眠れぬ夜に-11-
第11夜
高校の同期が何人かいるのを見てほっとしたが、私はこれまでの生活をあらためたくてここ、交流会のパーティーにきたはずなのだから、顔見知りを目ざとく見つけた自分にもそれを見てほっとする自分にも苛立ちを覚えた。
気を取り直してまわりを見ていると、親切そうに声をかけてくれる男がよってきて、彼は韓国から来たという。同じ新入りなのに事情通で、これから始まるパーティーで気に入られるように何か芸をしろという。そうだ貰った紬を着るいい機会だったと思ったのだ、と思い出し帯を確かめた。
会場は体育館で、扉はしまっていた。ちょうど退出してきた女がすれ違いざまに私を見たが目に光はなかった。以前の私、いやまだ捨てきれていない私が首をもたげる。愛想笑いを浮かべるだけのなにもしない男だ。この男がいやでここに来たのではなかったか。私は女からドアのとってを奪った。
すでに誰かが芸を披露していたが、私は入るなり両手を広げ、ある歌を指定した。にわかに耳目が集まるなか違うイントロが鳴った。愛想笑いが出かかったがそれを押しとどめ、大きな声で「それではない」と言った。暫くして指定した曲がかかった。
私の訂正が当然のように通る世界。私は驚きにも似た初めて味わう感情のなかで歌を披露した。韓国からきた男は調子良くトランペットを吹いている。簡単な事だがこんなに視界が開けたことがあったろうか。奥に高校の同期がいて口の片方をあげてじっと見ている。彼のところにいこう、私はそう思った。
第11夜
了
ノンアルで晩酌のまね事をするようになって久しい。その日の事を手のひらの上に出して見たりクズカゴに入れて見たりもするし、考えても仕方のない事を取り出してきて結局は「仕方ないか」としまい込んだりもする。何も解決しないけれどそれがまたよい。相手がいればたわいもない話で時間を潰し、頃合いで引き上げる。飲んでる時にこれが出来たなら、なんて後悔も案外悪くない。
それでももうちちょっとだけ、と感じた時は小さな物語を読む。小説でもエッセイでも漫画でも。最近は昔書いた自分のテキストを眺めるのも好きだ。私自身、驚くほど忘れていて新鮮である。アル中の利得と言う事にしよう。
暫く、その雑文をここに披露させて頂く事にします。眠れぬ夜の暇つぶしにでもして頂けたら幸甚です。