ホラー映画、その真髄は映画館で
『ヘレディタリー/継承』という映画を観てきました。
以下、少々内容に触れた感想を記しますので、もしも「これから観に行く予定!」という方がいらしたらここらでお引き返し願います。
映画を観ることは好きなのですが同時にまあまあなレベルのものぐさ太郎でもあるわたしはあまり積極的に新作の情報収集をしておらず、この作品の存在を知りませんでした。
それなのになぜ観に行くに至ったのか。それは職場の人の一言がきっかけでした。
12月頭のある日、ファイルを手渡されると同時に彼は小声で呟きました。
「『ヘレディタリー』って知ってる・・・?」
仕事に関係する単語かと思ったわたしは(?なに?アメリカかどっかの新たな制度か??しかし今手渡されたこれは日本の案件だが????なんなんだ????????)と訝しみつつ
「知らないです」
と答えると、彼は被せ気味に
「すごく怖いらしいよ・・・」
と控えめに、しかし畳みかけてきます。
「もしや映画の話ですか」
「うん・・・」
(なら最初にそう言えよ)
というやり取りを経てその映画のタイトルを知ったのでした。
その人とは以前に職場の食事会の場でなんとなく映画の話になったことがあり、わたしが『死霊館』シリーズを猛プッシュしたことにより彼の中で「あいつはホラー好き」という印象が残っていたためか、この作品を教えてくれたようです。
映画は、身内にとってさえミステリアスなところの多かった祖母の他界に伴い、家族に降りかかる不可解な出来事・悲劇から衝撃の結末を描いた作品でした。
これまで観てきたいくつかのホラー映画とは異なり、恐怖感を楽しむというよりは冒頭から衝撃の中盤を挟んでついには終盤まで不安と絶望に苛まれ続けるので、とても面白かったけど万人にお勧めはしにくいという印象です。
好きなひとにはすごくハマりそう。
ミニチュア作家である母のアトリエから始まる冒頭は少し光を明るくして彩度を上げたらモード・ルイスの映画(『幸せの絵の具』)さえ思い出しそうな可愛い世界なのに、そこにすら漂うのは不穏な空気。
ミニチュアズームアップから始まる様は、何かの手中で転がされるような感覚を覚えました。
祖母の葬儀へ向かうという明るくない局面から始まるとは言えまだ歳若い子供を抱える家族としてはあまりに生気がなく、特に内向的な娘チャーリーの存在は異色で、表情一つで観ているこちらの不安感を煽ります。
彼女チョコが大好きなようなのですが、全然美味しそうに食べない・・・。
板チョコをバリバリと噛み砕く様は、まるでストレス解消ための暴食のように映るのです。
夫と息子ひとり娘ひとりという家族を持つ母はごく平凡に生きてきた中年女性かと思いきや、彼女の口から語られる過去もまた壮絶なものがあり観ているこちらを驚かせます。
中盤に起こる衝撃の事件は、まず冒頭葬儀の場で示唆されていたチャーリーのナッツアレルギー、そしてパーティー会場でお菓子を作る女の子が胡桃を刻む包丁使いへの暴力的なまでのクローズアップと加速する車の危うさ、空気を求めて窓を開けるチャーリーの行動というすべての不安要素が昇華されて爆発したかのようで、たぶん観ていたすべての人が息を呑んだであろうと思います。
その後に取った(というか取らなかった)兄の行動、もう他にどうすることも出来なかったんだろうな。脳が臨界点に達したらああなるよ、きっと。
『死霊館』を観たときに(ハンドクラップの恐ろしさよ・・・)と思いましたが、今作では子供がよくやるであろう舌を鳴らす音にゾッとしました。
そして後半、ここで解決するのかな・・・と思わせておいてそうは問屋が卸さない展開にまたも観客は「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・まじか・・・・」と絶望させられるのです。
夫、ただただ災難。
そして怒涛の終幕、迫りくる恐怖に救いようのなさを感じたところで新たな扉が開いて映画は終わります。
あんなん絶対に継承したくはないが、継承してしまったなら早めに堕ちてしまった方が楽だな・・・と思わせられてしまう程に絶望でした。
ふ、人は弱いものさ。
昨今、自宅で映画を観ることがとても容易な世界になりました。
映画館で映画観るの、高いしね。
同じものを低価格で観られることで良作が多くの人の目に触れる機会も増えるのであろうし、それは悪いことではないと思っています。
しかし。映画館でこそ楽しめる映画が少なからず存在することもまた事実です。
『ボヘミアン・ラプソディ』や『クレイジー・フォー・マウンテン』のような映画は勿論のこと、ホラー映画もまたやはり映画館でこそ真骨頂を発揮するものであると思うのです。
『ジェーン・ドウの解剖』という映画を映画館で(ホラー映画オールナイトの〆の一本でした・・・)観た後、日をおいて友人と一緒にDVDで観たことがあります。
二回目であるということを考慮に入れても、やはり映画館で味わった恐怖・絶望とは比較にならないと感じました。
もともとホラーを観られない方々に強制するつもりは微塵もありませんが、もしも自宅のテレビやPC、もしくはご自宅のシアタールームなどのみでホラー映画をご覧の方がいらっしゃるならば、やはり映画館での鑑賞をお勧めしたい。
「さあさあ、こっち側へおいで・・・フフ・・・」とわたしはいつだって手薬煉を引いてお待ちしております。