指輪をおとしたどこかのどなたかへ

少しやさぐれた気持ちで歩いていたところ地面に光るシンプルな銀色の指輪が目に入り、ただ(指輪ですね…)と思いながら通り過ぎようとしたら内なる声が(エッ、大事なものだったら可哀そくね?)と言うので、仕方ないなァ…と最寄りの地下鉄駅に降りて行きました。
駅員さんに「落とし物を拾いました」と伝えたところ「どこで拾った」と聞かれたので「駅の入り口のめちゃくちゃすぐ近く、本当にもうほぼ駅の中ですよあれは」というような感じで伝えましたが「駅の中の拾得物じゃないと預かれないんだ、ごめんネ」的なことを言われ預かってはもらえません。
(まあ、そりゃそう…)と思いながら地上に出るも周辺には交番がなく、近くに鎮座する警察庁へ突撃することにしました。
しかし手前の門番であえなく撃沈。
「交番か警察署へ行け」と言われるのみです。
(近くにねーからここに居るんだろーが)(もうめんどくせーから放置しようかな、ここに)と思ったところ、「どこの交番でも構いませんよ、ご自宅の近くでも」と仰るので(なーんだ、それならまあいいヨ)と自宅最寄り駅の交番を目指しました。

交番に辿り着き、引き戸を開けて「こんばんは。落とし物を…」まで言いかけたところ、3人のお巡りさんたちは一様に(何の用?)的な雰囲気を醸し出しています。
しかし「…届けにまいりました」と続けたところ、水を得た魚の如く「アーッ、ありがとうございます!」「ではこちらに!」「場所とか教えてくださいね!」などと生き生きと動き始めました。
聞かれるがままに大体の拾得時刻と詳細な場所をお知らせすると、親分格が「あ、この近くじゃないんすね」とシラけた空気を出してきたので「警察庁の門番みたいな人に、どこでもいいから交番に行けと言われたので…」と答えるといきなり「そう、どこでもいいんすよ!」「どこでも!」などと調子を合わせてきます。
(なんか愉快なお巡りさんたちだなァ)と思いながら権利放棄の署名をして一件落着しました。

指輪をおとされたどこかのどなたかへ
今はネットワークで落とし物情報も共有されてるみたいなので、とりあえずどこでもいいのでどっかの交番で聞いてみてね
見つかるといいね
わたしより

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