ヨーダの物語　79

【前回までのあらすじ】
　少年ヨーダはジェダイ・アカデミーに通うジェダイ・イニシエイト。
　親友ギークは、元シス・ツキシマとの戦いで顔に傷を負い、さらに謎の老人レイゴウと戦うが完敗する。そしてレイゴウのもとで修行をし、ダークサイドに堕ちてしまう。そしてジェダイ・マスターふたりを殺し、ヨーダにも圧倒的に勝つ。
　ヨーダは、師匠となるグラドゥの住む星へ到着し、賞金稼ぎ集団（傭兵）に襲われるがみごと全員倒し、いよいよグラドゥのもとで修行が始まる！？


　「ぜ、全部！ですか・・」
　「全部だよ。あんたがこの森に入らなければ、こんなざまになっていたか？」
　「・・なっていません。やります！」
　ヨーダはそこに転がっている鉄くずに両手をかざすと、スピーダーの一部が浮いた。そのままヨーダは森の外まで歩いていき、それを平らな岩場に落とした。ガシャン！という大きな音が鳴ってあたりに響き、森から鳥数羽が飛んだ。
　「乱暴に落とすんじゃないよ！あたしがビックリして心臓が止まったらどうしてくれる？修行どころじゃないよ。
　あくまで丁寧に、やさしく置くんじゃ」
　「わかりました」
　ヨーダは森の中に戻ると、さっきのスピーダーの一部より少し大きいものをフォースで浮かせた。高く上げすぎると、通る場所によっては木の幹にぶつかって木を傷つけてしまうので慎重におこなった。
　グラドゥは切り株に座り、杖を握る手の甲に顎をのせて宙を見ていた。QQ11は、ヨーダがうまく運べるか心配な様子でちょこまかと四足で走り回っていた。
　「あんまり近くに来ると潰しちゃうかもだぞ」
　ヨーダは鉄くずを必死に運びながらQQ11に目をやると集中が途切れ、それが傾いて木の幹をこすってしまった。
　「集中せい！それに物の重心をとらえてないぞぃ！」
　グラドゥは杖を地面について怒鳴った。
　「重心、て何ですか？すみません、ジェダイ・アカデミーでは習ってなくて・・」
　「アカデミーで手取り足取り一から十まで教えてもらえるわけないでしょうが。生きる上での常識じゃよ。知らないのかい、すべての物体には重心があることを」
　「教えてください、重心について」
　ヨーダは鉄くずを運びながらしゃべるのに必死で汗だくだった。
　「まずはそれを運んできてからじゃ」
　ヨーダはフォースを使って運びながら、内心（おれは重心じゃなくてフォースを学びに来たんだけどな・・）と思った。

　木の枝に当たってはグラグラ揺れる鉄くずをやっと森の外まで運び終わると、ヨーダは走ってグラドゥのもとに戻ってきた。到着するとぜいぜいと肩で息をしていた。
　「あらあら、たった二つの鉄くずを運んだだけでこの有様かい」
　「慣れるにはもう少し時間がかかりそうです・・」
　ヨーダは息を切らしながら言った。
　「慣れでフォースが身につけば苦労はせんわぃ」
　ふたりは別の場所に行くと、スピーダーの残骸が複数あった。
　「次にこのスピーダーを持ち上げてみなさい」
　グラドゥが、ほとんど損傷のないスピーダーを杖で指して言った。今度のはかなり大きい。
　「これを、ですか・・」
　グラドゥは黙ってヨーダからは少し離れた切り株に腰を下ろした。ヨーダは意を決してそのスピーダーを睨みつけ、両手をかざして持ち上げた。それは1メートルほど浮き上がった。しかし安定せず、ぐらぐらと揺れている。
　「下ろしてよい」
　グラドゥが言うと、ヨーダはなるべくゆっくりとスピーダーを地面に下ろした。
　グラドゥは立ち上がった。
　「あんたはいま何を持ち上げた？」
　「壊れたスピーダーです」
　「あんたは、スピーダーをフォースによって持ち上げた。つまり『スピーダー全体』を持ち上げていたな。それでは操るフォースが無駄に多く、安定しないまま浮くことになる。　
　これを指一本で支えてみい」
　グラドゥはフォースで残骸の中からスピーダーの外装の鉄板一枚を浮かせ、ヨーダに渡した。
　ヨーダはそれを持って少し考えたあとに、板を水平にし、板面の真ん中あたりに指をあて、試し試しバランスをとりながら支えた。
　「それが重心じゃ。すべての物体には重さの中心となる『重心』がある。全速力であたしに向かってきなさい」
　「えっ？」
　「言われた通り走ってきなさい。体当たりするつもりでな。何があってもぜったいに立ち止まるんじゃないよ」
　ジェダイ・マスターとはいえ、杖をつく老人に本当に体当たりしたら怪我をさせてしまうだろうと、ヨーダは戸惑ったが、グラドゥの言うとおり、全速力で体当たりするつもりで走った。
　「体で覚えな」
　グラドゥは言うと、右手の人差し指をヨーダに向けた。ヨーダは左肩に銃で撃たれたみたいな衝撃を受けてのけぞり、立ち止まりそうになった。痛みは無かった。
　「止まるな！」
　ヨーダは走り続けた。次に体全体に衝撃があり、スピードは落ちたがなんとか堪えて走った。いよいよグラドゥに体当たりする直前になると、ヨーダの体はいきなり後方へ吹っ飛んだ。
　ゴロゴロ転がり、木の根元に当たってやっと止まった。グラドゥは杖をついて、倒れるヨーダに近づいてきた。
　「わかったかい？」
　「何がです？」
　「ちゃんと考えぃ！考えてからものを言いなさい。走ってきて何回衝撃があった？」
　「えっと、3回です」
　ヨーダはやっと起き上がりながら応えた。
　「左肩と、からだ全体と、最後はヘソのあたりでした。最初の2回は何とか走り続けられましたが、ヘソのあたりの衝撃の時は駄目でした。まさかそれが・・」
　「それが重心じゃ。考えればちゃんとわかるでないかい。あんたには3回、同時強さのフォースを当てた。ひとつは肩、ひとつは体全体、最後は体の重心の一点じゃ。
　あんたはものを動かすとき、そのもの全体を動かそうとしている。それではフォースが分散して効率が悪いし、安定しない。重心一点のみに集中してフォースを使えば、安定するのだ」

　（ヨーダの物語　80につづく）