日曜日のクルーメイト #0030 Hell of Swordbush 『剣樹抄』ドラマ撮影見学
ハロー、クルーメイト! いかがお過ごしでしょうか?
冲方は、さっそくドラマ『剣樹抄』の撮影現場を見学させて頂きました!
目の前でキャストの演技を拝見してしまう特等席にも歓喜ですが、美術も衣裳もセットも、冲方にとっては、滅多にお目にかかれない「立体資料」なのです。
現代的にアレンジされているとはいえ、それまで絵や図から想像するしかなかったものの中に入り込めるわけですから、想像の幅が格段に広がります。
そればかりか、刀を差したりしている和装の人間が、その中でどう動き回るか(あるいは動けないか)、確認できるわけです。
お邪魔できる限られた機会で見聞きしたことを、一部ではありますが、さっそく当記事で皆様にご紹介したいと思います!
『剣樹抄』第1巻文庫とドラマ見学!
その前に、文庫の見本ができました! こちらが1巻の目次です。
解説は、なんとドラマのプロデューサーに書いて頂いております。
そして文庫版では、こちらの地図も。
より読者の想像がたやすくなるよう、明暦三年の大火後の地図をもとに、要所要所を記載しております。編集者とデザイナーの素晴らしい力作です。
地図を見ると、若い光國がいかに江戸を駆け回っていたか一目瞭然。
普通、大名の子息は行動の自由を大幅に制限されていたはず。周囲からは相当な不良息子だと思われていたでしょう。
というわけで、撮影現場へ! めちゃめちゃ快晴。スタジオの中は灼熱地獄なのではと心配になりましたが、立派な建物ゆえか、涼やかで快適でございました。
当然ながらキャストの画像をここで載せることはできませんが、スタジオに入ってすぐ、衣裳を調えた山本耕史さんにご挨拶ができ、「美男で長身で筋骨逞しい」という史料通りの光國を拝見できました。
山本耕史さんから「実は同い年ですね」と言われて嬉しくなったり。
刀を差した状態で、さや当て(刀の鞘を壁や人にぶつける)をせずに動き回る様子など、しっかり観察させて頂きました。
また、見学に伺った前日には、氷ノ介役の加藤シゲアキさんとの殺陣を撮影したそうで、いろいろと手応えについて伺うこともできました。
加藤シゲアキさんとは、御著作にコメントを寄稿したご縁があり、これまた嬉しい次第。
なお、今回のドラマでは、ワイヤーで人を引っ張ったり、トランポリンで跳ねたり、といった撮影を予定しているそうで、時代劇の殺陣というより現代のアクションに近いものになりそう、とプロデューサーからもお話を伺いました。
他にも、ご挨拶させて頂いたキャストの方々がいらっしゃるので、後日改めて書かせて頂こうと思います。
さて美術セットです!
風呂です。
これぞテルマエ・江戸前です。すいませんヤマザキマリさん。
これが見たかった! 湯屋(お風呂屋さん)の「ざくろ口」です。奥に湯船があり、湯気が逃げないよう出入り口を上下に狭くしているんですね。
なぜ「ざくろ」なのかわかりませんが、そういう絵が描かれていたのかも。
またぎながら頭を低くせねばならず、子どもやお年寄りにはちょっと辛かったのでは。
冲方は執筆時に資料探しにものすごく苦労しましたが、立体で造ってしまうプロの手腕に大感動。
画像を撮っていると、中にいたスタッフの方が「脱がねば」とシャツを捲り上げたり、とても親切にして頂きました(笑)。
奥からスモークを焚いて湯気を演出することもでき、モクモクです。
湯船です。当時は灯りがないので、中は暗かったとか。
湯は当時、めちゃくちゃ熱くしていたそうです。殺菌やカビ対策の意味もあったのかも? 人によっては湯に入るには熱すぎて、サウナのように湯気を浴びるだけだったのでは。
撮影に向けて、忙しくセットを調えるスタッフ陣。
「毎日がビフォア・アフターです」
とのこと。
なんと前日まで、「寺」や「邸」だった素材を分解し、湯屋に組み立て直しているとか。撮影に合わせて連日まったく違う空間を作り出す、マイクラも真っ青のクラフト力。
