画面に向かいながら訊いた。シューマは溶接面を顔にあてながら何かを溶接している。
ヨーダはソファに座って、シューマの研究アシスタント・ドロイドとチェスをしていた。
「面白いものって、そんなもんばかりここに来て期待されても困るわい。わしをいくつだと思っとる?もう新しいアイデアは浮かんで来んよ。あるのは昔のアイデアを時間をかけていかに具現化するかっちゅう、地道で忍耐のいる一歩一歩の積み重ねのみじゃ。そしてその具現化ちゅうのは、成功するかどうか、やってみないことにはわからない。ギャンブルと同じじゃな」シューマ博士は溶接面をとってギークにまくし立てた。
ずんぐりした体に白衣をまとい、丸い顔に丸い額縁メガネ。長い髭をたくわえ、肩まで伸ばした薄い白髪を揺らす、職業が顔を作るならいかにも「博士」という風体をしている老人だった。
「理屈はわかったからさ。じゃあ昔考えた面白いアイデアっていうの?何か見せてよ。今までおれたちが見たことないやつがあったらさ。もうない?おれたち全部見ちゃった?」ギークは老人への敬いなど微塵もない態度で訊いた。
ヨーダも手を止め、好奇心いっぱいの顔でふたりの様子を見守った。
「おぬしらに何を見せて何を見せてないかなんて覚えてられるかい!おい、モック!チェスばかりやっとらんで、少しはこっちを手伝いなさい」シューマは再び溶接面をつけて溶接を始めた。
ヨーダとチェスをしていた人型アシスタント・ドロイド、モックは顔を上げ立ち上がった。主人が怒っているためあわてて立ち上がったからか足をテーブルにぶつけ、チェスがバラバラになってしまった。
「あー!いいところだったのに」ヨーダは叫んだ。
モックは細身で長身の背中を丸め、ヨーダにごめんね、と手を合わせるジェスチャーをした。最近発語プログラムの調子が悪く、発声ができていない。
モックは主人のもとへ小走りした。ヨーダは床に散らばったチェスを集めながらシューマとモックを見ていた。何かが完成したらしく、ふたりで協力して大きなテーブルに運んでくる。
「ようやくできたわい。試作品だし予算は無いからミニチュアじゃけどな」
テーブルには、椅子の座面より少し大きいくらいの白い円盤に、ツノがふたつ付いた厚めの板状のものがあった。ギークも興味を示したらしく、シューティングゲームを途中でやめてテーブルに来た。
三人と一体のドロイドがテーブルを囲んだ。ヨーダは背が低いので背伸びをする格好になった。
「これ、なんだい?」ヨーダが目を輝かせてシューマに問う。
「若い頃に構想しながらも技術が追いつかず、現代になってやっと追いついてきた感じじじゃ。ミニチュアじゃがな」
「だからこれなんなの?」ギークがしびれを切らしてきいた。
「まあ慌てるな、見ておれ」
シューマがコントローラーを持って操作すると、円盤にツノがふたつ付いたものが起動したようで、「グーン・・」という音がし、本体のお尻部分が横一線に青く光って浮いた。
「おおっ・・」とヨーダとギークは小さく歓声をあげた。
「これだけじゃないぞぃ」シューマが言うと、円盤は研究室の開け放たれた出入り口から外に出た。
「モック、接続したな、見せてくれ」シューマが命じると、モックはうなずき、額から光を発し、空間に大きく映写した。それは、空と砂漠が一面に映った主観映像で、どうやら円盤にカメラがついていて、それをモックが受信して映写しているらしい。
円盤はどんどんスピードを上げ、街の方まで飛んで、さらに街を抜けていった。
「あっ!アカデミーだ!」ヨーダが興奮して叫ぶ。さらに円盤は進む。
「おー!あれはうちだよ!」ギークも叫ぶ。
「驚くにはまだ早い」老博士はニヤリとした。
カメラは上の方を向いた。そして雲を抜け、成層圏を越え、ついには宇宙空間に出た。
「出ちゃったよ・・」ヨーダはため息をもらした。
宇宙は大小さまざまな色の星で埋め尽くされていて、その背景は真っ黒だった。近くでは巨大な貨物船が何台も行き来している。
ヨーダは、少なくとも物心ついてからはジャクーを出たことがないので、その映像を見るだけでも感動した。
「計算に少し時間がかかるが、そろそろやってみるかの・・」シューマは少年のような目をしてつぶやいた。
ヨーダとギークは顔を見合わせた。(まさか・・)
映像に映る無数の星々が、一瞬線になって画面の外へ逃げていった。
「ワープ!!」ふたりは同時に叫んだ。
(ヨーダの物語 12 につづく)