【旅の話】スリランカ③
ホテルで最後の朝食をとる。窓の外ではカンダラマ湖がいつもの朝を迎えている。この景色も見納めだ。ホテルのお土産屋に立ち寄り、館内を散歩して最後の時間を過ごす。スタッフは皆物静かだが話しかければ愉快な時間を過ごせる。本当に心が休まる時間だった。
仏教の教えなのかもしれないが、家の前、寺院、商業施設、とにかく朝からみんな掃除をしていたことにとても驚いた。街中には扇状の箒が沢山売っていた。
ホテルを出た我々は寄り道をしてもらいながら空港へと向かうことにした。キャンディの仏歯寺には行けなかったがせっかくなので寺院には行ってみたい。近くにダンブッラ石窟寺院があるのでそこへ連れて行ってもらった。
金ピカの仏像。派手。とにかく派手。
この旅の最中、大きなトラブルに見舞われることは無かった。それでも小さな事件はいくつもあった。Wi-Fiが使えないこと、ドライバーが来ないこと、裸足で歩かなければならない寺院の床が火傷しそうなほど熱かったこと。そしてその帰りAさんと合流できず、近くにいたスリランカポリスにAさんに電話をしてもらったこと。(Aさんきっと驚いただろうな。) どれも些細なことだった。相変わらずゲラゲラと笑って過ごした。
空港に着く最後までAさんのツアーは終わらない。木彫りのお土産屋に寄り、スリランカ染めの店に寄り、中古バイク屋で本物のHONDAかどうか鑑定させられたり。こうやってみると、とても忙しい行程なのだがどの時間を切り取っても我々はいつも亀のような速度で歩いていたし、のんびりと店先でお喋りをして過ごした。不思議な時間だ。山を抜けて賑やかな街並みが見える。クリスチャンの集う街は鮮やかな電飾に彩られていた。騒がしい音楽が流れて沢山の人達が集まっていた。そしてしっかりフライトに間に合う時間に空港へと到着した。
長距離移動が多くてしんどかった。あちこち連れまわされてしんどかった。運転も荒いし、話聞いてくれないし。そして沢山手助けしてくれるし、色んなことを褒めてくれるし、スリランカのことが大好きだし、困ってる人をすぐ助けるし。
我々はありがとうとAさんにハグして別れた。空港で待つ間、すれ違う色々な国の人を見ながらこの旅のことを振り返る。明日からまた日常が始まる。変わることは何もない。気持ちも、生活も。
そして話は冒頭に戻る。2019年4月21日の真昼間に恐ろしいニュースが入ってきた。その日はACIDMANのライブで開場までカフェで過ごしていた。「コロンボで爆破事件。負傷者不明」そんな見出しを突然目にして、思わず声をあげてしまった。速報はどんどん更新されて事件の規模が浮かび上がってきた。旅行に行った友人とも連絡をとり虚しい気分になった。
みんな無事だろうか。そう思い私はホテルでお世話になった彼に、友人はドライバーAさんに連絡をとった。「ITマネージャー!私だよ!ニュースを見ました。貴方の無事を祈ります。」返事はすぐにきた。幸いダンブッラはコロンボからも距離があり物理的な被害は無さそうだ。SNSやメッセンジャーの利用が制限され、Aさんからは中々返事がこなかった。
こんな気持ちでライブを楽しめるわけもなく、ただ会場の後ろでぼーっとライブを眺めることしかできなかった。宇宙と生命の歌を聞きながら、私はスリランカへ行った最も大きな意味に気が付いた。スリランカは内戦があった。でも今は穏やかな時間が流れている。スリランカは不衛生な途上国だ。でも美しい自然と文化が共存している。スリランカはテロが起きる。でもそこに暮らす人々は優しく思いやりに溢れている。
旅に出る意味は何だろう。
旅で得るものは何だろう。
そうして次の旅を考える。