蒼山プロへのチョンボ裁定には欠陥がある

(この記事は3873字、約8分で読めます。)

こんにちは、夕灘ゆうなだです。

今まさに話題となっている「蒼山プロのチョンボ事件」について、私の意見を纏めました。
あくまで裁定や規則に対する意見であり、今回の当事者各位への批判はありません。

経緯

先日の十段戦にて、蒼山プロがチョンボをし、敗退したとツイートしました。さらに続けて、

蒼山プロはチョンボの内容に言及します。
チョンボの内容なのですが、僕視点で上家の打牌に下家がポンをし、 その声が全く聞こえずツモって打牌。 下家が、いや、ポンなんですけど?ってなって???状態に。 他2人は聞こえていたということでチョンボの裁定でした。 モーションもなければ、声も聞こえなかったので全く防げないって感じです。

このツイートが大きく波紋を広げています。
当人視点だと理不尽な状況であったうえに、
・蒼山プロのツモと打牌を誰も静止しなかったこと
・発声した下家が晒し行為をしていなかったこと

など突っ込みどころ満載な状況。

尚、当の副露者である下家の高村プロは本件について謝罪のツイートをしています。

「この度は自分の所作が不十分であり、防げた事態を引き起こしてしまい大変申し訳ありませんでした。 今後同じ様な事が起きない様、今一度所作を見直していきます。 今後もより頑張りますので、ご指導ご鞭撻と共に、応援していただけたら幸いです。」

このツイートを前に、彼を非難する人はいないでしょう。

この裁定は正しいのか?

さて、今回の裁定に、私は欠陥があると考えています。

まず、チョンボをはじめとしたルールは、不当な手段で誰かが得をしないようにする為に存在します。

例えば、Mリーグでは、故意に山を崩して局の続行を不可能にしてしまうとチョンボの裁定になります。
想定できるケースとして、競っている他家が聴牌模様で、このまま和了られると負けてしまうと考えたプレイヤーが、故意に山を崩したとしましょう。
罰則が無いと、この行為は山を崩したプレイヤーが不当に得をします。

不当というのは、本来競うための試合が、勝つための試合になってしまうという意味です。あくまで競技というのは、ルールに則った範囲で実力を競うために戦うことを言います。その範囲から逸脱した手段で勝利を得るべく行動することは、競技をする目的に反します。

そういった不当な行為の対策として、リターンを上回るリスクを設定することで、抑制します。

競っている相手が加点するかどうかもまだわからない状況より、山を崩しチョンボの裁定を受け、-20pt.のペナルティを受ける方が明確に損です。
これは司法と同じ考え方ですね。

今回のケースを見てみましょう。
もし他家の副露発声が聞こえないと嘘をつき、ツモと打牌をした人が居たとします。これが成立してしまうと、他家の副露をいくらでも防ぐことができてしまいます。
これを防ぐために、今回実行されたチョンボの裁定が存在します。

しかしこの裁定には欠陥があります。
例えば今回の対局がトップ者勝ち上がりで、蒼山プロがトップ目前だったとしましょう。他3者は、どんな手を使ってでも蒼山プロを蹴落としたいと考えます。そして3者は徒党を組み、蒼山プロがツモと打牌をしたタイミングで立会人を呼びます。蒼山プロの下家が、「ポンの発声をしたのに蒼山プロがツモと打牌をした」と虚偽の申告をします。ポンの発声はしていません。
そして他2人が、「ポンの発声は聞こえた」と虚偽の申告をします。
こうして、ノーリスクで不当な手段を用いて、蒼山プロに-20pt.の罰則を与えることに成功します。

実際にこんなことをする人はまずいません。ましてプロには。だから、現状ではツモと打牌をした人にチョンボの裁定が与えられます。しかし競技というのは、こういった『可能性』を残してはいけません。こういった抜け穴は、ルールの欠陥と言えます。

このことについて、連盟の長村プロが言及しています。

文章に起こします。
「あとあれだ、3人が悪意をもって(組んで)やれば〜、ってのはそれはそうなんだけど、それ言い出すとリアル麻雀打てませんてなっちゃうのよ 基本的に麻雀て密室でやってるのと同じだから、悪いことやろうと思えば無限にできる」

これについては仰る通りなんですが、私は今回のケースに限っては対策のしようがあると考えています(後述)。対策のしようがあることは防ぐべきです。

更に、現実的な欠陥を指摘します。

こういった『発声の聞こえた聞こえなかった問題』は多数決で決められることが多いです。
もしあなたが対局をしていて、1名がツモと打牌をし、1名が「ポンと発声したのに無視してツモと打牌をされた」と言い、1名が「この人はポンの発声をした」と言った時、自分にはポンの発声が聞こえていなかったらどうしますか?

