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Photo by
sarariman1
気になる黒塗りの車
体の芯が冷えていくような空気の地下駐車場。わたしは寒さに対抗すべく、微塵も動かぬようまっすぐただ前を見つめて直立する。カメラマンさんのお出迎え。かれこれ10分は、警備員さんとともに修行中。
ずっと気になっているのは目の前の車。社用車と書かれた場所に駐車している黒塗りのおそらく高級車。えらい人がお出迎えされるのだろう。
その車の運転席、そしてその後ろの扉が中途半端に空いている。壁側だから、まっすぐ前から見ないと気づかないくらいちょっと。
そして、黒塗りの影だから見づらいのだけれど、運転席の扉の下に革靴がみえる。並べられた一足の革靴。でも人気はない。なぜ??
疑問が湧き上がったところでもう一度考える。空いた扉、置かれた革靴。人気のない車。
昼寝している?でもこの寒い駐車場、暖房が逃げてしまうだろう。
逆に換気?ならば両方の扉を開けた方が効率がいい。
締め忘れと置き忘れ?それは忘れすぎだ……。
取引現場ならどうだろう。
お互いに手を出さないという牽制のために、扉をあけ、靴を脱いですぐは逃げられないようにし、後部座席でやりとりをする。
そういえば後部座席は見えないようになっている。ぷるぷる。相棒の見過ぎだと思うものの、想像は止まらない。そこの影にもSPがいたり……。
突然電話が鳴る。
警備員さんにかかってきた電話。注意を引こうという魂胆か!とさらに眼力を強めて車を見つめる。ぐぬぬ。見逃すものか。
ふんふん思っていたら、カメラマンさんがやってきた。名残惜しみつつ、立ち去る。
いったい何だったのか。探偵がほしい。