計画通りに、建物を素早く変幻自在に組み替えていくわけですから、どういう頭の中身をしているのかと思ってしまいます。しかも限られた素材を最大限活かすのです。持続可能性です。
湯が注がれるところです。かけ湯です。桶や、当時のたわし(画像の桶の中にある、縄をより合わせたもの)も大変参考になります。
休憩所です。史料では二階だったりしますが、撮影の絵作りのため、戸を取り払って奥行きを作るなど工夫しているとか。
建物だけでなく「外の景色」も造られており、大変参考になります。
照明の感じは現代的ですが、照明がなかったらと想像することで、当時どんな風に光が入ってきていたかがわかります。
番台です。各種の札が並んでいて、入場料を払ったか、荷物があるか、効率よく確認できるようになっています。
これも現代的にアレンジされていますが、この構造から推測するに、当時はこうだったんだろう、と具体的に想像させてくれるのが素晴らしい。
実際に見るとスペースの広さや、どんな風に乗り降りするかなど、想像が具体的になって、他の家屋を描写するときの参考になります。
刀かけ。
湯屋で刀を預けるのは、安全のためというより、「鞘や拵えが湯気を吸って刀身が錆びるから」というのが一般的な理由だったようです。
名札など、美術の芸が細かい。
刀の取り間違いは、居酒屋などで酔って靴を間違えるのとは比較にならないトラブルに発展したでしょうから、湯屋も相当気を遣っていたはず。
風呂の値段。六文は当時、蕎麦一杯分くらいの価値だったようです。
崩し字で書けるプロが羨ましい。冲方は字の辞典がないと読めません。いや、あっても読めないときが多いです。
裏手に池が。風流です。
監督の「水のイメージを」という注文を受けて造ったそうです。
言われてすぐさま造ってしまうのがすごい。
こんな風呂屋に通いたいと思わされましたが、すぐに違う建物に組み直されてしまうとのことでした。
セットの裏は機材の山です。
複数のカメラを固定して撮るのではなく、カメラマンがセットの中で動いて撮る方式だそうで、かなり映像として動きがあるものになりそう。
ちなみに、すぐそばで、とあるキャストの方が熱心に台本を読んでおられ、
「真面目な方なんです」
とプロデューサーが仰っていました。
映像センターにて、監督がチェックし、様々に指示を飛ばしています。
監督以外にも、音響など複数のチームがとんでもない数のモニターを見ながら、無線で現場とやり取りをしており、皆様ものすごく忙しいです。
撮影が深夜まで押すと誰もが殺気立ってくるため、「とてもお見せできない」とのこと。ちょっと遠くから見てみたい気もします。
モニターの中身はまだお見せできませんので、ぜひドラマをお楽しみに!
最後に。ジップロックにマスクを一つ一つ入れてスタッフに配るなど、防疫に余念がありません。
かつらをつけていても装着できるフェイスシールドを用意したり、こうした、現場の裏側での努力にも、頭が下がります。
さて。
執筆時は、絵を見るため、図書館、博物館、美術館に通うしかなかった身からすると、大変すばらしい学びの場でございました。
今まさに撮影に臨んでおられる方々に敬意を表しますとともに、放映を心から楽しみにしたいと思います。
『剣樹抄』が出来るまで 地図編
ドラマ化を記念しまして、ここで少々、小説における執筆の過程もご紹介。
下の画像は、江戸絵地図。
江戸はかなりの頻度で大火に見舞われ、たびたび町割りが変わり、邸や寺社も移転するため、様々な時期の地図から、当時の位置などを推測することになります。
何種類かありますが、いずれも明暦から元禄の頃辺り(1650年代~1700年代)までの絵地図。
地図の上で光っているのが、建物探しの強い味方、半球レンズです。
これがないと、地図調査の辛さが桁違いになります。
上の画像が半球レンズ。底が平らな水晶玉みたいな感じ。
地図の上に乗せて拡大し、きっとこの辺りにあるだろう、と目星をつけ、邸などをひたすら探します。
牢屋敷や、奉行所などは割とすぐに見つけられますが、旗本の邸などはなかなか特定できません。
