亜鉛の摂取と炎症性腸疾患の関係性について調べてみた
亜鉛の欠乏が炎症性腸疾患に対して悪影響がある、という報告が以前より多くされています。今回は埼玉医科大学の研究者から2022年に報告された、亜鉛摂取とn-3脂肪酸を多く含む日本食によって潰瘍性大腸炎患者を臨床的な寛解に誘導することに成功した論文[1]を見つけましたので、紹介したいと思います。
なお、本論文をとっかかりとして、参照先の論文についてもいくつか紹介できればと思います。
論文の結論
軽症の潰瘍性大腸炎患者を①亜鉛摂取と日本食を促進する群(n=10)と②食事制限なし群(n=10)に分け、12週と24週に測定したCAI、UCEIS、GHSスコアは介入群で有意に低く、臨床的寛解を達成した患者割合も有意に高かった。
具体的にはCAI (Clinical Activity Index)評価で4以下(臨床的寛解と定義した)に至った患者の割合は24週の評価時点で対象群0%、介入群90%であった。
軽度UCの既存治療への補助として、亜鉛の摂取と食事療法が有益である可能性を示唆しているが、検証のためには大規模なランダム化比較試験が必要と結論付けている。
本論文では亜鉛の摂取だけでなく、n-3脂肪酸を多く含む日本食の食事療法も実施しており、亜鉛の効果を独立に検証してはいません。また、CRPの値が対象群でも24週間後に有意に下がっているなど他の要素もあるのでは、と思う点もありました。一方で、UCEIS、CAI、GHSスコアは確かに介入群で有意に下がっており、一定の効果を示唆していると思われます。
本論文では多くの亜鉛摂取と潰瘍性大腸炎の関係についての他論文も引用しており、以後その情報も含め詳細に見て行きたいと思います。
論文の詳細
栄養指導の内容
本研究では亜鉛とn-3脂肪酸を主に食物から摂取しており、以下のような食べ物が記載されています。
亜鉛の食事摂取
魚介類(牡蠣、ホタテ、うなぎなど)、肉類(牛肩ロース、牛もも肉、牛レバー、鶏レバーなど)、乳製品(卵、牛乳、プロセスチーズなど)、大豆(納豆、豆腐など)、ナッツ類(カシューナッツ、アーモンドナッツ)
n-3脂肪酸を多く含む魚
アジ、鯖、サンマ、イワシ、ブリなど
エマニ油、えごま油、和食の摂取
患者の状況
15歳以上の軽症潰瘍性大腸炎患者が試験には選ばれ、中等から重度の活動期UC患者などは除外されました。患者の状況としてはメサラジン製剤を使用している人数が両群とも8/10人、アザチオプリン製剤を使用している人数は両群とも5/10人で、ステロイド、生物学的製剤やカルシニューリン阻害剤やJAK阻害剤などの追加治療は試験中行われなかったとのことです。
結果
以下の指標で患者の状態を評価しています。
UCEIS (Ulcerative Colitis Endoscopic Index of Severity):
UCEISは、潰瘍性大腸炎の内視鏡検査による重症度を評価する指標です。
スコアが高いほど、大腸の炎症がひどいことを示しており、患者の病状が悪い状態を反映します。
CAI (Clinical Activity Index):
CAIは、潰瘍性大腸炎の臨床的活動性を評価するためのスコアです。
このスコアも同様に、数値が高いほど潰瘍性大腸炎の症状が重いことを示し、より活動性の高い病状を意味します。
GHS (General Health Status):
GHSは、患者の一般的な健康状態を評価する指標で、しばしば総合的な健康感を反映します。
このスコアは、通常、高いスコアが患者の健康状態が良いことを示しますが、具体的なスケールによって解釈が異なる場合があるため、評価の文脈を理解することが重要です。介入群
論文中では表中に数値で示されているので、グラフにまとめました。
介入群の青のグラフは時間の経過とともに有意に各スコアが低下していることがわかります。
亜鉛と潰瘍性大腸炎の関係
本論文中では他論文を引用する形で、以下のような亜鉛と潰瘍性大腸炎の関係を述べています。
過去の研究結果からマウスの実験結果ながら亜鉛の欠乏はIL-23/Th17軸の活性化を介して大腸の炎症を増悪させ、亜鉛の摂取はサイトカイン抑制により寛解導入率を高める。[2]
潰瘍性大腸炎患者86/223人でクローン病患者326/773人で低亜鉛血症であり、低亜鉛血症を伴うIBD患者は入院、手術、合併症のリスクが高かった。[3]
以上の他論文の知見も考慮し、血中亜鉛濃度を維持することはUCの増悪予防に役立つと論文中では述べています。
記事のまとめ
今回は軽症の潰瘍性大腸炎患者に対して亜鉛の摂取とn-3脂肪酸を多く含む食事療法を行い、臨床的な改善が認められたと報告した論文について紹介しました。
論文中では確かにCAIスコアなどが有意に介入群で改善しているデータが示されており、一定の効果が示唆される内容となっていました。
亜鉛単体の摂取を調べた別の論文も
