透明
「ねぇ、まだ班決まってないよね?」
グループワークの講義だなんて知らなかった。
入学から2年間、自分は一人で大学に行き、
高校の時の友達と会った時だけ話す生活だった。
友達と会えなかった日は一言も話さず家に帰った。
大学では簡単に友達ができる人とできない人がいる。
僕は後者だった。
勇気を出して話しかけた子は、
いつのまにか他の人たちと仲良く話していた。
僕はいつのまにか一人だった。
でも、僕はそれを受け入れた。
慣れると人は一人が楽だ。
わざわざつるんで購買にいく、
わざわざつるんでトイレに行く、
わざわざ遅刻してくる人の席を取る、
わざわざいない人の代筆をする、
わざわざいない人のプリントをもらう、
わざわざテスト前にノートを見せる。
わざわざそんなことをするために友達を作るのか。
そう思い込むことで一人が楽で独りでいいと思った。
3年になって初めてグループワークの
講義を取ってしまった。
簡単に班を作れという教授の頭から毛を毟り取りたくなった。
大学生はみんな友達ではないのだ。
僕は静かに下を向いて対策を練る。
「ねぇ、まだ班決まってないよね?」
顔を上げたら僕に笑顔を向けている人がいた。
周りにいる奴らはなんでそいつを誘うんだという顔をしてるのに。
「決まってないよね」
僕のことを誘ってくれている。
笑顔で。
周り奴らの顔を見てないのか。
「まあ、決まってはいない」
ボソッと言った僕にもう一度笑って、
「じゃあ入りな」
こんなことで僕は満たされるのか。
僕のことが見える人がいたんだ。
そう思った。
なんだ、僕はそこまで強くない。
一人で独りで辛かったんだ。
僕はいつのまにか泣いてしまった。
わざわざ声をかけてくれた人のおかげで。