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悪魔の契約

 
エロイムエッサイムエロイムエッサイム。
 
「……呼んだか?」

「おぉ、ほんとに現れた。思った以上に見た目が悪魔だな。もっとカッコいいもんかと思ったよ。黒いスーツでネクタイをしてイケメンでツノが生えているような」

「なんだそれは。まあいい。俺と契約を結べばお前の望むような能力を与えてやろう。さぁ、何を望む?」

「あれだろ、悪魔の契約だろ。女の裸を見まくりたいと願えば浴槽に生まれ変わるとかそういうの」

「なんだ、知ってるのか。けどそれは下級悪魔レベルだな。能力が低すぎる。喜べ。俺は上級悪魔だ」

「上級ならどうなるんだ? 豪華な浴槽に生まれ変わるとか?」

「阿呆。俺はな、人間の快楽が好みなのだよ。俺と契約するならお前の快楽を一部よこせ」

「一部? それでいいのか? ぜんぶ持っていったりしないのか?」

「すべて快楽を得てしまえば、お前が生きていけんだろうが。お前がいなくなれば快楽を得れんだろうが。俺はな、悪魔であって死神ではないんだぞ」

「それなら命まで取られる心配はないわけだな。わかった。『世界でいちばん面白いと思われる文章を書けるように』してくれ」

「ほう。お前、作家か」

「いや、ちがう」

「ん? なら何故に書くのが上手くなりたいんだ?」

「え?」

「おいおい。作家でもないのに上手くなりたいのか? ならばライターや文筆業か?」

「いや、ちがう」

「変わったやつだな。じゃあなにか? お前は誰にも頼まれてもないし、それで金銭を得ているわけでもないのに、文章を書いているんだな。上手く書けるようになれば快感なのか?」

「まぁ、そうだな」

「……おもしろい。望むようにしてやる。契約は、守れよ」

その日以来、悪魔が私の隣にいる。能力は即身につくものではないらしい。悪魔は私の書いた文章をいちいち「書き直せ。それじゃ甘い」だの「そこの比喩は笑えんぞ」だの「これは誰に向けて書いているのだ?」だのと編集者気取りで指導してくる。はっきり言ってうっとおしい。が、おかげでいくつか公募賞は取れた。私は悪魔と喜びを分かち合っている。
 
#ショートショート
 
 
[画像協力:さちわ]

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