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潰瘍性大腸炎を食事療法だけで寛解させることは可能なのか調べてみた

潰瘍性大腸炎患者の症状の重さは一人一人違います。症状が重い人、軽い人様々な方がいるかとは思いますが、食事療法だけで寛解させたと言う人は稀でしょう。

ステロイドや免疫抑制剤などを用いてもなお寛解しない厄介な病気の潰瘍性大腸炎が食事だけで寛解するとは思えない、と言う方が多いでしょう。

しかし、食事療法だけで寛解させたと言う論文報告を今回見つけたので紹介したいと思います。なお、筆者も食事療法だけで全ての潰瘍性大腸炎患者が快方に向かうほど甘いものだとは考えていませんが、食事が症状に大きく影響すると言う学びになればと思い紹介します。

結論

前提として今回の論文はn=1(患者数1人)のCase Repot(症例報告)であり、大規模に調査されたものではありません

  • 23歳の白人女性の潰瘍性大腸炎の症状を5-Rsプログラムアプローチによって管理しました。5-Rsとは以下からなる腸管修復プログラムとのことです。(具体的な食事の内容などは論文の詳細パートを御覧ください)

    • Remove(除去): 不健康な食品やアレルゲン、有害なバクテリアや寄生虫など、問題を引き起こす可能性のある要素を除去します。

    • Replace(置換): 消化を助けるための必要な消化酵素や胃酸などを補充します。

    • Reinoculate(再接種): 健康な腸内細菌を増やすために、プロバイオティクスやプレバイオティクスを摂取します。

    • Repair(修復): 腸の壁を修復し強化するために、栄養素や補助食品を摂取します。

    • Rebalance(再バランス): 生活全般のバランスを取り、ストレスを管理し、適切な睡眠と運動を行います。

  • 好ましい食事の遵守と5Rsプログラムの後、患者は無症状となり、6週間以上メサラジンを使用しなくても良くなったとのことです。

論文の詳細

本論文はケースレポートであり、時系列で特定の患者の病態の推移を紹介していますので、それに倣い紹介します。

  • 2016年2月、患者(23歳の白人女性)は消化器内科を受診し、潰瘍性大腸炎(UC)と診断されメサラミン坐薬が処方された。

  • 2016年4月、直腸出血が続いていたため、ヒドロコルチゾン坐剤が6週間分処方された。その後、ヒドロコルチゾン(いわゆるステロイドです)は中止され、メサラミン(いわゆる5-ASA製剤です)が処方された。患者はメサラミン投与を継続し、自己責任のもと食生活の改善とプロバイオティクスの補充を開始した。

  • 2016年7月に臨床栄養士との面談を予約した。栄養士が最初に推奨したのは、消化器疾患に関連する可能性のある異常な微生物環境を特定するための食事療法と栄養補助食品の補助であった。カイロプラクターは、定期的な検査、寄生虫学による検便を行い、小腸細菌過剰増殖(SIBO)の検査を行った。便検査では、常在菌陽性、顕微鏡的酵母陽性、乳酸菌不足、赤血球と白血球の存在が確認された。

栄養士は異常な細菌レベルの同定と、プロバイオティクスの補充にもかかわらず解決しない患者の症状を見て、5-Rアプローチ(除去、置換、再接種、修復、およびリバランス)を選択した。栄養士は以下のような食事の提案を行なった。

全食品を対象とした除去食(アレルゲン食品群を除去、低FODMAP食)

  • 【朝食】プロテインパウダーとコラーゲンパウダー、無糖ココナッツ・アーモンドミルク、フルーツ1/2切れ、カカオパウダー、チアシード、卵2個と野菜

  • 【昼食】ミックスベジタブル、ローストビーツ、ローストサツマイモのサラダ、天然の魚、オーガニックチキン、ゆで卵。オリーブオイルとレモンまたはリンゴ酢をかける

  • 【夕食】オーガニックチキン、魚、オーガニックターキー、野菜2カップ(ロースト、ソテー、蒸し焼き)、ボーンブロス、野菜、肉を使ったスープ

  • 【おやつ】ヤギや羊のヨーグルト(限られた量)、ナッツ(アーモンド、胡桃、マカダミアナッツ)と果物。果物は1日1食に制限。

  • 【避けるべき食品】高FODMAP(小腸では吸収されにくい発酵性の糖質の総称)食品、とうもろこし、グルテン、グルテンフリー穀物、牛乳、ナス科の野菜、大豆、豆類、養殖の魚介類、普通の肉類、非有機農産物。砂糖、高果糖コーンシロップ、食品添加物、化学保存料、食品色素を含む可能性のある包装食品。

