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アニマルセラピーを通して、あらためて思う社会貢献の姿
少し前になりますが、とある就労支援施設にお邪魔し、そこで定期的に開催されているアニマルセラピーのプログラムに参加することができました。
就労支援、正確には就労継続支援と呼ばれる福祉サービスを提供している事業所。
具体的には、精神疾患を抱えて一般企業等で就労が困難な方に、働く場やその他の活動を提供し、生活リズムを整えて社会への参加、自立につなげていくための事業所施設になります。
とてもにぎやかな街の中心に位置するその事業所は、アートを通した社会参加を目指している施設で、アート制作を行う場所に加えて来所者がくつろげる応接スペースやちょっとした画廊も併設されています。
アニマルセラピーは「その他の活動」の一環として、1回1時間ほど、現在は週1回くらいのペースで行われているそうです。
会場となる応接スペースは喧騒とは無縁の、絨毯が敷かれた暖かい和やかな場所。
そこここに一人掛けソファやテーブルが置かれ、セルフサービスでコーヒーやお茶もいただけます。
この日に来てくれたセラピー犬は4匹、そのうち1匹はまだ訓練中の子でした。
到着直後のワサワサ状態からみんな徐々に落ち着いていき、飼い主に促されながら絨毯の上にそれぞれ寝そべりだします。
これまで犬どころかまともに動物を飼った経験がない私も、とりあえず絨毯に座り込み、近くのワンちゃんを観察…
なんて優しい目!
一気に惹きこまれ、自然と力が抜けていきます。
アニマルセラピストである飼い主さんが口々に「どこを触られても大丈夫ですよ~」と仰るので、恐る恐るあちこち触っていきました。
確かに、どこを撫でても気持ちよさそう…というか、どんどん幸せオーラが増していくワンちゃんたち。
次第に横向けや仰向けになって、そのリラックスした態度がさらに場を和ませます。
この日参加された来所者の中には、毎回のように参加して慣れている方もいれば、ほとんど初めてのような方も。
飼い主さんはタイミングを見て、ひとりひとりに「膝の上に乗せてみますか~」と声をかけます。
暖かい動物の重みを感じ、撫でてあげる…そして犬の方も、これ以上ないくらい幸せそうな表情でそこに居る…。
1時間が過ぎ、来所者さんたちがワンちゃんたちに見送られて、アニマルセラピーは終了となりました。
終了後、事業所管理者の方とお話をする時間をいただきました。
ここで、驚くべきご提案が飛び出しました。
もしよければ、今後も自由に出入りしてもらいたい、と。
ここに通っている方々のほとんどが、他人とのコミュニケーションに多大な苦手意識を持っています。
それが生きづらさに繋がり、場合によってはこれまでの経緯で統合失調症などを発症するに至っている。
でも、誰一人として本当は人から逃れて引きこもりたいわけではない。
人間関係を紡いでいけるという自信を回復するために、肯定的な対人関係を積み重ねていくことが大切で、そのためには外の人とのちょっとした繋がりもとても助けになるのだ、と。
…目が覚めるような感覚を味わいました。
このような場での“支援”というのは、もっとエネルギーを込めてというか、大げさに言うときちんとしたコミットメントを必要とするものだとばかり思い込んでいたことに気づいたのです。
それが、現場の責任者としては、ただその場に来て一緒に犬を可愛がることだけで、支援になると教えてくれたのです。
そこで生まれる空気、なにげないコミュニケーションが、通所してくる皆さんにプラスに働くのだ、と。
なんてこと!
ただこの場に来て、ただ一緒に犬を撫でまわして、その可愛さに一緒に盛り上がるだけで、現場が必要としている支援になるなんて…。
なにか社会のお役に立ちたい、困っている人のために尽くしたい、などと言いながら、実はなにか立派なこと、大きなことをしなければという勝手な思考に囚われていること…これは自分だけではなく、もしかしたら多くの人に起こっていることなのではないかと感じます。
志は素晴らしく、正しいことのはずなのに、どう頑張ろうとしても上手く物事が流れない。
正しいことのはずだという自負が、さらに物事を空回りさせたりして、負の感情を溜め込んだり。
そんなときは…つまるところ、囚われてしまっている思考が邪魔をしている可能性が極めて高いのですね。
そして、その思考を見抜くには、とても強い意志と冷静な観察眼が必要です。
この施設は長い時間をかけて、こんな開かれた眼をもつ管理者の方を先頭に、暖かく居心地の良い居場所を作り上げるに至っています。
肩肘張らない支援という意味では、セラピー犬たちもとても優秀な先生です。
私にとってきっとまだまだ様々な発見があり、また私も別の形でなにかご協力できそうなことが見つかりそうな、この施設。
お言葉に甘えて、少しずつ関わらせていただけたらな、と考えているところです。
すばらしいご縁に感謝です。
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