また別のブラジルの研究グループが発表している論文[4]でも、亜鉛の効果が調べられています。41人の患者をグルコン酸亜鉛を補充した群(n=23)とプラセボ群(n=18)に分けました。なお、このグループ分けはランダムに行ったわけではなく、亜鉛濃度が低い患者を補充群、濃度が正常な患者をプラセボ群にしたとのことです。
参加者は開始時、30日経過後、60日経過後に血漿および赤血球中の亜鉛濃度、サイトカイン濃度を測定されました。また、潰瘍性大腸炎の活動性についてはMayoスコアを用いて評価したとのことです。
結果としては、亜鉛補充群で60日目のサイトカインレベルが有意に減少。30日経過時、60日経過時では亜鉛補充群はUC活動性スコアが有意に低下した一方、プラセボ群では低下しなかったと報告されています。
IBD患者は亜鉛欠乏が起きやすい
実は亜鉛欠乏については厚生労働省が運営するサイトでも以下のように述べられています。
亜鉛の必要摂取量と摂取上限量は
IBD患者が不足しがちな亜鉛を摂取するのにはサプリメントの使用も考えられます。
亜鉛はビタミンCなどのサプリメントと異なり、過剰摂取した場合、吐き気、嘔吐、食欲不振、胃痙攣、下痢および頭痛などが発生することが知られています。1日の必要摂取量と上限量は以下のように上記サイトでは記載されています。
必要摂取量:成人男性11mg/日、成人女性8mg/日
上限量:成人40mg/日
なお個人的な話ですが、筆者は上記を考慮し、以下のサプリを毎日夜に1カプセル飲むようにしています。(夜の方が吸収が良いとのことです)
ご注意
本記事の内容は潰瘍性大腸炎に対する研究結果を紹介するもので、特定の治療法を推奨したり、治癒効果などを謳うものではありません。
また、筆者の論文理解が不十分な事がある可能性もありますので、あくまでも参考情報として読んで頂ければと思います。何かあればご指摘ください。適宜レビューし、記事を修正いたします。
参考情報
引用元論文
Miyaguchi K, Tsuzuki Y, Ichikawa Y, Shiomi R, Ohgo H, Nakamoto H, Imaeda H. Positive zinc intake and a Japanese diet rich in n-3 fatty acids induces clinical remission in patients with mild active ulcerative colitis: a randomized interventional pilot study. J Clin Biochem Nutr. 2023 Jan;72(1):82-88. doi: 10.3164/jcbn.22-72. Epub 2022 Nov 26. PMID: 36777083; PMCID: PMC9899918.
Higashimura Y, Takagi T, Naito Y, Uchiyama K, Mizushima K, Tanaka M, Hamaguchi M, Itoh Y. Zinc Deficiency Activates the IL-23/Th17 Axis to Aggravate Experimental Colitis in Mice. J Crohns Colitis. 2020 Jul 9;14(6):856-866. doi: 10.1093/ecco-jcc/jjz193. PMID: 31783404.
Siva S, Rubin DT, Gulotta G, Wroblewski K, Pekow J. Zinc Deficiency is Associated with Poor Clinical Outcomes in Patients with Inflammatory Bowel Disease. Inflamm Bowel Dis. 2017 Jan;23(1):152-157. doi: 10.1097/MIB.0000000000000989. PMID: 27930412; PMCID: PMC5177471.
de Moura MSB, Soares NRM, Barros SÉL, de Pinho FA, Silva TMC, Bráz DC, Vieira EC, Lima MM, Parente JML, Marreiro DDN, da Silva AS, Nogueira NDN. Zinc gluconate supplementation impacts the clinical improvement in patients with ulcerative colitis. Biometals. 2020 Feb;33(1):15-27. doi: 10.1007/s10534-019-00225-0. Epub 2020 Jan 19. PMID: 31956928.