ベテランシリーズ:パート2時計を直したい木工師曰く

前回のペラに続いてベテランシリーズ続きます。

うちの工房がある建物はマンションで、その一階がうちの店舗なんですが
このマンションが建つ前、この店舗の場所は大工さんだったんです。

その大工屋さんの親方が、娘の同級生のお母さんのおじいちゃん。
その親方のお父さん(ひいおじいちゃん)は大工より凝った仕事をするエバニスタという家具専門の大工さんだったそうです。家具の装飾的な彫り物やカブリオレレッグのような美しい曲線を生み出すのがこのエバニスタと呼ばれる職人さんです。
なんだか偶然のようで縁があるようで素敵なお話です。

ある日、工房に1人のおじいちゃんが訪ねてきて、
「古い置き時計が壊れてるんだが、時計も直せるかい?」と。
時計修理が趣味の知り合いを紹介したんですが、何やら作業場が気になるようで、わたしの大工机をマジマジと見つめて
「俺は大工だったんや。この場所で働いてたんや。」
と感極まったおじいちゃん。
まだ10代だった頃ここで働き始めて十数年後独立したそうです。
彼の当時の親方のひ孫と、わたしの娘が同級生という話をしたらすっかり打ち解けて、いろいろとプロの技を教えてくれました。

作業場にあった家具のカーブを撫でて、得意そうに
「このカーブをなんぞチョチョイのちょいや!そのあとサンディングして、、あ、ガラスの破片、どうやって使うか知ってるか?」
前回の話の先生・ペラに教えてもらってたおかげで、エバニスタはガラスの破片を下地準備や剥離に使うことを知っていたわたしに
おじいちゃんはますます喋りたいモード。

着色の仕方や、仕上げの話、道具の話で盛り上がり、時計のことなどすっかり忘れてご機嫌で去って行きました。


その数週間後。
ジャージにベレー帽という不思議なルックでまた登場したおじいちゃんは
「俺を覚えてるかい?」とやってきました。
「実は、先週、家に残ってた塗料粉とシェラックとガラスの破片と古い引き出しの取っ手を持ってきたんだよ。でも(工房が)お休みだったからポストに入れたんだけど、どうやらお隣のポストと間違えちゃったみたいなんだよ」
ヒョエ〜!!!
「まったく、俺はアホや〜・・・どうして間違ったんだか・・・。シャッター閉まってたからな、勘違いしてもうて・・・・。」
凹むおじいちゃんを励まし、
慌ててお隣さんに聞いてみましたら
「おたくのポストに入れておいたよ」
・・・・・・・・。入ってないし。っていうかうちのポストにそんなかさばるもの入らんし・・・。

結論としては、紛失です。

ショーーーーーーーーック!!!
おじいちゃんと二人でショーーーーーーーーック!!!


ガラスの破片もシェラックも塗料粉も修復屋にとっては金に勝る宝物ですが
一般的な視点で見るとゴミにしか見えないものなので、
訳のわからないゴミのようなものをポストに入れられた隣人が捨ててしまったとしても責められません。通りがかりの人が興味本位で持っていってしまったとしてもポストの上じゃあ無防備でしかないので仕方ありません。
が、
せっかくの温かい温かいおじいちゃんの行為が消えてしまったことが切なすぎる。
貴重なガラス破片とシェラックと塗料粉が消えてしまったことが切なすぎる。

でも気持ちだけはありがたく、とてもありがたく
心を開きまくって受け止めて
目に見えない励ましとしてありがたく受け取らせていただきます。涙。

そんなこともあるさ〜
じいちゃん、これに懲りず、また遊びに来てね。

せつないベテラン木工師のプレゼントでした。

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