アルメリアへ800km運んだガラスショーケース
また回帰録。
一昨年の夏の話。2021年。
ガラスショーケースはもっと遡って2017年くらいから始まるお話。
ボロボロで、飾りが欠けていたり、
引き出しの鍵がかかったままで開かなかったり、と
工房オープンより3年前、修復活動を再開した当時、なんだかハードルが高そうでなかなか手が出なかったショーケースです。
しかしながらガラスが完璧だったし虫喰いもそんなにひどくない。
マホガニーではないけれどマホガニー風にしてあって木のトーンは赤みが強い。
近年はナチュラルウッドに流行が傾きつつあるけれど、人気のあるのは明るめのパイン材やオーク。
マホガニーはその本来の価値とは裏腹に、人気という意味ではぶっちゃけ避けられナンバーワンの木材です。
そのマホガニーに似せただけの仕上げですから、ナチュラル仕上げでは誰も欲しがってはくれないな、と。
これはペイントでリニューアルした方が絶対いい甦りをする、とみて
どんな雰囲気にも馴染めそうなオフホワイトに近いベージュのベースに
アンティークホワイトで仕上げることにしました。
ガラスケースなので背面に布や装飾紙を貼ったりしてデザイン性と高めることができます。
販売目的なので、ひとまずカラーの合う着物の生地を貼ってみて、
実際に購入されるお客様に背面デザインを決めてもらうスタイルで販売開始。
工房オープン時に看板娘だったガラスケース。
流行のエイジングペイントで、目を引くのでたくさんの人が興味を示していましたが、流石に大物家具なのでお手軽価格ではありません。
なかなか買い手は現れていませんでした。
待つこと一年。
新しい主は突然現れました。
ガラスケースを外から見つけて店内に入り、一通りケースを見て、サイズを測って
「後で奥さん連れて見に来るから」と言って去っていきました。
こういうお客さんいっぱいいるので、またか、と思っていたら
本当にいらっしゃいました!奥様と。
そしてその場で予約金を支払い、ガラスの棚を追加したいとのことでその見積もりも依頼してくれました。
とてもとても上品で人柄のいい人で、名前はマヌエル。
幼少時はドイツで育ったそうで、語学力を生かして今は結構な大企業でお勤めでらっしゃいます。
ご両親が亡くなって相続したスペイン南部・アルメリアにある実家をリフォームしているところだそうで
そのお家の雰囲気に合う家具を探していたそう。
またそのリフォームもかなりこだわっていて
建築当時の床材を再現して作っている工房を探してオーダーしていたり
照明などのディティールも当時と同じものを探しているそうです。
素晴らしいです。
ところで、
アルメリアのお家に、っておっしゃいましたよね。
そうなんです。
納品先はアルメリアなのです。バルセロナから約800km。
ご自分のアウディA6で運ぼうと思っていたけれど、入らないので運送会社にあたろうと思ったけれど
なにせガラスなので扱いが心配だ、と。
「交通費や宿泊費は僕が持つから、ぜひ運んでもらえないかな。」
!!!!!!!!!!
当然、行きますよ、納品ついでに旅ができちゃう!!
