過去の思い出
私は小さい頃、転勤族だった。
仕事の都合で転々と渡り歩くわけだが、都会に行くことがあれば田舎に行くこともある。
それはそれで楽しい毎日だったと思う。
数年前に私は仕事の関係で北海道に戻ってくる事になった。
と言っても、居住地は転々としているわけでどこが地元と言っていいのかは謎である。
そんな時に仕事で道内を巡ることがあり色々と思い出が蘇ってきた…
昔、沿岸に住んでいた時。
冬は流氷、夏はトドやアザラシなどの海獣が時折流れ着く、そんな海岸線。
ある秋の日。
私は兄とその友達と海岸線を探検隊と称して、練り歩いていた。
そんな時に偵察隊の友人が何かを発見した。
茶色くて大きな物体がゴツゴツした波打ち際に寝そべっている。
あまりの巨体にみんな恐る恐る、近づいていく。
とは言っても、防波堤から覗くのが精一杯だった。
そして、目を凝らす。
そこにはトドが寝そべっていた。
どれくらいの人がご存知かわからないが、トドって恐ろしく大っきくて、怖いイメージ。
絶対死んでるよね?と思っても、なかなか近づく勇気はない。
あの巨大とあの唸り声は小学生の私にとっては恐怖以外の何者でもないのだ。
さて、私の兄は小さい頃からのガキ大将である。
人に任務を授けては、高みの見物タイプ。
早速兄からの指示がとぶわけで…
最初に呼ばれたのは偵察兼任の友人Nくん。
彼は小柄で足が早く、何かと偵察や物見によく駆り出されていた。
早速物見に行かされたNくん。
防波堤から降りて、近づいていく様はまさに勇者そのもの。
だが、波の音なのか、トドの唸り声なのかわからない音に怯えた彼はトドまで辿り着かず。
こうなると、物見役は2人に増える。
私の出番である。
私とNくんは2人で手を繋ぎ防波堤を乗り越えて、トドに近づいていく。
死んでるのか、寝てるのか。
ドキドキしながらゴツゴツした岩場をバランスを取りながら進んでいく。
心臓は爆発寸前。
そんな時である。
トドがヴォウって鳴いたのである。
私パニック、Nくんパニック。
2人で叫びながら岩場を戻るわけだが、足は踏み外すして海水に浸かるし、捻挫しまくるし、ほぼ半ベソ状態だった。
それでもトドはヴォウと叫んでる。
パニックになりながら本隊の兄御一行に目を向ける。
大爆笑してる。
ん???ふざけんな!と助けろよ!と叫びながら、近づくとまだ大爆笑。
何が起こってるのかわからないこちらはようやく防波堤まで辿り着く。
そこで初めて気づいた。
トドの鳴き声は、友人達がトドに石を投げて跳ね返る音だったという事に。
そんな海岸での思い出を綴ってみた✨