コールマンの緑の袋
夏のキャンプばかりだったウチダケ、初めての秋キャンプ。
三匹のコブタと山のような荷物を積んでいざ出発。
しかし、ナビどおりに車を走らせても予約していたキャンプ場はいつまでたっても現れず、山道をさまよう。
道中で予約してあることを伝え、炭の販売はしているかの確認の電話を入れていたので存在しているはずの、われらのキャンプ場。
もはや携帯の電波も届かない深い山の中。
のんびり行こうぜムードだった車内の空気がなんともどよんとしてくる。
「道が違うのでは‥。」と誰もが思ったその時
“木の葉キャンプ場“という看板が!!
あった~!着いた~!間に合った~!の大合唱。
予約した私だけこんな名前だったけ?と思いながら受付へ。
「1泊で予約の内田です。」
「はーい、内田さんですねー」
明らかにシルバー人材と思われるおじいさんが帳簿をめくる。
「え~っと内田さん、内田さん‥。」
「今日ですかねー?」
いやいや今日でしょ。今日のお宿と食事道具一式持ってきてるんだよー。
「いやーぁー予約されてないようです‥」
そんなバカな!
「えー!あのさっき1時間ぐらい前に電話で確認もしているんですけど」
困った顔のおじいさんは仲間のシルバーさんとごそごそ相談しはじめる。
「予約はないのですがもうこんな時間なので、スペースあるか確認しますのでちょっとお待ちください」
うーんなんか変だ。なんか変だ。絶対予約したのに。
でもこんな名前だったけ?木の葉キャンプ場じゃなくて、緑のキャンプ場?
みたいな名前だったような‥。
そんな疑問も、早くしないと暗くなるという焦りでかき消される。
暗くなる前までにテントを張らないと。
もう夕方だよーやばいってやばいってー。気ばかりが焦る。
シルバーさんが案内してくれた場所は、ふた家族で使っていた広場を、テントひと張り分のスペースをあけてもらった、レストランでいう相席のようなところだった。
「すいません。突然‥。お邪魔します」とあいさつをして、荷物を運び入れる。
テントもすっかり設置して、すでに夕飯の準備をしているふた家族のキャンパーさんたち。仲良しのグループキャンプと思われる。
とてつもなくおしゃれである。
ガーランド?とかが飾ってあり、テントも見たことのないカタチ。
小さな子どもたちの格好も雑誌から出てきたようにかわいい。
寒くもないのにフカフカブーツにダウンジャケットとか着ちゃってる。
そして、ふと後ろをふりかえる。
長時間のドライブで結んだ髪もぼさぼさの大きなコブタと、若干車酔いして気分悪そうな中くらいのコブタ、パンパンにはちきれそうになったオムツをしている小さなコブタ。
そして、なぜか全員
Tシャツ・短パン・ビーチサンダルである。
秋なのに…。
冷静に考えればこの時点で季節を間違えていたことに気づいて、焦るはずである。しかし、もうすでに余裕なく焦っていた。ひ、ひ、日が暮れてしまう。その前にテントを建てねば…。
コブタたちにむかい怒鳴る
「なんでそんな恰好で来たのー!!ジャケットとか持ってきたの?」
ではなく、
「手ぶらで歩くな!荷物を運べ!!」
「早くしないと真っ暗になるからー!!」
最後は悲鳴に近い。しかも隣のおしゃれキャンパーに聞こえないように小さく絞り出すような声。
今日寝る場所はあるのだろうか?
とにかく急いですべての荷物を運び、テントを組み立てはじめる。
ところがである。
試しに建てようと車に積んでいた、もらったばかりのテントと、今まで使っていたテントの両方を運んできてしまい、どっちがどっちだかわからない。どちらもコールマンの緑の袋である。
もうすでに薄暗い。
試しに建てるのは無理だ。いつものやつを超特急で建てるんだ!
脳内で誰かが叫ぶ。
いつものやつでいこう!全員に指令をだす。
とは言っても役に立つのはダンナと大きなコブタぐらい。
そして、今までこんなスピードで、ポールとポールを差し込んだことはないというぐらいの速さで(どんな速さ?)黙々と組み立てはじめる。全てのポールが揃ったら、あとはテント本体に通すだけだ。
しかし、いつもよりポールの数が多すぎる。
ふとみると、使わないはずのもう一つのテントの袋があいている。コールマンの緑の袋である。
小さなコブタが約2名。ポールを取り出し得意顔で組み立てている。
この中に使わないポールが混ざっています。さてどれでしょう?状態
ぎゃぁあああああー
隣に聞こえないよう脳内で叫ぶ。
その後のことは残念ながらあまり覚えてない。
記憶にあるのは、明るいランタンの下でおしゃれキャンパーたちが、おしゃれなグラスをもって、おしゃれな飲み物を楽しそうに飲んでいる。
そんなシーンの片隅で、真っ暗な中、薄汚れた格好でヨレヨレになりながら
カーン、カーン!
とペグを打つウチダケの姿だ。
おしゃれとはほど遠い。
”路上で生活するとは”のドキュメンタリーさながらの映像。
ここキャンプ場だよね?
翌日の帰り道
帰路につく車の中で、山を下り市街地にでるとやっと携帯の電波が入る。
昨日からやたら着信があったことに気づく。
そして、再び着信が
「内田さんの携帯ですか?」
「はい」
「緑の森キャンプ場の管理人です。昨日、こちらに向かっていると連絡を受けたきり、お見えにならなかったので心配して連絡しました」
やはり、
間違えていた
キャンプ場。