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【逆噴射ピックアップ】自作ライナーノーツ&前半戦のお気に入り22作品[10.8-10.20]

よく来たな。

今年は「もはや逆噴射小説大賞に参加する動機は尽きた。すでに弾丸を撃つ習慣を身に着けるという目的は達し、10月以外でも常に書き続けている状態にある。また新たなステージに向かうプロ志向のインクスリンガーも多く、不純な動機おもしろそうで参加するのも、企画の純粋性を損ねて、他の参加者に悪影響を与えるのではないか。だから、参加しないほうが良いかもしれない」と思っていたのに、結局、今年も三作品で参加したお望月さんだよ。

今年も、お気に入りの作品を紹介したり、自作の紹介をやっていこうと思います。後半戦[10.21-10.30]は、会期終了後にピックアップしたよ。 参戦作品は、このへんから探してみてね。

自作ライナーノーツ

『垂乳根(タラ・チネ)』

下書き時点の仮題は「決闘、ドン・キホーテ戸塚原宿店」。
益田家のモチノキ」という実録事件があまりにも面白く、フィクションとして再構成させることができないかという試みから生まれた作品。

モチノキ事件とは、箱根駅伝の戸塚中継所付近にある指定文化財が、所有権の移動によって伐採され消失してしまった事件。最終的に、モチノキがクローン化されて復活するというバイオテクノロジー部門的な顛末があり、これは、もっと広く知られてもよいのではないかという動機から執筆になりました。

現地取材をしたうえで、古木を巡る争いへのアクセントとして、ドン・キホーテ、崎陽軒、ワークマンが集中する一帯に舞台を移動。展開を予想できない結末を800文字に詰め込んだ形になります。

今後、箱根駅伝を応援するときに、戸塚中継所を見たら「この辺にあった木が切られてクローン復活したんだよな」みたいなノイズが読者の皆様の脳裏に走るようになれば、良いなあと思います。

本タイトルは難産で、投稿数分前までいじっていました。
最終的に、暴力邦画の雰囲気を流し込めたので、結果OKな気がします。

『杉田君にはサスティナビリティが足りない』

下書き時点の仮題は「杉田君→竹田君」。
近年、かつての「南無妙法蓮華経」と同じくらい「サステナブル」というお題目が唱えられています。どんなものでも、サステナブルにこじつけていかなければ、現代社会では生きていけないということは皆様もご存じのとおりです。この辺をうまくいじれないかなあと温めていたアイデアと、「人類史的に戦争の後は木材が枯渇する」「江戸時代には各藩が計画植林していた」「現代病の花粉症の原因は戦後のスギ植林」というデータと、「竹に対する過信」を組み合わせた作品です。

過去への干渉により、現在が一瞬にして置き換わるというSF的ギミックは小気味よく、授業で聞いた話を、すぐ真に受ける杉田君と、周囲の冷めた反応はうまく描けたのではないかと思います。(織部ちゃんもかわいい)

なお、『片手間(ポケット・タイム・ポータル)』は、私の作品にいつも出てくるガジェットなので、今年も犬養君に登場してもらいました。(犬養一族:江戸時代~現代にかけて時空を超えて暗躍する架空の一族)

題名は、かなり気が利いたものがつけられたと思います。
初稿では、ラストにもう一行、竹田君が出現するところまで描いていましたが、投稿時はヌケ感を優先して完全にオチた部分で止めました。

『一寸の虫』

下書き時点の仮題は「I SEEK YOU」。
某オンラインゲーム実録犯罪モノです。
「老盗賊がバグ利用して脱獄する話」と「貴公子が悪役ギルドに仮入隊したら楽しくて抜け出せなくなる話」のどちらにしようかと悩んだ末に、文脈がシンプルな前者に決まりました。

実際に利用可能(だった)実際のテクニックを描きながら、小気味よい逃亡劇を描くことを目的にしています。モデルになっているのは、UOの「説教部屋」こと無法者の島バッカニアーズ・デンの牢獄。