正直に申告できますか?
あなたが「聞こえた」といえば、ツモと打牌をした人がチョンボとなります。あなたが「聞こえなかった」と言えば、恐らく発声が小さかったのが悪いとされ、「ポンをした」と主張している人のポンは不成立となります。(声の小さい発声に対して罰則が無いことは、少なくともMリーグでは明文化されています)加えて、対抗した選手に恨まれることがあるかも知れません。あくまでプロですが、瞬間その場がとんでもない雰囲気になる恐れがあります。

このような状況で、「聞こえた」というもう1名に流されず、「聞こえませんでした」と主張できるでしょうか。
あなたはできても、万人ができるでしょうか。

私も普段打っていて、誰かに誰かの発声が聞こえなかったことは多々あります。しかし、聞こえなかった側の人が聞こえなかったと主張しているケースは、一度も見たことがありません。

『流される』からです。「私は聞こえなかったけど、発声あったっぽいな。
他に聞こえた人もいるから、きっと発声していたんだろうな」こう考える人がマジョリティでしょう。
日本人らしさとも言えます。

或いは副露主張者の対面の人だけが、声は聞こえなかったけど口の動きが見えて「副露の発声をしたんだな」と認識できていたら?聞こえていないが副露を認識していた時に、咄嗟に立会人に「聞こえましたか?」と訊かれれば、「聞こえました」と本当にそう思って言うかも知れません。

そして何より、全員が本当のことを言っている場合。

今回の蒼山プロのチョンボは、防ぎようがないでしょう。これがそもそも本件が炎上するに至った根幹でもあります。
全員に聞こえない発声をした選手が罰則が無く、たまたま聞き取れなかった人が大きな罰則を与えられる。こう言い換えると、明らかにおかしな話です。

私は黒木プロのnoteの定期購読者で、様々なことをご教示いただいている立場ではありますが、

「聞こえなかった人に過失があります」

これは有り得ないです。青天の霹靂ですよ、こんなフレーズ聞いたことありますか?

失礼ですけど、普通に生きていたら「聞こえなかった人に過失がある」なんてこと人生で一度も起きませんよ。麻雀に限らずね。「聞こえなかった人が罰せられるって、なんかおかしくない?」となるのが普通です。普通、だと思います。なんの違和感も覚えないのでしょうか?

競技というものは、努力でどうにかできないことが原因となるルール違反に、罰則を与えてはいけないです。
なぜなら、そうして与えられた罰則もまた、不当な損をプレイヤーに与えるからです。
競技___技術を競う上で、こういった理不尽なペナルティは本懐では無い筈です。

周囲の対応は適切だったのか?

言及されている方が多数いらっしゃることですが、そもそもポンの発声が聞こえていたのであれば、他3者は蒼山プロのツモと打牌を止めることができたはず、というものです。

これについてはそんなことは無いと考えていて、ツモと打牌が早ければ2秒もかかりませんから、(例えば空中でツモ切るなど)静止する前に打牌が完了してしまった可能性が想像できます。

副露の規定も不足している

副露にはその手順に規定があります。順に
発声→晒し→取牌→打牌
(時間制限のある場合、取牌と打牌が逆になります)
となっています。

発声については、ポンであればただちに行うものと明文化されていることが殆どです。しかし、晒しをただちに行うようには、記載されていません。
今回のケースでは副露者は発声のみ行い、晒し行為をしていませんでした。ただちに晒しをしなかったことを咎める規定は存在しないんですね。

私は今回のようなケースをケアして、発声と晒しをただちに行うと明文化するべきだと考えます。

こういった裁定にしませんか

では今回、どういった裁定をすれば角が立たなかったのでしょうか。
私は、【罰則なしのポン成立、蒼山プロの見せ牌1枚扱い】が落としどころだと思います。

最高位戦を除き、競技規定には上家の打牌からツモまでの間についての記述はありませんから、早ツモとポン発声が重なるということはたまにあります。こうした時、原則ツモ者がツモ牌を認識してしまっても不問となります。

蒼山プロがツモって牌をみてしまったことは不問とし、切られた牌を1枚の見せ牌とします。

こうすると、前述のあらゆる悪意を持った行為と、各プレイヤーの損得をケアすることができます。

新人獲得への影響

本件を受けて、何より私が思ったことはこれです。

誰もが常に今回のような理不尽なチョンボ裁定を喰らう危険性がある中で、競技に取り組みたいとは思えないでしょう。

新たに連盟プロを目指すアマチュアの方々の為にも、規定の見直しや立会人の判断基準を練り直すべきです。

(了)

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