アルメリアって全然興味ない土地だけど
そうでもなければ行くこともないだろうし。
大歓迎。
コロナ禍で、夏休みの予定なんて全く立ててなかったので
これで急に張り切って夏のプランを立てることにしました。
結局、ガソリン代、高速代をお支払いいただき
我が家の夏休みは
アルメリア(納品先)
グラナダ(子供たちにアルハンブラ宮殿を見せたい)
コンスエグラ(風車で有名な村)
トレド(スペインの古都・三大カテドラルの一つがあります)
マドリッド(言わずと知れた首都)
クエンカ(18年前にちょっと縁あって近くまで行ったのに見れなかった宙吊りの家が見たい。ラピュタのモデルになった街)
というスペイン南部ツアーとなりました。
マヌエルは大歓迎で、アルメリアの見どころやグルメ情報などたくさん教えてくれました。
楽しすぎる。
が、
ガラスケースの800kmの運搬は生きた心地のしないストレス満開な旅路でした。
クッション材をモリモリに入れて、キャンプのマットでぐるぐるに保護しているものの
車がちょっとした段差や穴を通るたびに
ヒィヒィ言いながらの旅でした。
しかも現地で組み立てる納品なので工具も持っていっての大作業。
無事、納品を完了した時は
「これにてやっとバケーションやぁ!!!」と叫びましたね・・・。
現地で待っていてくれたのはマヌエルの叔父さんで
お庭の葡萄の木や家の中の他の家具も見せてくれました。
古いけれど大切に手入れされてきたのがわかるとても素敵なお家でした。
とても綺麗に収まりました。
食卓はモダンな照明にしたようで垢抜けた雰囲気になっています。
これにて、無事納品完了。
十数年、ボロボロになって眠っていたショーケースの新しい生活がスタートです。
ここからは旅の記録です。
納品後は、マヌエルの言っていた家の裏の丘にある噴水の水を浴びに行って
60年代にハリウッドの西部映画の撮影がされていたという砂漠の真ん中にある映画村のような場所も見て
実際、砂漠なんですよ、アルメリアって。
43度超えてましたね。
スペインは各地、気候も風習も気質もまったく変わるので本当に面白い。
アルメリアはアフリカ大陸への船が出る港町でもあるので
夏休みで国へ帰るモロッコやアルジェリアの人たちで高速道路は溢れていました。
途中から標識もアラブ語になったりします。
中にはフランスやドイツから車で来ている人たちも。
アルメリアの印象はとにかく暑い!
でもバルセロナと違って湿度が低い、乾いた暑さ。
そして何を食べても美味しい!
旅先ではよく市場の近くのレストランへ行きます。
市場の周りにハズレはない!というグルメベテランな友人の教えに従って。
朝ごはんは大通りのカフェバルで、ランチは市場の脇のレストランで。
どちらも大当たり。
グラナダはアルハンブラがメインでしたが
18年ぶりに見た旧市街はとても綺麗に整備されていて驚きました。
素敵なバルやカフェがたくさんあったのに時間がなくて行けなくて残念。
コンスエグラではずっと見たかった、ドンキホーテが立ち向かおうとした風車。
中にも入れて昔の人のエンジニアっぷりに驚愕でした。
風車って風車そのものの向きも変えられるし、羽根(っていうのかな)の向きも変わるし
とにかく中の歯車や仕組みがすごい。
トレドはどう見ても美しいし、マドリッドはこちらも18年ぶりだったけれど
まるで別の街のように綺麗になっていてびっくり。
バルセロナ負けたな、と思いました。
巨人vs阪神のような関係がスペインにもあって、マドリッドvsバルセロナはサッカーだけでなく、近年は特に(苦笑 カタルーニャの独立運動の影響もあり)この2大都市は何かと張り合ってるところがあります。
私はそもそもバルセロナに惚れてスペインへ来ることを決めたくらいですから、ずっとバルセロナの大ファンでしたが
今回の訪問ではマドリッドの美しさに白旗を振らざるを得ない状態でした。
政治の影響がこんな風に街並みにまで現れるとは。
最後に立ち寄ったクエンカは、ある思い出の街。
スペイン留学1年目、
マドリッドから友人と電車でトレドに行くはずが、乗る電車を間違えてなぜか辿り着いてしまった街。
その時は何も知らず、ただ大急ぎでお昼ご飯を食べてマドリッドへ戻るバスに飛び乗っただけの滞在でした。後になって、私の好きなラピュタのモデルになった街だと言うことを知り、惜しいことをしたと後悔したのでした。
コロナ禍で、なんとなく遠出やバケーションを考える気分を忘れかけていたので、こんな機会に恵まれて救われました。
やっぱ旅っていいな。いつもと違う景色を見るって大事だな。
走行距離トータル2800km
たっくさんの乾いた地、砂漠、オリーブ畑を眺めながら。
スペインやっぱ面白いわ。