執筆期間内に見つからないときは仕方ないので描写はせずに済ませ、次の執筆のときに探し続けます。
『剣樹抄』に登場する「放火にあった石川・播磨守(いしかわ・はりまのかみ)の邸」などは、特定するのに、一年くらいかかりました。
地図上で見つけたときは「ウオッシャア!」と声を上げたものです。
余談ですが。先日、東洋文庫さんが、所蔵の江戸地図を大公開していたので、速攻で行って参りました。
結論からいえば、展示だけで、写しが買えなかったのは、残念至極。
それでもだいぶ参考と刺激になりました。
上の画像は、寛文期の、精密な測量地図です。
1660~1670年代の江戸の構造がよくわかり、これ欲しいな~と思いながら羨ましく眺めていました。
残念なことに、五枚のうち一枚しか展示されていませんでした。
全部をつなぎ合わせると、とんでもない大きさになります。
こちらは、冲方も写しを持っている元禄期の地図。
有力大名の屋敷ごとに異なる槍(の鞘)の絵を入れているところが面白いのですが、正直、現代人の感覚では、「槍」そのものを見る機会が少なすぎることもあり、どれがどれか全然覚えられません。
東洋文庫さんに行った足で、江戸東京博物館にも行って参りました。
特設展示のテーマが「ハレの日」。庶民と武家のお祝いの品が盛り沢山。
残念ながら『剣樹抄』で書いている時代よりも、ずっとあとの時代の品が多かったため、すぐにネタにできるものはありませんでしたが、ヒントは大いに頂きました。
こちら、紀伊分家が所有していたとされる甲冑。
頭にカマキリがいて威嚇しております。カマキリ甲冑です。なぜカマキリなのか? 想像が膨らみます。
カマキリといえば「蟷螂の斧」を連想しますが、縁起が良いものとしての面もあったのかもしれません。
金カマキリ甲冑と銀カマキリ甲冑があり、兄と弟に贈られたのかもしれないとか。カマキリ・ブラザーズの物語、いろいろと想像できて楽しいのです。
せっせと史料を集めては整理することを繰り返しているのですが、最近は下の画像にある史料や、時代歴史ものの小説を頼りに執筆。
中でも『江戸10万日 全記録』は大変な力作といってよく、それこそ地図のように複数のできごとを見比べることができる、心強い一冊。
というわけで。
過去から現代へと記録を伝えた無数の人々がいるからこそ、こうした物語を作ることができるのです。史料のバトンに大いに感謝しつつ、自分もまた後世に何ごとかを伝達できるよう、今後も鋭意執筆して参ります。
『剣樹抄』の小説とドラマ、ぜひお楽しみ下さい!
コメント・トーク
さて。
ここからは、クルーメイトのコメントをご紹介。
まずは先日発売になりました『月と日の后』を手に取って下さった方々から!
今日こそ明日から(とんかつ)さんから!
おお、PHP研究所の会議室でせっせと書いたサイン本が、さっそくお届けされており、ひと安心。
ご応募ありがとうございます! そうなんですよね。全日本人がアクセスしやすい場所というのはないので、どうしてもどなたかは不便になります。
通販形式でのサイン本購入からの、イベント動画にアクセス、という流れ、今後スタンダードなものになってほしいなあ、と思います。
新条拓那さんからのコメントです。発売から間もなくのご感想、嬉しい限りです。ありがとうございます。
個人的には、今まで書いてきた人物とは、まったく異なる強靱さを感じました。常に最悪といっていい現実を目の当たりにしながら、理想を投げ出さなかっただけでなく、敵対勢力であるはずの人々の子孫をも育て続けるというのは、本当にすごいことです。
まったくです。朝廷は燃えまくりです。
何年かにいっぺん、国のトップの家と執政の場が火で包まれるなんて、日本くらいじゃないでしょうか。
当時の人々も、放火の可能性がきわめて高いと考えつつ、君子危うきに近寄らずとばかりに、発言を避けていたのではないかと思います。
さて、お次は前回ちょっと書いたタイツネタ。
森人さんからのコメントです!
