逆噴射小説大賞2022 ライナーノーツ
よく来たな。今年の逆噴射小説大賞には参加できないのではないかと思っていたけど、なんとか上限の2本を投稿することができた。何事もやってみるものだ。
今日は投稿した自作の解説をしようと思う。逆噴射小説大賞2022 で気になった作品をピックアップ紹介しようと思ったが、文字数が極端に膨れたので、それは別途掲載することにする。掲載できるといいな。
自作ライナーノーツ『IN WHITCH』
まったくネタが浮かばず、うんうんとうなりながらスマホに断片的なメモを打ち込んでいた時の事である。(特捜部Qのオープニング、一発で経歴を物語る顔面の傷痕のショットは良かったな。こわもてのおっさんが、コーヒーを慣れない手つきでコーヒーを淹れたりしたらカワイイだよな。この場合、奥さんは他界していて遺品を使っていたり、遺言に従っていたりのおまけの人生の状態であればよいな)ということでコーヒーを淹れる描写をゴーストライター(無意識に描写や動作をタイピングする動作)していたところ、コーヒーを淹れ終わったところで妻が寝室から出てきてしまった。私の執筆体制にはこのような降霊書記的なところがある。堅物な強面男と寝ぐせの強い妻。良い対比じゃない、と考えたところで妻側が弱いので寝ぐせをもっと強烈なものにしようと思いついた。最初は「ブリッジをしながら胸の上に首を乗せて寝室から這い出して来るレベルの寝違え」を描いていたが怖くなったので首を90度傾ける程度の寝ぐせ(寝ぐせか?)にしてもらった。すると、そういえば「こういう描画違いって最近多いよな」ということに気づき、AI描画の世界でのありふれた夫婦生活を舞台にしてみようということで、物語の舞台のスタートラインにたどり着いたという次第だ。なお、この舞台の床下にはコーヒーを淹れる強面男がセメント漬けにされて眠っています。彼は二度と出てこないが物語の人柱になったのだ。物語の要素としては、超AIに対する3D物質化のインターフェースが「AI作画への命令語風」になった世界をベースにしている。すると、自然に「順列都市」で描かれた計算資源の消費生活が世界観を支える柱となり、中でも貧富の差や資源のもてあましが描かれた「ピー」のエピソードがひとつの元ネタのようなものになっている。自分らしさを加えた部位は、いわゆるテレホーダイ的な設定の部分だろう。どこかの未来世界、限られた計算資源を湯水のように使う富裕層と計算資源の利用がオフピーク時間に限られる貧困層では世界感に差が生まれてしまう。計算資源を浪費しないように「アセット」を活用しようというアイデアもここで生まれた。アセットとは、計算資源を消費しない「ありもの」を生活に出現させるというアイデアで、例えば、計算資源でヤマザキパンの食パンを25枚呼び出すことで「白いフレンチディッシュ」が1枚もらえる。また、貧富の差は食卓描写がわかりやすいだろう。「ダブルソフトとロイヤルブレットの違いに計算資源を割くのは富裕層だけ」なのである。貧困層は漠然とした「トースト」を食う。皿を指定しないと食文化が死ぬので、アセットのさらには乗せる。そういったチャーミングな設定は本編の外に追いやられハードオフ概念買取センターに運ばれていった。本編では一部に名残が残されているに過ぎない。物語の行方であるが、夫は、計算資源を浪費できない時間帯に妻を追うことになる。計算資源を用いた瞬間移動ができないので、公共交通機関を利用することになるんだね。そして、妻が勤務先に到着していないことに気が付く。彼女はどこに消えたのか。ここまでのあらすじを準備していたものの、描写できたのは妻がかわいいという部分だけである。800文字の計算資源を妻に食われた。それもまたにメタ的に考えれば面映ゆく、この物語のいびつさや不器用さに対して愛着が湧こうというものである。結果的に物語は全然進行していません。反省します。なお、題名の意味『IN WHITCH』とは、作中で登場する超AI『WITCH』と似ているので混同させちゃえという狙いもあるが、実際には「日本語訳をすると消えてしまうことば」を選択したものである。日本語には「IN WHITCH」に該当する言葉や概念が存在しないのだ。しかし、それは妻を描画する命令文の中に確実に存在していた。以下は構想中に描かれた(上記の展開を加味した)サムネイルの候補(AI作画)である。かなり怖い、と思う。
自作ライナーノーツ『天使と眼棺(ひつぎ)』