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(画像引用元:UO焼きそば爆弾亭)

作中で使用するバグ技は、理屈が説明できる「リアル系」に偏らせています。近年顕著な、文脈を持たないバグやコードの呼び出しはハッキングとしてNGとしています。(盗人三箇条:これは仕様確認だから仕方がない、無法なハッキングはしない、バグの修正は歓迎する)

例えば、ラストの手鎖外しは「アイテム所持数の上限までインベントリを埋めると新規アイテムが地面に落ちる」という仕様を利用しており、手鎖をドラッグした状態でヤシの木を揺らしてインベントリにヤシの実が入った後に手鎖を装備欄に戻すと、アイテム上限制限によって、最後に触れていた手鎖が足元に落ちるという、実在のテクニックです。

追跡者(隠匿されたものを見破る)と霊媒師(幽霊が見えて会話もできる)は、人物と幽霊の追跡に特化した人材です。この世界では、死亡後に幽霊としても活動できるという環境へのメタですね。

さて「IOU(あなたに借りがある)」と連絡をしてきた人物は何者なのでしょうか。ダヤンを脱獄させた理由とは。ちょっと気になりますね。

最終タイトルは、盗賊モノなので鬼平犯科帳からの引用です。
『一寸の虫(バグ)』(にも五分の魂)というダブルミーニングは、気が利いていると思います。

逆噴射小説大賞2021 前半戦[10.8-10.20]ピックアップ

ここからは前半戦で気になった作品をピックアップしていきます。ピックアップされていないものも面白いので、全部読め。わかったか。

1. 竜をサウナに入れるには

すべての価値観の上に「サウナの周知」が存在していると噂されるサウナライターが本領発揮した一品。ちょっとサウナに通いなれているからと言って、ドラゴンサウナ担当官に任命されたっぽい人物や、聞きかじったことをいうヤツや、様々な要素が含まれていて楽しい。シン・ゴジラ的な楽しさがある。

2. ライブ絵師JIN

ありがちな「異世界実況」という展開に、ライブペインティングを組み合わせた、組み合わせの妙味が活きている作品。凄まじいイラストスキルを持つ作者が描く、ヘタウマなタイトル画像も合わせてほほえましい作品。大好き。

3. 彼方の炎が導べ也

「彼方とは一体」と思いを巡らせる前にどんどん事態が展開していく。なんとなく状況がつかめたところで、物語は終わってしまう。ああ、もっと欲しい。文章密度とか転々と事態が転がっていく速度が良い感じで、いわゆる馬が合うというヤツかもしれない。

4. 金のアルティメットメカ鵞鳥、或いは絶対に笑わないお姫様のハッピーエンド

アホとバカパクに100%割り振っているように見えて、実はおとぎ話や歴史のバックボーンがビシッと通っているという本格派の作品。とはいえ、内容は完全にカラッとしたバカバカしさに満ちており満足度が高い。

5. 4:00 AM

毎年、何作か登場する「ヒーローと怪人」シリーズですが、本作は登場するキーワードからヒーローらしさが見え隠れしており、緊張感をギュッと引き締めている。

6. 雪夜に薔薇の散る如く

純白に深紅の血の花が咲くビジュアルイメージが強く、ノワールが高く香る。800文字に滅法ドラマが詰め込まれており、あと1行か2行で終わってしまいそうな儚さを感じる。

7. Sewcidal Boyz

作者本人も造詣が深い、ぬいぐるみ業界の暗部を描いた作品。パワーワード「言わされ罪」「ばっした?」、キャッチーなぬいぐるみのビジュアル、ポイントオブノーリターンを過ぎた先にある葛藤のある展開と、満ち満ちている。

8. 遵法復讐者

ロボット化され一命を取り留めたが、生身の部分は復讐を求めている。法を犯すことはできないので遵法で復讐を果たそうぜ、という二律背反が物語の推進力を後押ししている。

9. 薄火点

「体温で発火する雪」という舞台装置が、深海モノのような緊迫感を生じさせている。脱衣という行為は美しく、せつない。人類には『高熱隧道』のような極限環境発破作業的なものからしか得られない栄養があることを教えてくれる。

