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「黙認する」信頼関係の話
「部活」と聞いて一番印象に残っているのは、中学時代の「演劇部」のことだ。
演劇部の同期たちのことや、色々あって脚本を書くことになり、「舞台監督」という立場になって地元の広報誌の取材を個人名で受けることになったこととか、色々エピソードには事欠かない経験だったのだが、ここで書きたいのは入部の経緯である。
実は私は、演劇部の前に別の部活に入っていたのだが、そこから逃げて演劇部にやってきたのだ。
「そいつ」に目をつけられた~思春期のよくある話
当初はそんなことはなかったはずだ。多分平和だった。
ただ、「そいつ」のお気に入りの先輩と私が仲良くなりすぎた。それがいけなかった。
「そいつ」はそれに気づいた瞬間、わかりやすく私を排斥し始めたからだ。
「そいつ」のニキビだらけの、バランスが悪い顔は今でも覚えている。筋肉が多すぎる太ももをミニスカートで露出させた姿が悪い意味で印象的だった。
そして、「先輩への礼儀」を振りかざす以外に能がなく、絶望的に頭も悪い。そして美術部なのに救えないくらい絵が下手。本当にどうしようもない女だった。
とはいえ、「そいつ」は2歳年上の「先輩」でもある。そんな状況下で上手に反抗する術を当時の私は持たなかった。
「これどうしようかなー、まじめんどくせぇな」と思いはじめた頃、図書委員の活動時間に、担当教員であった演劇部の顧問に「ウチ来ない?」と誘われたのだった。
もともと演劇は嫌いではない。小学校のころは一生懸命舞台に取り組んでいたくらいだ。断る理由などないだろう。渡りに船と転部することになった。
そして、全力の逃走が始まる
実はとても厄介なことに、美術部の先輩方も図書委員であったのだ。
また、中学時代の女子特有の「みんないっしょ」精神により、私の図書委員当番は彼女たちと一緒であった。これが何を意味するか分かるだろうか?
そう、当番中は「そいつ」と同じ空間に居ないといけないのである。私のことが大嫌いで、排斥したくてしょうがない、幼稚な人類と休み時間中、一緒の空間にいたら何が起きるかは自明だろう。
それを察知した私は、図書委員の当番の仕事をそれ以降完全にブッチした。任期が終わるまで完璧にブッチした。
ただし、図書委員会には出席したし、当然、演劇部の活動は放課後・休日もきっちり参加した。そして、顧問は今の今まで、私に対して「図書委員の当番をサボり続けた」ことを決して責めない。
たぶんあれは、高度な信頼関係の上に立つ対応だったのだ
当時は「いつ怒られるんだろう、バレたらどうしよう」と密かに怯えていた。
顧問は怒った姿に著しい迫力がある女性だった。そして、国語を教え、司書資格を持つ彼女の話す言葉は圧倒的な説得力があった。だから当時は、とても怖かった。いつ失望されるんだろうと思っていた。
でも今ならわかる。彼女は「そんな事情もすべて分かったうえ」で私の行為を完璧に黙認したのだ。私が悪意を持って逃走する人間じゃないことを知ったうえで「サボり」を黙認したのだ。彼女はそういう人だ。
そして、「わかったうえで黙認」することは、完璧に実行するのが一番難しい。双方の信頼関係がないと絶対に成立しないことだからだ。
きっと私は幸運だった。そういう大人が近くにいたから、なんとか今も現世に居られるのだ。
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