いくつかの実体験をベースに何作かの映画作品を混ぜ合わせたものがベースになっている。冒頭のメガネとスマホの豆知識は実際に役に立つので是非やってみてください。これを見て実際に試してみた人が一人でもいれば私の勝ちだ。幼児によるメガネ損壊は自然災害に位置づけられるものだ。どれだけ注意をしても悪魔は笑顔でメガネを折る。幼児とはメガネを折らずにいられないものなのだ。物語のプロットは、子供に眼鏡を破壊されて行動がままならなくなった凄腕のスパイが右往左往するというものだ。目を覚ますとメガネがなく背中に硬いものがある、という恐怖を直接的に拳銃に置き換えたことで裸眼アクションが差し込まれることになった。この狙ってきた覆面は何者だろう狙われた主人公は何者だろう。そういう考えは後回しにしてアクション先行で描写を進める。実際に裸眼スマホでアクションすると面白ことに気が付く。スマホと拳銃を同時に持つと自然とジョインウィック持ちになるし、常に目をすがめる状態になるということが分かった。そしてなにより、常時スマホのカメラを起動しているのでスマホカメラFPS視点で進行させることができるのである。つまり、合法的に子連れ長身イケメンスパイが常に目をすがめる状態になるということでビジネス機会が2倍、ジョンウィック持ちで4倍、ハードコアヘンリーであることを考慮すると面白さが256倍になるということだ。というわけでコンセプトは「子連れアジョシハードコア」ということになった。撮影監督に話を持ち込むと「・・・わっかりましたぁ」ということだったの千葉県の高層団地の一室を借りて撮影に挑むことになった。かくして完全にアクションや配役先行になった本作は走り出した。「間」を意識した格闘シーンはうまく撮影できたが、背景で破壊されるのが「仏間に飾られた妻の写真」であることにクレームがついた。韓国の集合住宅には仏間はありません。なるほど、仏間や仏壇に相当するものは集合墓地的なところ(パラサイトに出てきたね)に納めるものらしい。とりあえず保留しておく。続いて室内をクリアリングする場面でもケチが付いた。やはり韓国の集合住宅には和室はないということである。でも、撮影地は千葉県の集合住宅なので不自然さが出てしまうと試案をしていたところ、応援に来てくれた顔なじみのアシスタントがこのような話をしてくれた。「ウチの地元の話なんスけどォ」彼女が言うことには、彼女の地元(G県X市)は外国人住民の比率が高く、それに加えて新興宗教団体も多く入り込んでくる土地なのだそうだ。地域の労働力として移住してきた数世代の外国人、ギャング化した混血の若者達、それを取り込む異国の宗教団体、これに加えて日本の水源を抑えようとする海外資本や海外の公安による内偵がされており日本人の肩身が狭いのだそうだ。「ここだけの話なんスけど、外国人参政権を狙っているらしいンス」近い将来、日本へ導入されるであろう外国人参政権、これには他国の例を見ても最低でも10年以上の居住実績が必要になるであろう。これが導入されたときに自治体を牛耳ることができれば、やがて国会を牛耳ることに繋がる。それを見越して、摘発の緩い宗教団体関係者として早期に移住を行い、人知れず地域に浸透していく。そのような陰謀が行われているのだという。私は「なんだその陰謀論」と一笑に付したが、彼女のまなざしは決して笑っていなかった。とはいえ、プロットの周辺設定の整理はついた。主人公は某国諜報局の捜査員。大小の宗教団体が林立する地方で彼らの行動に目を光らせている。周囲に怪しまれないように子連れで潜伏しているシングルファザーだ。彼は優秀だが少し間が抜けている。極端な近視でメガネを失うとほとんど何もできない弱点がある。娘は物心のつかない2歳児。少しは物事が分かってきて父親のメガネを破壊したことに若干の恐れを覚えている。そのため、覆面が部屋に侵入した時点ではベランダへ逃亡しており鉢合わせることがなかった。覆面は宗教団体いずれかの信徒である。警察官であるという設定も検討したが現時点で描写をしない方が良いだろう。覆面を倒した主人公は娘を連れてベランダへ飛び出す。この時はエルゴベビーを装着する。これはスポンサーの意向でもあるし極まったベビーグッズはミリタリーウェアと区別がつかないことはご存じのとおりである。(なお脱出時に部屋を爆破する絵コンテができていたが原状復帰費用と相談をして爆破はなくなった)
色々とコンセプトを挙げたが、本筋のストーリーとして直接的に参考にした作品は2本に限られる。1つは、一時的に視力を失った捜査官が無茶な運転をしたりする『STUBER』、そしてもう一つは幼少期に消えた妹が完全な姿で帰ってきたことに困惑する兄を描いた『食われる家族』である。これらのモチーフから団地内の和室にある改装が施された。仏壇は祭壇に、和室は祈りの間に。これが何を意味しているか私にもわからない。なお、文字数の関係で本作から最後に省かれた台詞は、娘ソユンの「パパ」という言葉である。
未来へ
長々と語ってしまったが、逆噴射小説大賞2022の作品応募期間が終了したら、今年の好きな作品をピックアップしていこうと思う。
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