患者は数ヶ月間食事療法に専念しましたが、外食や食事中は例外で、70-80%程度の順守具合だったとのことです。

併せて、以下の栄養補助食品も摂取したとのことです。論文中では介入措置についても併せて記載されています。

2016年7月(食事療法開始タイミング)〜

介入措置

  • 全食品を対象とした除去食、低FODMAP食

サプリメント

2016年8月(2回目の訪問)

介入措置

  • 消化の改善、膨満感とガスの増加、未消化の食物が便に混じる

サプリメント

2016年9月(3回目の訪問)

介入措置

  • 不規則な月経。未消化の食物が便に混じる。

  • ヌルデの木の樹皮を利用したハーブサプリメント:Slippery Elm (VitalNutrients)の服用を遵守せず。

サプリメント

2016年10月(4回目の訪問)

介入措置

  • 便秘だが、全体的な消化と健康状態は改善されている。

サプリメント

2016年10月(5回目の訪問)

介入措置

  • 軽度の便秘、ゲップの増加、全体的な健康状態の改善。食事療法を継続。

  • 便検査を実施

サプリメント

2016年11月(6回目の訪問)

介入措置

  • 全体的に消化が良くなり、軽いゲップとガスが出る。GIフローラの再構築を開始。プロバイオティクスの豊富な食品、豆類、少量のグルテンフリーの穀物を取り入れる。

サプリメント

  • 上記サプリメントを全て中止。

  • Prescript Assist 2 caps/day (プロバイオティクス), L-グルタミン 500 mg 2x/日(Thorne), ビタミンD 10000 IU (Thorne), ビタミンBコンプレックス #12 2x/日 (Thorne)を開始

2016年12月(7回目の訪問)

介入措置

  • 食事療法の継続が困難。

サプリメント

  • 上記を継続

2017年1月(8回目の訪問)

介入措置

  • 患者は症状の再燃や血便がなく、坐薬の使用を週1回以下に減らしたと報告。食事療法の継続が困難

サプリメント

  • 上記を継続

2017年2月(9回目の訪問)

介入措置

  • 最低6週間座薬を使用せず、8週間100%無症状で規則正しい消化ができている。

サプリメント

  • Prescript Assist (プロバイオティクス), ビタミンBコンプレックス, ビタミンD 10000 IU 3x/週, オメガ3脂肪酸


2016年7月に食事指導とサプリメントを開始した患者は2017年2月に完全に症状が消失したと報告しています。

サプリメントの多くは正直日本では馴染みのないものが多いですが、欧米では消化器症状の治療に多く使われるものもあるようです。例えば、Iberogast (Iberogast)については以下のHPでも紹介されています。

まとめ

今回はある潰瘍性大腸炎患者に着目した症例レポートを紹介しました。n=1ながら、食事介入とサプリメントによって5-ASA製剤を6週間以上使用せずに症状が100%消失するところまで改善したと論文では報告されています。

この患者は専門家の介入の上で、食事療法・サプリメント療法を実施しています。論文を紹介しておいてなんですが、患者個人の判断で同様の内容を実施するのにはリスクが伴います。主治医とよく相談の上、対応して頂ければと思います。
一方で、一般的な知識としてアレルゲン除去や低FODMAPなどを心掛けるきっかけやサプリメントを調べるきっかけになればと思い紹介いたしました。

ビタミンDと潰瘍性大腸炎の関係など論文報告されているものもあり、今後個別のサプリメントやビタミンが炎症性腸疾患に与える影響についても調べていきたいと思います。

参考情報

引用元論文

  • Scheller B, Winter C, Zamyad J, Felmlee K, Heard D. The Successful Management Of Ulcerative Colitis With A Nutritional Intervention: A Case Report. Integr Med (Encinitas). 2019 Oct;18(5):40-47. PMID: 32549845; PMCID: PMC7219448.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32549845/

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