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【ポンポコ製菓顛末記】                   #38 騙しのテクニック


 
 先日、博報堂がサントリーに広告制作費を過大請求していたので返納したというニュースがあった。
 コンプライアンスの時代にいまだにこのような取引が行われていることに唖然とすると同時に、何年たっても変わらないなという印象であった。
 


ガムテープ1本5千円


 
 読者の皆さんはラクスルという会社のTVCMサービス『ノバセル』のネットCMを見たことがあるだろうか?TV広告CMの効果についてクライアントの女社長と広告部の担当とのやりとりのCMだ。
 社長が担当に広告効果はどうなのかと質問すると「これからです~ぅ」とか「さ~??」とか埒のあかない返答に社長がブチ切れるCMだ。
 「いったい いくら払っていると思っているの~!!」と怒り心頭になるオチだ。

 あれは実話である。筆者がポンポコ製菓の広告部担当だった頃と全く変わっていない。しかしそれは40年前の話だ。半世紀近くたっても、これだけデジタル化され様々なテクノロジーが進化していても、いい加減な業界体質はなんら変わっていないのだ。

 何故か?

 広告とは、効果がみえにくい、解りにくいサービスの商売であり、顧客を騙しやすいからだ。とりわけTV広告はちゃんと伝われば効果が大きく極めて効率的なので、取引額が大きい。そのわりには効果測定が極めてズサンなため、広告に関わっている企業、社員にとってはオイシイからである。おいそれとシロクロがハッキリしては困るのだ。メディアも広告代理店も芸能界も持ちつ持たれつのムラ社会を崩さない。
 先日のジャニーズ問題はそのほころびが露呈したにすぎない。

 TV広告費はCM動画を創る制作費とそれをTV電波で送る媒体費で成り立っている。今回博報堂が訴えられたのはCM制作費の搾取だろうが、ポンポコ製菓でも全く同じことが起きていた。但し訴えはしなかった。何故ならば限りなくクロに近かったがそれが常態化していたからだ。
 そもそもCM制作は別に原価計算するわけでなく、今回は大体これくらいだろうと初めに金額を決めて、あとは後付けで費目分解して見積書を作るのだ。適当に見積分解しているだけなのでそもそもがいい加減である。時にはクライアントから取りたい費用、例えばクライアントを接待した飲食費なども乗っけてくる場合もある。そして一応もっともらしく細かく分解した見積書を提出する代理店もあれば、それすらもつけず制作費〇〇万円と1行だけで以下余白という代理店もあった。すし屋でお勘定をして小さなメモ紙に✕円しか書いていない、あの類である。すし屋はせいぜい何万円だろうが、制作費は何千万円、時に億円になる場合もある。

 ポンポコ製菓と取引のあるガオガオ堂も代々その傾向であった。筆者はある時、ガオガオ堂に見積書を提出するように求めた。担当は困った様子だったが、しばらくしてシブシブ提出してきた。大層時間がかかったが恐らくそういう経験が無かったからだろう。
 提出された見積書をみて驚いた。ガムテープ1本5千円、10本で〆て5万円という明細があったのだ。一生懸命、懸命に捏造した努力は認めるが、ガムテープ5千円はないだろう。
 私は担当にきいた。
「5千円のガムテープって、すごいネ。今度そのお店を紹介してくれる?」
 担当は真っ赤な顔をして、下を向いて黙ってしまった。

 こんな調子だから厳しいクライアントは、制作現場に必ず立ち会った。それこそスタジオの照明の本数があっているか、バックのグリーンの木の数があっているか、見積書を一つ一つチェックした。そこまでしなければ危なくてしょうがないのだ。
 

参りました!!


 
 ガオガオ堂の見積書には別件でも怪しいのがあった。ある制作費で管理費が異様に大きい案件があった。理由を問うと今回の制作は下請け会社も大手なのでマージンが大きくなったという回答であった。それにしても大きすぎるのでその下請け会社の責任者と話したいと申し入れた。その下請け会社は前首相の子息がトラブルを起こした例の南西旧社である。
 しばらくして両社の責任者が現れ、打ち合わせを持った。すると冒頭いきなり汗をかき、かき、申し訳ありませんでしたと平謝りしてきた。私は疑わしいので説明を聴きたいと申し入れただけだったが、問い詰める前に謝ってきたのだ。
 やっぱりそうだったのか、両社で水増ししていたのかと思ったが、滑稽であった。ちょうど昔あったフジテレビの「とんねるずのみなさんのおかげでした」というバラエティの「食わず嫌いコーナー」を思い出したからだ。それはゲストの嫌いな食べ物を別のゲストがその食べ方をみてホンモノをあてるというオチなのだが、泉谷しげるがゲストの時に1食目を食べたら図星だったためいきなり「参りました!!」と自分から誤ってしまったのだ。全く番組の主旨を理解せず白状してしまったので司会の石橋貴明が慌ててしまって一同大笑いであった。

 それと同じような類いだが、ある面正直に白状したので情状酌量の余地があった。
 
 かようにCM制作はいい加減でオイシイ制作業なのだ。おそらく映画よりもTV番組よりも楽に儲かる。もっともそこには制作者の主張や創作魂は入らない。クリエイターの主張は広告クライアントには不要でうけないからだ。だから創作魂を捨てて金儲けをしたいならばCM制作はもっともオイシイ。
 
 さてそんなCM制作の何倍もいい加減なのはTV広告、即ち媒体費である。
次回はTV広告の話だ


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