10. 桜畑門内は変

かなり発想がどうかしているんだけど、作中での設定は安定しておりケツに火が点いた人々が雪だるま式トラブルに追われて走り回るというスラップスティックな謎の魅力がある。こち亀の両津が逃げるオチのようでもある。

11. 当世水境端姫噺

定番のお仕事モノ。ただし題材は水神生贄業務のダブルブッキングである。実はすでにもう一人、生贄役が派遣されてきている。どこで何を間違えたのか。龍神様は受け入れてくれるのか。

12. 俳優アントニオ・マルティネスについての記憶

城戸さんが得意とするサスペンスにあふれた板挟みものである。殺し屋、ガードマン、スタントマン。上手に成りすました三つの顔が八方破れに大ピンチの圧がかかり爆発寸前だ。

13. 彼岸列車

『白髪急行』のマルチプレイ版といった趣き。ひとりひとりに事情があり、少しずつ引かれていく。ああ怖い、最後まで乗っていられるのだろうか。

14. 2.7gの弾丸は誰も殺さない

導入のギミックやハッタリが非常にうまく、熟練した腕前を感じる。先史時代からの殺しの道具を2.7gの球体に置き換え、テーブルで殺しあう人々を描き、さらにその上を行こうとする。すごいぞ!

15. 歪曲ガストロノミー

精神科医(なのかなあ?)が、訳アリのガストロノミー(食哲学)に挑むという筋書き。優れた舞台設定と痒い所に手が届くヒントによって、この先どうなっていくのかを考えてしまう。楽しい。

16. 渾然誘拐狂騒曲

探偵ものは依頼人がクソなほど面白い。なぜなら、この作品のように、立場が逆転したときにスカッとするからだ。

17.INVOKE!

ルールは簡単「疑うな。信じて、唱えろ。」疑いなく信じることが現実化される世界では、揺らがぬ信念こそが武器となる。だが、己を信じきれない何かが主人公を揺るがしている。恐ろしい。

18. Finder

ファインダー覗けば在りし日を切り取った世界があるのが切なすぎる。魂がセピア色にやすりがけされる姿は辛く、すぐ目の前に救いの彼岸があるのも優しいようで、もっとつらい。

19. フォーゴ、アグア、オウロ、サントス

炎に追われる特殊な環境。それがただの小さな入り江として在るのは、雨の間だけだ。専門職の見切りとプロの根性がぶつかり合い、人類には『高熱隧道』のような極限環境発破作業的なものからしか得られない栄養があることを教えてくれる。

20. チンヂラ対デスヤマビスカーチャ

また今年もチンチラの季節がやってきた。イメージから生み出される、チンチラのゴジラ=チンヂラ。それに対抗するのはヤマビス、なに? またげっ歯類? (げっ歯類でした)

21. 侵入主義者はかく定めき

非常に露悪的な内容だけど、語り口が上手く読者は「自分もそうだ」と乗せられてしまう。口車に乗せられて、ついついうっかり、悪事を働いてしまいそうになる。甘い誘惑だ。

22.銀の網

冒頭の一文「利三は警察に通報しないまま、残りの弁当を配り終えた。」が非常に強い。警察に通報しないグレーな男かと思いきや、隅々まで行き渡ったキャラクター描写とコーヒーによる復活で印象を上書きし、通報しなかった理由と次の展開までを800文字に納めている。なんという筆力とイマジネーション。これは優勝です。

説教部屋

完璧なプロット、完璧な史実の空隙、完璧な文章力とペース配分で、完全にアウトです。一発コブラで退場です。説教部屋行き!(面白かったです)

(大塩平八郎が顔を変えて生存している説については、お母さんに聞いてみよう!)

未来へ

今回ピックアップできなかった作品も、それぞれ個性的で楽しいよ。ぜひ読んで、触って、参加して。

それではまた次回。会期終了後にお会いしましょう。



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