眠れぬ夜に-8-
第8夜
末期ガンの私は不謹慎にもむしろ浮かれた気分でいた。
これから受ける手術が、恐らくは日本ではじめて、有料の視聴代金を頂くネット放送で、私は発案から主治医探し、クラウドファンディングによる資金と機材の調達、媒体との交渉を沢山の人を巻き込みながら実現したのだ。その高揚感が包んでいるのは確かだった。
しかしいよいよメスが入るというタイミングで、家族の苦笑する顔が浮かんできた。その顔は見たことがなく、みな大人だった。はっと我に帰ったようにどっと感情が押し寄せ、涙になって溢れ出した。
泣いていたら肝心の瞬間が見られない、ここで引き込まれてどうする!と抗ったが無駄だった。
病とは向き合ったが死は無視していたここ数ヵ月の、圧し殺していたものが一気に現じたのかもしれない。
ありふれた災難をありふれたアイデアでクリエイティブに見せかけて人様を巻きこんで、私は何がしたかったのだろう。
そのとき最若年の、と言っても30代の女性が「ほんとパパはかまちょだよねぇ」と優しく微笑みをくれた。
第8夜
了
ノンアルで晩酌のまね事をするようになって久しい。その日の事を手のひらの上に出して見たりクズカゴに入れて見たりもするし、考えても仕方のない事を取り出してきて結局は「仕方ないか」としまい込んだりもする。何も解決しないけれどそれがまたよい。相手がいればたわいもない話で時間を潰し、頃合いで引き上げる。飲んでる時にこれが出来たなら、なんて後悔も案外悪くない。
それでももうちちょっとだけ、と感じた時は小さな物語を読む。小説でもエッセイでも漫画でも。最近は昔書いた自分のテキストを眺めるのも好きだ。私自身、驚くほど忘れていて新鮮である。アル中の利得と言う事にしよう。
暫く、その雑文をここに披露させて頂く事にします。眠れぬ夜の暇つぶしにでもして頂けたら幸甚です。