かつて男性貴族は、美脚だけでなく、美腰・美腹・美肩のため、コルセットを装着し、ハイヒールを履き、肩パッドを入れ、ふんわり膨らむ衣服をまとってましたからね。それらが全て女性の装身具になるとは夢にも思わなかったでしょう。
現代人の男女が今の衣服を着たまま、当時の欧州宮廷にタイムスリップしたら、ハイヒール・タイツ・ショートパンツ・コルセット・肩パッド・かつらのついでに股間になんか飾りものをしている男性貴族から、「変態だ!」と罵倒されるに相違ありません。
おお、てっきりタイツ職人の物語かと。
いや、タイツ職人が描いた物語といえるでしょうか。
何をがんばるのか。恋愛です。つまりオフィス恋愛です。
ひたすら閉じ籠もって執筆し続ける冲方にはまったく縁のない世界であるゆえ、勉強に良いかも(?)。
そういえば。『月と日の后』を書く前、編集長から「ぜひ恋愛ものを」といわれていたのですが、気づけば、亡き夫を慕い続けて70余年の「がんばれ彰子ちゃん」を書いておりました。
さて、こちらは薔薇肉舶載さんのコメント!
シザースというどんでん返しが至るところに仕込めるTRPG。
プレイヤーの予測を裏切るには良いシステムかも? プレイヤー自身も「自覚していない」設定で、突然、シザース宣告を受けるのです。
プレイヤーからすれば「マジか!」となること請け合い。ぜひ様々なTRPGに導入して欲しいですね。
プレイする方も、めちゃくちゃ沢山のルールと知識を詰め込む必要に駆られることでしょうが、気づけば(アメリカの)法知識が身についてたりして。
そういえば、マルドゥックで「脱出ゲーム」や「マーダー・ミステリー」みたいなのを書いてみようか、なんて話がありつつも、どう考えてもシナリオ作りが大変すぎるため、到底余裕がありませんでした。
といいつつ、いつかそのうちやってみたいものです。
こちらはnormal3さんからのコメント!およびゲーム紹介!ありがとうございます。
将棋Ⅱ、駒の動きがわからなさすぎです(笑)、そして王がどの駒かわからないというのがツボでした。これ、ルールをややこしくした神経衰弱です。
こういうゲーム、作ってみたいですね!
小説Ⅱは、過去の実験や、現代アート的発想をさらに超えていくとなると、もはや読み物ですらなくなりそう。
なんだろう。何かに「小説」というタイトルをつけて展示するとか。
うーむ、あれこれ考えると楽しくなってしまいます。
こちら、再び森人さんからのコメント!
あっという間に、さらに一週間経ってしまいました。最近どうも、地球の自転の速さが増している気がしてなりません。
「戦いへ備えよ」は、ラテン語の格言で「パラ・ベラム」というやつですね。
そのうち何かのタイトルに使いたいと思っていたら『ジョン・ウィック』で使われてしまいました。
第三次は、今やると執筆が大惨事な大戦になってしまいそうなので、しばしお待ちを。
あるいはその前に、もう一度、「何をしましょうか」というアンケートを取ってもいいかもしれません。
これは……よくぞここまでカオスにできたもの。
クルーメイトに動物もいるのは、姿を消すキャラクターを二人にして拮抗させるわけですな。万里眼とはちょうど逆の対策が必要になります。
最初から死んでたり、名もなき表紙の子だったり、果たして冲方は、誰が誰だかわかるように書けるのでしょうか。
もうしばらくして落ち着いたら、ぜひまた皆様と楽しく遊べる企画を立てて実行したいですね!
ぜひ「 #日曜日のクルーメイト 」のハッシュタグをつけて、感想やリクエスト、思いついたことや飯テロなど、コメントをツイートして下さい!
あとがき
さて。
おかげさまで、今回でなんと30回目!
継続は力なりといいますが、その力を与えてくれるクルーメイトに感謝を!
ではでは、本日も、良い日曜日をお送り下さい!
冲方丁でした。