馬の毛の上で眠る王様と祈りの椅子prie-dieu
今日は教会で祈る人がいる国ならではの家具の話。
教会へ行くと、長椅子に座ってミサを聞きますが、
前の長椅子の背の部分に、聖書を置いたり膝まづいてお祈りするときに肘を支える幅の狭いテーブルのような台が付いています。
そして前の長椅子の脚の部分から膝をつくための台も付いています。
この肘を置く場所と膝をつく場所をおひとり様用にまとめた椅子がReclinatorio、
フランス語でPrie-dieuと呼ばれるお祈り用の椅子です。
自宅でお祈りするために持っていたようですが
ある程度身分の高い人々が教会で、長椅子ではなく
それぞれ一族のためのお祈り椅子を使っていたこともあるそうです。
保育園に並ぶベビーカーのように、鍵をつけて鎖でつないで教会に保管していたそうで
そのため、他の人の椅子と見分けるために家族や個人のイニシャルが刻まれたり刺繍されたりしていました。
以前、羽織をうちの工房で買ってくれたバルセロナ在住フランス人のお客様が
彼女の家に伝わるこのお祈り椅子を修復&リノベーションしたいということで連絡をくれました。
彼女の椅子は天使の顔の木彫りが入ったウォールナットのとても凝ったデザインの椅子。
そして肘置きの部分にしっかり刺繍でイニシャルが入った格式高いお祈り椅子です。
工房の在庫にお祈り椅子が一つありますが、こちらは十字架が木彫りされたとてもシンプルな椅子で
お祈り椅子と言ってもデザイン、素材の違いでこんなに幅があるものなんですね。
さて、座面のクオリティはしっかりしているので布の張り替えのみということになりましたが
ぜひ、日本のテキスタイルを張りたいということで、
お選びいただいたのが孔雀の織りの帯。
孔雀はサソリや毒虫をも食べてしまうらしく、
そこから魔除けの意味を持つようになり吉祥模様の一つとして使用されます。
お祈り椅子に魔除の孔雀なんて鬼に金棒的にパワフル。笑
木彫りの部分は今風に、明るいトーンに修正するということで
光栄な修復作業のスタートです。
古い刺繍の布を剥がすとしっかり下地が張られていて丁寧な昔のお仕事が伺えます。
古い釘を一本一本抜いて、下地を剥がすと現れたのはなんと馬毛。
通常、クッションの部分に使われていたのはクリンと呼ばれる植物繊維で
ぱっと見、乾いた草の塊です。
馬の毛というのは高級なクリンで、英国王室はこの馬の毛100%で作られたベッドマットでお眠りになっているそうです。
テレビでそんなベッドマットのことを見たことがあったけれど
まさかこんな形でお目にかかるとは。
凝った木彫りはいつもながら手がかかりますが
今回は素材がウォールナットで扱いやすいので作業が楽しい。
布張り部分は黒の絹の帯地を継ぎ足して
デリケートな素材なのでなるべくやり直しの内容に慎重に。
そっちに一生懸命になりすぎて一本グサっと指にスタッド刺しましたが、無事完了。
数日後の納品は大成功。
お客様、大満足で家を出た直後にInstagramに大喜びの投稿をいただきました。
こんなに絵に描いたような理想のお客様に巡り会えるなんてほんと、ありがたいです。
お祈り椅子としてではなくて、装飾&玄関のサポートシートとして使うそうです。
大切にされて幸せなお祈り椅子のお話でした。